第13話 サイレント、冒険者ギルドで愛を叫ぶ……?
2025/3/21 フラットさんのイメージイラストを挿入しました。
(あくまでイメージイラストです)
前回のあらすじ
サイレント、酔っ払いがAランク冒険者だと知って逃げ出そうとする。
サイレント、結果的に酔っ払いを町の警備兵に引き渡す。
ふぅ、冒険者ギルドに到着!
石造りの冒険者ギルドからは明かりが漏れているのを見てボクは一安心する。
どうやら、まだ閉まってはいないようだ。
ボクは一直線にカウンターへと向かった。
「すみません、フラットさん、居ますか?」
「申し訳ございません。僭越ながら、フラットは今、席を外しております」
事務的に丁寧な対応をするカウンター受付嬢。
ボクを見てもバカなサイレントだと揶揄してこないということは、この受付嬢はおそらく新人だろう。
「そうですか」
フラットさんがいないなら、一度出直した方が良いかな……
いや、トイレとか所用とかで、すぐにでも帰ってくるのであれば、出直すのは馬鹿馬鹿しいしな……
頭をポリポリとかきながら、どうするべきかを考える。
「僭越ながら、今日はどういった御用ですか?」
営業スマイルを貼りつけながら、先ほどの女性が尋ねてきた。
「えっと、あの、その、素材を買い取ってもらおうと思って……」
フラットさん以外の受付嬢と話すのは久しぶりだったので、返答につまってしまった。
後から悪いことにならなければいいけど……
「僭越ながら、フラットさんの代わりに、この私、ジューンが買取査定をしましょうか?」
ううっ、まぶしいほどに、私が買い取ってあげますオーラがすごい。
そりゃあ、そうだよね。
交渉して適正価格より安く買い付けることができれば、ジューンさんに手数料が入るんだもんね。
フラットさんだけで、言葉に詰まる冒険者を見たら、鴨がネギを背負ってきたと思うよね。
そうなれば当然、ジューンさんは、チャンスだと思って自分を売り込んでくるよね。
ここは毅然とした態度で断らないと、今後、ボクの担当がフラットさんからジューンさんに代わってしまうかもしれない。
「いえ、あの、買い付けはフラットさんにお願いしたいんです」
「そうですか」
ジューンさんは残念そうにうつむく。
うう、ジューンさんを傷つけてしまった。
心が痛い。
心が痛むけど、フラットさんにお願いするには、心を鬼にするしかない。
「うーん、やっぱり明日にでも出直そうかな……」
ジューンさんの悲しそうな顔を見たくないというのもあるが、そろそろ夜の鐘が鳴る時間だ。
鐘が鳴れば、冒険者ギルドも閉まってしまう。
ギリギリまで粘って、閉館の戸締りを邪魔するわけにはいかない。
「僭越ながら、フラットさんなら、もうすぐ帰ってきますよ」
「そうなんですか。それなら、待たせてもらっても良いですか?」
「はい、もちろんです。その間、僭越ながら、私がいかに信頼できるかを聞いてもらってもいいですか?」
きっと、マニュアル通りの査定をすると宣言し、自分は買取価格を値踏みしないことをアピールするつもりだろう。
ボクはそう宣言されて何度も値踏みされるのを経験しているから、その手には乗らないのだよ。
さて、どう返事をするべきか……
「ただいま戻りまーしたー」
判断に迷っていると、カウンターの奥から聞き慣れた甘ったるい声がした。
「あ、フラットさん、ちょうど帰って来たみたいですね」
「そうみたいですね」
良かった。
全然待つ必要なかった。
「フラット先輩、お客様がお待ちです」
「はーい、ありがとう、ジューンちゃん。今、急いで行きます」
口では急ぐと言いながらも、ゆっくりな動きでジューンさんの隣へと来るフラットさん。
急ぐという文字はどこにも見当たらない。
いや、きっと、フラットさんの中では急いでいるのだろう。
「ああ、サイレントさん。いつもお世話になってますー」
ゆるふわな髪型のフラットさんは、ボクの顔を認識すると、大きな丸眼鏡を両掌でくいっとあげてから、ぺこりとお辞儀をした。
「こちらこそお世話になっています」
頭をぽりぽりと掻きながらボクも挨拶をする。
「いつもギルドが空いている時に来てくれるので助かりますー」
「たまたまですよ、たまたま」
そういえば、いつもボクがギルドに来るときは空いている気がするけど、それは偶然だろう。
「もしかして、また、私を待っていてくださったんですかー?」
小首をかしげてボクに訊いてくる。
「ええ、まあ」
ボクは大きな胸のほうを見ないよう視線を斜め後ろに持っていきながら曖昧に相槌をうった。
「私じゃなくても、他の人でも大丈夫なんですよー。あー、そうだー、練習として、ジューンちゃんに、フラットさんの買取をしてもらうってのはどうかしらー?」
え?
素材の買取をフラットさん以外の人がする?
そんなことはして欲しくない!
「ボクはフラットさん一筋なんです」
「……それは、どうしてですかー?」
フラットさんがゆっくりとした口調で尋ねてくる。
若干顔も赤い気がするが、何かボク、おかしなこと言っただろうか?
「どうもこうも、そのままの意味ですよ。ボクはフラットさん一筋って意味です」
文字が読めずに数も数えられないほど頭が悪いボクでも知っているのだ。
フラットさんは絶対に不正をしないということを。
他の職員だと、なんやかんや難癖をつけて安く買い付けようとする。
しかし、フラットさんだけは安く買わない。
加えて言うなら、フラットさんは、ボクをバカにもしてこない。
だから、買い取ってもらう時は、フラットさんにしようと決めているのだ。
「もうっ、サイレントさんったら、そうやって私にアピールしても、高値はつけませんからねー」
顔を赤らませ、頬を両手で覆い隠しながら話すフラットさん。
あれ? 何かボクやっちゃった?
忙しい人のまとめ話
サイレント、冒険者ギルドに到着する。
サイレント、冒険者ギルドの受付嬢フラットさんに素材買取をお願いする。