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第10話 アリア、川を見る

これまでのあらすじ

 サイレントとアリア、人ジゴクが出てくるのをひたすらに待つ。

 サイレント、大きな岩につまずく。




「何を言っているのアリア、ボクが幻覚の岩につまずくわけないじゃない。最初から岩はここにあったんだよ」



「この場所に岩はなかったデス」

「どうしてそう言い切れるのさ?」


「師匠、ここは、テントの近くデス。テントの近くにこんなに大きな岩があったら気づくデス」

「ああ、確かに」


アリアの言う通りだ。

木々だらけの樹海の中で、テントがたてやすそうな場所があったからたてたんだった。


「つまり、誰かがここに、岩を置いたってこと?」

ボクは暢気に推測をした。


「師匠は全てを分かっていて、場を和ますための発言だとは思うデスが、アリア達は現実を直視しないといけないデス」

「うん、そうだね。現実は直視しないといけないよね」


アリアが何を言おうとしているかは分からなかったが、深刻そうな表情をしたので、ボクはひとまずアリアの言葉をオウム返しした。


「師匠も想像している通り、人ジゴクがみせている幻覚が、ジツゲンゴロウの能力との魔物コンボによって、本物に変わっているデス」

「それって、つまり……」


どういうこと?


「そうデス、もともと樹海だったこのフィールドも、今や、砂漠地帯に変わっているってことデス」

「なるほど」


焦るアリアの態度を見ながら、ボクは頭の中で今置かれている状況を整理する。

えっと、今、この砂漠はジツゲンゴロウのせいで幻覚ではなく、本物だということでしょ?


食料も水も確保できないってことでしょ?

それって、つまり……最悪じゃん!!

どうするの、これ?


「さすが、師匠。現実を受け止めても冷静沈着そのものデス!!」

「ま、まあね。ボク位になると、食料も水も確保できない状況なんて、たいしたことじゃないのさ」


たいしたことだよ。

どうすんの、この状況。


「さすが師匠デス。食料も水も確保できないけど、どうするデスか?」


こっちが訊きたいよ。

砂漠地帯に運よくオアシスなんか見つからないだろうしね。


「こうなったら、死んだふりをし続けて、ボクたちが栄養失調で意識を失う前に人ジゴクが出てくるのを祈って出てくるのを待つしかないね」


「なるほど、こういう時こそエネルギーを無駄にしないで、ただただ魔物を待つという原点に戻るということデスね」

「その通り」


……というより、それ以外、ボク達にできることなんてないんだから。


ボクとアリアは砂の上にまた横になった。


…………

……


照り付ける太陽がじりじりと暑い。

もう一度砂の上に横になって、もう、どれくらい経ったのだろうか?


汗は滝のようにダラダラと額から流れ落ち、喉もカラカラだ。


ボクは日ごろから鍛えていて飲まず食わずにも慣れているから、まだ、何日かは大丈夫だけど、アリアは今までお嬢様だったから、この過酷な環境には対応できないかもしれない。


「アリア、大丈夫?」


ボクは声をかけていた。


「師匠、アリア、のどもカラカラで、声も出なくなってきたデス。もう、ダメかもしれないデス……」


ボクはアリアの顔を覗きこむ。

顔は赤く、唇がかさかさになっていた。


脱水症状だ。


まずい、このままだと、アリアの命が危ない。

水を飲ませなきゃ……と思うのだが、すでに水筒の中は空だ。


今のボクには何もできない。


「アリアは魔王を倒すんだろ? それまで弱気になっちゃダメだ」

ボクがしたことはアリアを励ますことだけだった。


「魔王は、師匠に倒して欲しいデス」

「ボクじゃ無理だ。アリアが倒すんだ」

ボクの実力じゃ勝てるわけがない。


「……師匠、アリアはもうダメみたいデス。アリアが死ねば、人ジゴクがすぐにでも出てくるはずデス。そこを狙って師匠だけでも生き延びて、魔王を倒してください……デス」


アリアが言い終えた時、確かに近くで何か生き物の気配がした。


「縁起の悪いことを言うんじゃない、アリア。絶対に助けるから!!」

気配に気づいていながらも、ボクは叫んでしまった。


「師匠、そんなに大きな声を出したら、人ジゴクは出てこなくなってしまうデス」


しまった。

冷静さを欠いた。

確かに、アリアの言う通りだ。


先ほど一瞬だけ感じた生き物の気配は、もしかしたら、人ジゴクが地上に出てきたものかもしれなかったのに……


一人で獲物を待つ時なら、叫ぶなんてミスを犯さない。

ボクはどうやら、アリアとパーティーを組んだせいで、弱くなってしまったみたいだ。


「くそっ、何もかもボクのせいだ」


ボクは悔しさのあまり、ダガーを抜いて地面に刺した。

ダガーが地面に刺さった瞬間、パンッと乾いた破裂音。


周りの空気が変わった気がした。


「師匠!!」


アリアが大声でボクを呼び、立ち上がる。

もう、のどもカラカラなのに、もしかして、いまわの遺言でも残そうとしているのだろうか……


「どうしたの、アリア?」

「川が見えるデス」


アリアは言いながらボクとは反対の方へ指を指した。

何を言っているんだ、アリアは。

ここは人ジゴクの幻覚で砂漠地帯なんだから、川なんかないんだよ。


はっ、もしかして、三途の川か?

死にかけている時に見るという、三途の川なのか?


アリアはお迎えが来てしまうのか?


「川なんかどこにもないんだよ、アリア」

ボクは涙をこらえながら優しくアリアを諭した。


「何を言っているんデスか、師匠、そこに川はあるんデス」

間違いない。

アリアには本当の幻覚が見えているんだ。


「ボクにはそんな川、見えないから」

ボクは目を背けた。


「そんなはずないデス。ほら、そこにキレイな川があるデス。師匠にも見て欲しいデス」

アリアは両手でボクの頬を持ち、力ずくで川のある方だという方向へ変えさせる。


「ボクは絶対に見ないからね」

今度はぎゅっと目を閉じた。


忙しい人のためのまとめ話

 アリア、脱水症状になった後、川を見たので、サイレントに伝える。

 サイレント、川を見ようとしない。


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