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第2話 サイレント、眠る

これまでのあらすじ


サイレント、ホバッカ村から逃げて、道に迷う。

アリア、テントをたてようと提案する。





 アリアが既に気配察知をしたみたいだけど、念のためにボクも辺りの気配を探っておこう。

 アリアの言う通り、羽虫はいるけど、ボク達に危害を加えそうな生き物はいなさそうだ。


「よし、周りに魔物はいないようだ。マジック・バック」


 ボクは魔法を使ってテントを取り出す。


「さすが師匠。マジック・バックに、テントをそのまま入れているので、組み立てる必要がないデスね」


「まあね、忙しい冒険者の時短テクニックなんだよ」


 ボクの頭が悪すぎて、テントを組み立てたり、収納したりすることができないから、そのまま出し入れしているということは言わない方が良いだろう。

 バカだと思われないために。


「それにずいぶんと年季が入っているデス」

「愛用品で、ずっと、付き合いが長いからね」


「なるほど、愛用品ということは、師匠はこのテントに愛着があるデスね?」

「愛着があるかどうかはともかく、冒険者になりたての頃からずっとお世話になってはいるよ」

 新しいテントを買うお金がもったいないから、ずっと古いのを使っているだけだけどね。


「お邪魔するデス」

「どうぞ」

 アリアがテントの中に入ったので、ボクも中に入った。


「拠点も確保できたし、さて、何をしようか?」

 お腹もすいているし、やはり食事の準備か?


「師匠はまず、眠るといいデス」

「え? 今から?」

 眠るには早い気がするけど……


「今デス。師匠、眠そうデス」

「そんなわけないでしょ!! 人狼と戦って、体はボロボロなんだから……って、ボク、体ボロボロじゃないか!!」


 疲労感が半端ないんですけど。


「そうデス、師匠は体ボロボロなんデス。その上、休みなしでアリアを抱えながら夜になるまで走ったんデスから疲れているはずなんデス」


 そっか、ボク、朝からずっと動き続けていたから疲れているんだ。


「よし、アリアがそう言うなら寝ようかな……」

 アリアの寝言と魔王に対する殺気で熟睡はできないだろうけど……

 まあ、仮眠くらいならとれるだろう。


「それがいいデス」

「あ、でも、少し不安があるんだよね」


「何デスか?」

「周囲の警戒だよ。体力がある時は寝ながらでも魔物の気配は察知できるけど、今は体力がないから、警戒できないかもしれないんだ」


「それなら、師匠が起きるまでずっと、アリアが寝ずに警戒するデス。師匠より警戒の精度は落ちるかもしれないデスが、頑張って警戒するので、安心して眠ると良いデス」

 え?

 それって、一緒に寝ないってこと?


 つまりは、アリアの寝言と殺気を気にせずにゆっくりと眠れるということだ。


「いや、それは悪いよ」

 ……と口で言いつつ、ボクは心の中でガッツポーズを決める。

 やっほーい。

 安眠できる。


「そんなことないデス。アリアに任せるデス」

 アリアは、ぽんと自分の胸を叩く。


「それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

「それがいいデス」

 ボクはマジック・バックの魔法を使って空から取り出した寝袋に身を包む。


「師匠」

「どうしたの、アリア?」

 まさか今更、『やっぱりアリアも一緒に寝るデス!!』とか言い出さないだろうな……


「寝袋だけじゃ熟睡できないと思うので、アリアのひざまくらで眠ると良いデス」


 ひ……ひざまくらだって!?

