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第1話 サイレント、走る

 

「走れ、走れ、走れ!!」

 ボクはアリアをお姫様抱っこしながら走っていた。


 はぁ、はぁ、はぁ――

 ずっと走りぱなしだったせいだろうか、息が苦しい。

 それになんだか、頭がぼーっとしてきた。


「ところで、アリア、なんでボク、こんな夜の獣道を走っているんだっけ?」

 ボクは息切れをしながら、疑問をアリアにぶつける。


「先ほどまでいたホバッカ村で、村に侵入した魔物の一味だと疑われ、その疑いを晴らすために捜査までして、本物の魔物を見つけて無実を証明したにも関わらず、師匠は魔物だと嘘をついて、ホバッカを飛び出した後、誰かがあとからつけていると気づいて、それを振り切るために走っているデス」


「そうだ、誰かにつけられている可能性が高いと思って、アリアをお姫様抱っこして、走っていたんだった!!」


「師匠、降ろしてくださいデス。もう気配はないので、大丈夫のはずデス」


「あ、そうだね。気配はないもんね。一安心だよね。安心、安心……ところでアリア、ここはどこ?」

 アリアを降ろしたあとボクは尋ねる。


「分からないデス」


「そうだよね」


 うん、知ってたよ。

 アリアはカバッカ町から出たことのない温室育ちのお嬢様だから、こんな獣道を知らなくても全然不思議じゃないよ。


「師匠、ホバッカ村で地図は買ってなかったデスか?」

「そんな時間はなかったからね」


 なかったというよりは、自分から手離したと言った方が正確かもしれないけど。


「もしかして、アリア達、また迷子デスか?」

「奇をてらわずに言うなら、また迷子だね」


「迷子ということは、師匠、もしかして、アリアに冒険者の資質があるかを試しているんデスか?」

 アリアは目を輝かせながら訊いてくる。


「え? あ、うん、もちろんだよ」


 アリアを試そうなんて気持ちはこれっぽちもなかったけど、アリアが眩しいほどに目を輝かせているのだ。

 そういうことにおしておこう。

 アリアを傷つけないために。


「地図がなく、目的地も分からない状況なら、人に訊くのが一番だと以前のアリアならこたえていたはずデス」


「ほう、今のアリアなら、そうこたえないの?」

「当然デス。ここは樹海の中で、全然人がいないデス。人に訊くことができないデスから」


「確かに、人に訊くことはできないね。それならどうするの?」


 そう、ボクがホバッカ村から逃げ出した時に、人気のない茨道を選んでしまったのだ。

 こんなところに人はいやしない。


「救難狼煙をあげて人を呼ぶとこたえたはずデス。昔のアリアなら」


「そのこたえも違うと?」

「そうデス。アリア達は追われている身デス。ホバッカ村の人が来たら、追われてしまうデス」


「もしも、追われてしまっても、ボクとアリアなら逃げ切れるんじゃない?」

「十中八九逃げ切れるデスが、人を呼んでしまったら、そもそも師匠が頑張って走ってきた意味がなくなってしまうデス」


 それもそうだ。

 折角逃げたのに、自分はここに居るよ……って教えるなんてバカのすることだもの。


「それなら教えて。今のアリアなら何をするの?」

「拠点を確保するんデス」


「え? 何で?」

 ボクは素っ頓狂な声を出してしまった。


「拠点の確保は、師匠がホバッカ村でまず最初にしたことデス」

「え? あ、うん、そうだったね」


 ボクがホバッカ村でまず最初にしたことが、何だと言うのだろう?

 あの時のボクは、すぐにでも休憩したいという一心で拠点を確保しただけだよ。

 そこに深い意味はないと思うんだけど。


「そのことからアリアは、冒険者は拠点が命だと学んだのデス!!」


 へー、そうなのか。

 冒険者は拠点が命なのか。

 今、初めて知ったよ。


 アリアは褒めても良いデスよと言わんばかりに、誇らしげに胸をはる。


「さすがはボクの弟子、アリア」

 ボクはアリアの自尊心を傷つけないように、とりあえず褒める。


「えへへ、アリアはちゃんと学習しているのデス」

 アリアは、はにかむように笑った。


「でも、アリア、意地悪を言うようだけど、こんなところに宿屋なんてないよ。どうするの?」


 そう、町や村ならいざしらず、ここは誰も来ないような辺境地の森の中。

 宿屋なんかあるはずがない。

 どうやって拠点を構えようというのだろう?


「宿屋がないならテントをたてればいいデス!!」

「おおっ、さすがアリア、成長したね」


 ボクは拍手をしてこたえる。

 テントをたてるか……


 その考えはなかった。

 テントと言えば、ダンジョンの中でたてる物であって、まさか、こんな樹海の中でたてるなんて発想はなかったからな。


 バカだと思われるから、アリアには言えないけど。


「テントをたてるのにちょうど良さそうな場所があるので、師匠、マジック・バックからテントを出してくださいデス」


 テントをせがむアリア。


「ちょっと待って。テントを出す前にやっておかなければならないことがあるんだよ、アリア」


「何デスか?」

 アリアは小首を傾けた。

 ふふふ、冒険者初心者のアリアには分からないだろう。


 勇者パーティーに所属してからというもの、テントを出すたびに、何度もパーティーメンバーに言われたことがある。


「それはね……」


「あ、師匠、報告が遅れたデスが、テントを立てる前の周囲の警戒ならアリアの気配察知で既に羽虫しかいないのは確認済みデス」


「え? あ、うん、そうなの?」


「あと、万が一の時のために、逃げ道の確認もしてあるデス。師匠、他にもやることがあるデスか?」

「アリア、報告はもっと早く言うもんだよ」


 ボクの出番がないじゃないか。


「ごめんなさいデス」

 アリアはしおらしく優雅に謝ってきた。

 まあ、素晴らしい弟子を持ったということにしておこう。

忙しい人のまとめ話

サイレント、ホバッカ村から逃げて、道に迷う。

アリア、テントをたてようと提案する。

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