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第8話 サイレント、後悔する

これまでのあらすじ

 アリア、サイレントに人ジゴクもジツゲンゴロウもFランクだと説明する。

 サイレント、ショッキング・ピンクの羽虫を逃がす。





 

「師匠、新しいスケアード・スライムの幻覚が見えないということは、人ジゴクは魔力切れを起こしている可能性が高いデス。死んだふりをしていれば、土の中から人ジゴクが出てくるかもしれないデス」


「分かったよ。死んだふりだね」


 ボクとアリアはその場で横たわり、死んだふりをする。


 …………

 ……


 しーん。


 しばらく待つが、何も起こらない。


「人ジゴク、出てこないね」

 いつものボクなら、一人でじっと獲物を待っている時は何時間でも待てるのに、どうして、近くに人がいるだけで、耐えきれなくなって、アリアに話しかけてしまっていた。


「そうデスね。何も出てこないデス。一度出てきてもよさそうデスのに……」

「出てきてもおかしくないのに、出てこないってことは、人ジゴクはもう死んじゃったんじゃない?」


 死んでしまったから土の中から出てこない。

 うん、あり得る話だ。


「もし、死んでしまったのだとすれば、周りの幻覚は解除されるはずデス」

「あ、それもそうか」


「人ジゴクは気配察知でもなかなか見つからない小さい魔物なので、見落としているかもしれないデス」

「どれくいらい小さいの?」


 実際に本物を目にしたことのないボクはアリアに尋ねた。

 目視できないほどの小ささなら、ボクの気配察知でも見つけられないかもしれないしね。


「見た目はただの羽虫デス」

「羽虫なら目視はできるよね?」


「そうデス、できるデス」

 アリアはコクリと肯いた。


「目視できるなら、見落とすわけないよ。でも、羽虫程度の大きさか……それなら、見ただけじゃあ、他の虫と区別がつかないね」


「いいえ、見ただけで分かるデス」

 アリアは首を横に振った。


「なんで見ただけでわかるのさ?」

「人ジゴクはショッキング・ピンク色をしているからデス」


「そっか、ショッキング・ピンクの羽虫なら、一発で分かるね……ん? ショッキング・ピンク?」


 あれ?

 それって、さっき見たような……


 いやいや、さっき捕まえて潰そうとした虫が、人ジゴクなんて偶然あるわけがない。


「そうデス。人ジゴクはショッキング・ピンク色の羽虫デス」

「もしかしてだけどさ、人ジゴクって、飛ぶの遅い?」


「そうデスね、遅いデス。基本は地中に潜っていて、人が弱ったころを見計らった頃にだけでてくるので、素早さを必要としない魔物デスから」


 絶対にさっきいた虫だ!!

 もしかして、ボク、最大のチャンスを逃しちゃった?


 しかも、元気に生きるんだぞ……って、声援まで送っちゃったよ。

 何をしているんだ、ボクは。


 何であの時に握りつぶさなかったんだ……

 ものすごく後悔…………いや、待てよ。


 そもそも、人ジゴクは、そんなに手で握りつぶしても良い魔物だったのか?

 ボクの予想通り、毒がある魔物なんじゃないか?

 よし、アリアに怪しまれないように、それとなく聞いてみよう。


「そんなに目立つ上に速さも遅い虫ということは、毒を持っているとか、防御力が高いとか、特殊な魔物なんじゃない?」


 ボクはアリアにそれとなく、人ジゴクについて尋ねる。

 せめて倒しにくい魔物であってくれ!!

 お願いだから。


 そうでないと、ボク、気まぐれで目の前にいた人ジゴクをみすみす逃がしただけになっちゃうよ。


「毒はないですし、特殊でもないので、蚊やハエのように、手で潰しても問題ないデス」

 はい、人ジゴク、みすみす逃しただけでした。


「そうなんだ……」

 激しく落ち込もうとしたボクの脳裏に一つの考えがよぎった。


 またすぐにでも出てくるんじゃないか?

 そうだよ、ボクが寝ている時には、テントの中にも出てきたし、さっきも出てきた。


 土の中から何度も繰り返し出てきているんだから、次にノコノコと出てきたところを倒せばいいんだ!!


「アリア、人ジゴクって、頻繁に人間の様子を見に来るの?」


「頻繁かどうかは分からないデスが、人ジゴクは、まず人間に接触して、幻覚をみせるための記憶を引き出した後、土の中に逃げ帰ってから、魔法を使って幻覚をみせるデス。その後、弱ったころを見計らって、土の中から出て様子を探るデス」


「もしも、様子を探っている時にピンピンしていることが分かったら、人ジゴクはどうするの?」

「地中に潜るデス」


「へー、そうなんだ。地中に潜られたら、ボクの気配察知も使えないから、どこに人ジゴクがいるかは分からないな……ちなみにどれくらい潜ってるの?」

「それは獲物が弱るまでデスから、何日も潜ることもザラデス」


 はい、やっちゃいました、ボク。

 人ジゴクを倒すチャンスを不意にしました。

 何をやってるんだ、ボクは。


「あのさ、助けた人ジゴクが恩返しにきてくれたなんてことある?」

「人ジゴクの好物が人のお肉デスので、人ジゴクが恩返しするなら、人間を食べた後くらいだと思うデス。デスので、生きているうちに恩返しをすることはないと思うデス」


 そうですよね。

 なんとなく、分かってたよ。


 このままだと、Fランク相手に負けて、死んじゃいました……なんてことになっちゃうよ。

『バカなサイレント、Fランクの魔物に負ける』……うん、号外の新聞が出てもおかしくないね。


 いやだ、死んだ上に、恥まで晒すなんてことしたくないよ。


「師匠、どうしてそんなに冷や汗をかいているデスか?」

「こ……これは、武者震いだよ」


「Fランクの弱い魔物相手に師匠が武者震い? おかしいデス。何か隠しているんじゃないデスか?」

 まずい、アリアがいぶかしんでいる。


「アリア、正直に言うよ。実はね……ボク、エア武者震いの世界大会に出ようとしているんだ」

 ボクの口からでてきたのは、正直な言葉とは真逆のでまかせだった。

 本当のことなんか言えるわけがない。


忙しい人のためのまとめ話

 人ジゴクが出てこない。

 サイレント、自分が逃がした羽虫が人ジゴクだったことを知る。

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