 それはつまり、アリアの膝の上に頭を乗っけるということ……だよな……


 アリアのひざの上でゆっくり眠れる……

 ボクはごくりと生唾を飲み込んだ。


 いや、ダメだ。

 アリアにひざまくらしてもらったことが院長先生にバレてしまったら、ボクは殺されてしまう。


「ありがたい申し出だけど、断るよ。もしも、魔物が襲ってきたときに、ボクがひざまくらをしていたせいで、アリアのひざがしびれてしまって、逃げ遅れたなんてことになったら、悔やんでも悔やみきれないからね」


 目の前にあるひざまくらを前にして、なんで格好をつけてひざまくらを断っているんだ、ボクは。

 本当にバカだ。

 今まさに、悔やんでも悔やみきれない気持ちでいっぱいだよ。


「師匠……そんなにもアリアのことを気遣ってくれているんデスね。アリア感動したデス」


「いやいや、こんなの普通だよ」


 未だに後悔しっぱなしだけど、アリアの信頼を得たから良しとするか……


「それじゃあ、アリア、警戒よろしくね」

「分かったデス」


 アリアに頼むと、ボクはその場でゴロンと横になった。


 …………

 ……



 ぷーん。

 耳元で羽虫が飛ぶ音がした。


 ボクはすぐさま、気配察知で周囲の気配を探る。

 うん、麦粒くらいの小さい羽虫だ。


 蚊だろうか?

 蚊にしては飛ぶ速さが遅い気がするが……


 ボクは目を閉じたまま、羽虫の気配がする場所を手で追い払うと、羽虫はテントの外へと飛んでいった。

 まったく、人がせっかくぐっすりと眠っているんだから、邪魔しないでよね。


 もう一度ボクは深いまどろみへと……

「おのれ、魔王!!」


 まどろみへと落ちれなかった。

 これって、アリアの寝言じゃないか。


 ちょっと待って、アリアが寝てるってどういうこと? 起きているって言っていたのに……


 まさか、魔物が魔法を使ってアリアを眠らせたのか?

 あるいは、カバッカ町かホバッカ村からの刺客ということもあり得る。


 ボクは飛び起きて、すぐさま辺りの気配を探った。

 人の気配はない。

 生き物は、さっき出て行った羽虫くらいしか周りにいなさそうだ。


「アリア、起きて」

 ボクは警戒を怠らずに、アリアを起こす。


「ふわぁ、朝デスか?」

 アリアは寝ぼけていた。


「アリア、どこか怪我はしていない?」

「怪我デスか? していないデス。でも、なんでそんなことを訊くデス?」

 アリアは自分の体を見回しながらそう答えた。


「アリアに寝ずの番を頼んだはずなのに、アリアが寝ていたから、もしかして、誰かの襲撃かな……と思ってね」

「そうでした! アリア、寝ずの番をする予定だったんでした! すみません、師匠。アリア、いつの間にかうたた寝をしてしまったみたいデス」


 よかった、うたた寝か。

 魔物に襲撃されたわけではなかったんだ。

 ボクはほっと胸をなでおろす。


「きっと、アリアも疲れていたんだよ。仕方ないさ」


 そうだよ。

 アリアだって、ホバッカの村で、人狼と戦ったんだ。

 疲れていても全然おかしくない。


 アリアのことを気遣えなかったボクのミスだ。


「よし、アリア、よく眠れて体力も回復したことだし、魔物に襲われる前に移動をしよう」

「せっかくの拠点を作ったのに、移動するデスか?」


「そりゃあ、そうだよ。同じところにとどまり続けていると、魔物に狙われやすくなるからね。魔物に狙われる前に移動するのがセオリーなんだよ」

「なるほどデス」


「ところで、師匠……」

 アリアは言いながらテントの出入り口から外へと出た瞬間、テントの出入り口を閉めて、テントの中に戻ってきた。


「どうしたの、アリア?」

 これから移動をしようっていう時に何で戻って来るんだよ。


「移動しようとしたら、既に超大量の魔物に囲まれていた場合はどう対応するデスか?」


「ボクの気配察知があれば、超大量の魔物に囲まれる前に気づくから大丈夫」

 そう、ボクの気配察知は羽虫さえ感知する、超一流のスキルなのだ。


 ボクはアリアにそう告げてから、アリアが出たようにテントの出入り口から外に出る。


 テントの出口を抜けると、そこには超大量の魔物がいました。


 おのれ、スケアード・スライム!!


忙しい人のためのまとめ話


アリア寝ずの番をするので、サイレントに眠るよう言う。

アリア、寝ずの番中に眠ってしまい、魔物に囲まれる。


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