表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/372

第3話 サイレント、跳ぶ

これまでのあらすじ

 アリア寝ずの番をするので、サイレントに眠るよう言う。

 アリア、寝ずの番中に眠ってしまい、魔物に囲まれる。





「外に大量のスケアード・スライムがいたね。もはや、スケアード・スライムの森と言ってもいいくらいだね」

 テントの中に戻ったボクはニコニコ顔でアリアに伝える。


「そうデスね。とても大量にいたデスね」

 アリアも爽やかな笑顔で応えてくれた。


 …………


「どうして気づけなかったの!?」

 ボクは涙目でアリアを責める。


「ごめんなさいデス。スケアード化した魔物だけは気配察知にひっかからないんデスから」

 涙目でこたえるアリア。


 そうだった。

 スケアード化した魔物は、気配察知に引っかからないんだった。


 アリアを責めるのはお門違いだ。


「アリア、テントを捨てて、今すぐ逃げよう」


 ボクは、テントの中に居たアリアに逃避行宣言をする。



「師匠、長年使っている愛着のあるテントを捨てるんですか?」


「そうだよ。テントよりも命の方が大切だからね。テントなんか捨ててはやく逃げないと!!」


 以前、大量のスケアード・スライムに追われていこともあるが、その時の量よりも多い。

 Fランクのボクと冒険者駆け出しのアリアが敵う相手じゃないだろう。

 ……ということは戦う選択はあり得ない。


 逃げる一択だ。

 はやく逃げないと。


「分かったデス」


 ボクはアリアの同意を得てから、アリアをお姫様抱っこしてテントから出ると、周囲を見回してから、スケアード・スライムが一番少ない方へと走り出す。

 しかし、すぐにスケアード・スライムが立ちふさがった。


「ここが一番少なかったのに……」

「このままだと、戦闘はさけられないデス」


「戦闘? それはできないね」

「それならどうするデスか?」


「こうするんだよ」

 ボクはアリアをお姫様抱っこして、思いっきりジャンプをした。


「さすが、師匠! 走り幅跳びなのに、大木よりも高く跳んでいるデス。これなら逃げ切れるかもしれないデス」


 そう、スケアード・スライムは空を飛べない。

 さすがにこんなにジャンプしたら追いつけないだろう。


 さあ、ここから全力で走り切れば、逃げ切れるぞ!!

