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第9話 サイレント、つまずく

これまでのあらすじ

 サイレントとアリア、人ジゴクが出てくるのを待つが、出てこない。

 サイレント、自分が逃がした羽虫が人ジゴクだったことを知る。



 


「師匠、エア武者震い大会って何デスか?」


 えー!?

 アリア、そこを深堀するの?


 流そうよ。

『へー、そうなんデスねー』くらいの軽いノリでさ。

 掘ったところで何にも出ないんだから。


 だけど、掘られたならしょうがない。

 エア武者震いの大会の話なんて広がらないだろう、適当にこたえちゃおう。


「エア武者震い大会っていうのはね、魔物に襲われていないのに、まるで強い魔物に襲われているかのようにふるまって、武者震いをする競技なんだよ」

 適当にこたえるボク。


「世界は広いデス。そんな競技があるんデスね」

 目を輝かせるアリア。


 うう、ボクの良心が痛む。


「そうなんだよ。毎年、エア武者震いを練習をしている猛者が世界にはたくさんいるからね」

「そうだったんデスね。今年の世界大会はどこで開催されるデスか?」


 まずい、ボクはカバッカ町とホバッカ村しか知らないから適当にはこたえられないぞ。


 カバッカ町とこたえれば、カバッカ町に住んでいたアリアが知らないはずないし、かといって、ホバッカ村じゃ、村としての規模が小さすぎて世界大会なんか開けないだろうし……


 架空の町や村の名前を出せば、物知りのアリアの前でボロが出てしまうだろう。


「アリア、今は武者震いの大会がどこで開催されるかよりも、目の前の人ジゴクを何とかしないといけないよね?」


 ボクは無理矢理話題をそらした。


「そうでした。人ジゴクをはやく何とかしないとデス」


「でも、焦ったら、人ジゴクは出てこないよね?」

「そうデスね、焦ったら、きっと出てこないデス」


「こうなったら根競べだね」

「そうデスね」

 良かった、何とか話題を逸らすことができたぞ。


「安心して、アリア。根競べなら自信があるんだ」

 魔物を安全に暗殺するためだけに何日も飲まず食わずなんてこともあったしね。


 …………

 ……


「死んだふりをし続けて、もうすぐ7日デスね」

 アリアが呟いた。


「そうだね」


 7日という期間はどれ位かわからないけれど、ボクはとりあえず同意する。


「スケアード・スライムも1匹も出てこなくなったデスね」

「そうだね」


 魔力切れでも起こしたのだろうか、スケアード・スライムはあれから全くでてこなくなった。


「全然出てこないデスね、人ジゴク」

「そうだね。でも、何か視線を感じるから、きっと、土の上の方までは出てきているんじゃないかな?」

 体は土の中で、目だけを地面に出しているとか。


「人ジゴクにそんな器用な真似はできないデス」

「あ、そうなの。それじゃ、やっぱり、ボク達と根競べしているんじゃないの?」


「7日は長すぎデス。致命傷でも負ってない限り」

「そっか」


 本体を手で捕まえただけで、さすがに、致命傷とまではいかないだろう。


「もしかしたら気づかないところで、人ジゴクに直接触ったのかもしれないデス」

「触ると何かあるの?」


「人ジゴクにとって、人間の体温は高すぎるデス。皮膚に触れただけで大やけどデス」

「なるほど、皮膚に触られただけで、大やけどか……」


 うん、間違いなく、大やけどしているな。

 捕まえちゃったもの、人ジゴクを。


「もしも、大やけどを負ったら、どうなるの?」

「大やけどが治るまで、地中にいるデス」


 はい、やっちゃった。

 ボクのせいだ。


「あのさ、アリア、そろそろ死んだふりするのをやめない?」

 きっとまだ、出てこないだろうから。


「あと、もうちょっと頑張るデス」

「でもさ、アリア、もう水も食料も底をつくよ」


 死んだふりをし続けている間、人ジゴクに気づかれないよう、ちびりちびりと食料や水を摂取していたが、もうそろそろ補充しないといけない。


「アリア、まだ頑張れるデス!!」

 ……とアリアが行った瞬間、アリアのお腹がくーと鳴った。


「アリア、体は正直みたいだよ」

 ボクの言葉に顔を真っ赤にするアリア。


「…………食料を探しに行くデス」

 アリアは立ち上がった。


「それがいい」

 ボクも立ち上がり、辺りを見回す。


「ねえ、アリア。確認なんだけど、ボク達って、樹海に迷い込んだんだよね?」

「確かに樹海に迷いこんだデス」


「それならさ、何で何も植物がないのさ?」


 周りは木どころか、ぺんぺん草の1本も生えていない。

 あるのは、ごつごつとした岩と、砂のみ。


 これは、もはや砂漠地帯と言っても過言ではない。

 これは一体全体どういうこと?


「これは、人ジゴクの仕業デス。アリア達を逃がさないためだけに、砂漠地帯の幻覚をみせているのデス。動くスケアード・スライムと違って、動かない風景なら消費魔力は少ないはずデスから」


「なるほど、この砂や岩は幻覚というわけか……って、これ、食料をどうやって手に入れるのさ?」


「大丈夫デス、師匠。幻覚はしょせん幻覚。実際に手を突き出して歩いていれば、いずれ、大木に手がぶつかるはずデス。師匠が空中で立ったみたいに」


「あ、そっか。ボク達が見ているのは幻覚で、実際にそこにある植物が消えたわけじゃないんだ!!」

「その通りデス」


 それなら、すぐにでも、水と食料を確保してやるぞ!!

 気合に満ちたボクはすぐさま両手を出し歩き始める。


 すぐにでも、何かにぶつかるだろう。


 どんっ。


 大きな岩につまずいた。


「いたたたた……岩につまずいちゃったよ……」

 久しぶりに立ったせいだろうか、よろけて岩にぶつけてしまった。

 まあ、何日も横になり続けていたんだ。

 ぶつけることもあるよね。


「おかしいデス、師匠」

「もう、岩につまずいたからって笑わないでよね」

 まったく、アリアは人の不幸を笑うなんて、師匠として許しませんよ。



「そのおかしいじゃないデス。変っていう意味デス。師匠が幻覚の岩につまずいたので変だって言っているんデス」


忙しい人のためのまとめ話


 サイレントとアリア、人ジゴクが出てくるのをひたすらに待つ。

 サイレント、大きな岩につまずく。


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