 ボクは着地すると、目の前にスケアード・スライムの姿があった。


「え? 何で目の前にスケアード・スライムがいるの?」

 ジャンプして振り切ったはずなのに……


「あれは……」

 アリアは何かに気づいたみたいだ。


「どうしたの、アリア?」

「師匠、さっきのジャンプをもう一回できるデスか?」


「もちろん、できるよ」

「それなら、あっちにジャンプして欲しいデス」


「あっちって、スケアード・スライムがうじゃうじゃいるけど……」

 正直、魔物の群れに自分から跳びこむようなことはしたくない。


「お願いするデス」

「分かったよ」

 ボクはしぶしぶ承諾すると、すぐにアリアの指さす方向へとジャンプした。


 今度は、スケアード・スライムは追ってこなかった。

「さすがはアリア。スケアード・スライムのいない方向が分かっていたんだね。よし、このまま逃げ切ろう!!」


 ボクは足に力を入れた。


「違うデス、師匠」

「違うって何が違うの?」


「師匠、これ以上逃げちゃダメなんデス!!」

 お姫様抱っこされたアリアが叫んだ。


「どういうこと?」

 聞きながらボクは脚を必死に動かす。


「脚を止めて……ってことデス」

「何でさ?」


「それは、戦っている相手はスケアード・スライムではなくて、『人ジゴク』だからデス」

「戦っている相手が『人ジゴク』?」


 まったくもってアリアの言っている意味が分からない。

 さっきまでいた魔物は紛れもなくスケアード・スライムじゃないか。


「師匠、アリジゴクは知っているデスか?」

「うん、地面に罠を張って、アリを食べる虫でしょ?」

 それくらいならバカなボクでも知っているよ。


「そうデス。そのアリジゴクの突然変異が『人ジゴク』なんデス」

「そっか、アリジゴクの突然変異か……って、ちょっとまって。もしかして、ボク達、アリジゴクみたいに地面に沈んでるってこと?」


 ボクは走りながらも脚元を見る。

 見た目では沈んでいるようには見えないけど……


「いいえ、アリジゴクみたいに沈まないデス」

「なんだ良かった。もう、アリア、驚かせないでよ」

 ほっと胸をなでおろした瞬間、目の前にスケアード・スライムが現れた。

 それも大量に。


「うわっ、こんなに逃げたのに、まだスケアード・スライムがいるの?」

「それはそうデス。師匠の脚がどんなに早かろうと、スケアード・スライムは追ってくるデス」


「どうしてさ?」

「師匠、人ジゴクは、地面に罠をはるのではなく、人に幻覚をみせたり幻聴を聴かせたりする魔物なんデス」


「幻覚や幻聴だって!?」

「そうデス。その証拠に、目の前にいるスケアード・スライムは幻覚デス」


「このスケアード・スライムが幻覚? そんなはずないよ。だって、前に見たスケアード・スライムそのものだよ」

「そのスケアード・スライムに攻撃して見てくださいデス」


「攻撃だって? でも、今はアリアを抱っこしているから、手は塞がっているしな」

「足で良いデス。蹴ってみてくださいデス」


「うん、分かったよ」

 ボクはアリアの言われるまま目の前のスケアード・スライムを足で蹴る。


「あれ? 感触がない……」

 スライム特有のぽよんとした感触が返って来るかと思ったが、空を蹴った感覚しかない。

 それどころか、スケアード・スライムは消えてしまった。


「幻覚デスから」


 なんてこった。

 ボクはいもしない魔物に怯えていたのか……


「なーんだ。それなら怖れる必要はないじゃないか」

「だから立ち止まってくださいデス」


「それなら、逆でしょ、アリア。人ジゴクから距離をとって、幻覚から抜け出したほうがいいよ」


 人ジゴクの危険度ランクは正確には分からないけど、スライムよりは高いはずだ。

 そんなの相手にしていられない。

 足場に特に変化がないというのであれば、走るなりジャンプするなりして、幻覚の効果が及ばないところまで逃げたほうが安全だ。


「逃げるのは得策じゃないデス」


「なんでさ?」

「人ジゴクはうまく幻覚をみせて、同じところをぐるぐると回らせているデス」


「それなら、同じ方向にジャンプすればいいじゃないか」

「ジャンプしても、幻覚で着地地点をコントロールされるデス」


「なんだって!?」

「その証拠に、師匠はだいぶ走ったはずなのに、うまくスケアード・スライムの幻覚をみさせられて、結局元の位置に戻ってきているデス」


「元の位置に戻ってる? そんなわけないよ。ジャンプもしたし、走りもしたんだから」


 まったくアリアは何を言っているんだ。

 ボクが元の位置に戻っている?

 あり得ないね。


「アリア、お姫様抱っこされている時に、気づいてしまったんデス」

「何に気づいたの?」


「あれデス」

 アリアが指を指す方向をボクは見た。


「あれって、ボク達が置き去りにしたテントじゃないか!!」

「そうデス。つまり、師匠は魔物と距離をとったと思い込んでいるだけで、実際は同じところをぐるぐると回っていたんデス」


「いやいや、そんなことないよ。これも人ジゴクとやらがみせている幻覚だよ」


 言いながら、ボクはテントを触る。

 確かにテントの感触がした。


「ごめん、アリアの言う通りだね」

 どうやら、ボクは人ジゴクの手の平の上で踊っていたようだ。

 ボクは素直に謝って立ち止まった。


忙しい人のためのまとめ話

 アリア、対戦相手がスケアード・スライムじゃなく、人ジゴクだと指摘する。

 サイレント、人ジゴクの手の平の上で踊っていたことを知る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