第12話 サイレント、酔っ払いと戦う
前回のあらすじ
サイレント、おっちゃんと別れて、冒険者ギルドに向かう。
サイレント、酔っ払いに絡まれている女の子を助ける。
「やっぱりサイレントじゃないかぁ。俺はAランク冒険者のニージュー・チョーボー様だぞぉ。俺のことをバカにしてんじゃねよぉ!!」
「いや、バカにはしてないんだけど……って、Aランク冒険者!?」
それが本当なら、Fランク冒険者のボクなんか、一瞬でやられてしまう。
まずい、まずい、まずい!!
逃げないと。
ボクはニージュさんに背を向けてすたこらサッサと逃げる。
「おいぃ、戦え、サイレントぉ」
「イヤです。ボク達、戦う理由がないじゃないか」
「あるだろぉ。お前は俺のことを殴った。違うかぁ?」
「違うよ。殴ってないよ。お酒を飲み過ぎて夢でもみたんじゃない?」
ここはうまく誤魔化しておこう。
「夢なわけあるかぁ!! お前の家は知っているんだからなぁ。今ここで逃げたら、お前の家を焼いてやるからなぁ」
「脅しじゃないか」
「だったら一発殴らせろ!!」
逃げるわけにもいかなくなったので、ボクはニージュさんに背中を向けたまま元居た場所に戻る。
「物騒なことは言うのはやめましょう。ほら、町の中で暴れたら、治安部隊の警備兵に捕まっちゃいますので、ここは痛み分けということで、お互い帰りましょう」
「風の神よ、わらしの力となれ。ウィント・プレート」
(訳:風の神よ、私の力となれ。ウィンド・ブレード)
ウィント・プレート?
それって、初級魔法のウィンド・フルートだったよね?
(注:サイレントは勘違いしています。正確にはウィンド・ブレードです)
もしかして、酔っぱらっていて呂律が回っていない。
これなら魔法も発動しないはずだ。
それなら、魔法が発動しない魔法使いなんか、秒で倒してやるぜ!!
息巻いた瞬間、びゅっという風とともに、ほっぺたが熱を帯びた。
何が起きたか分からずに熱の出所に手をやると、赤い液体。
「発動してる!!」
呂律が回ってなかったのに。
「俺は高位魔法術師だぞぉ。呂律が回らなくても風を刃に変える程度のウィント・プレートくらい発動できるんだぁ」
「なんてこった」
「それじゃあ、次は首を狙ってやるぜぇ。風の神よ、わらしの力となれ。ウィント・プレート」
風が酔っ払いの両手に集まる。
まずい、このままだと、ボクの首切り死体ができてしまう。
もしも首を斬られたら、ファイヤー・ウルフみたいに首だけでも動けるのだろうか……
そしたら、酔っ払いに噛みつけるのだろうか?
……って、違うだろ。
まずはウィンド・フルートを避けないと。
ボクは体をのけぞってブリッジをする。
これで首への攻撃は回避できるはずだ。
「くくく、本当にバカだなぁ。俺の話を信じるなんてなぁ。まだ、魔法は発動してないんだよぉ」
「でもさっき魔法を唱えていたじゃないか」
「Aランク冒険者なら誰でも使える、ディレイ呪文だぁ!!」
「しまった」
アイズがダンジョンで使っていた魔法の発動を遅らせる魔法か。
「その体勢なら、首じゃなくて本当は足を狙ってやるぜぇ」
「何だって!?」
「くくく、首ちょんぱならぬ、足ちょんぱだなぁ」
どうする?
この体勢から上半身を起こしてジャンプするか?
いや、そんなことをしていたら、足が切断されてしまう。
それなら……ボクは曲がった腕と脚に力を入れた。
「何ぃ!! ブリッジをしながらジャンプしただとぉ!!」
ボクは空中で身体を起こし、足が着くと同時に叫びながら、まだ残っていたお酒の瓶を拾う。
「火事だ!!」
「くくく、本当にバカだなぁ、サイレント。お前の家が火事になるのは、俺がお前を倒した後だぁ」
「そうですか!!」
「ぐはっ」
ボクは足払いをして、酔っ払いを倒してから、拾った酒瓶を酔っ払いの口にツッコみ、無理矢理に酒を飲ませた。
「ごくごくごく、何で酒を突っ込む! 俺を酔わせてぇ、どうするつもりだぁ!!」
「こうするんだよ」
ボクはこちらに近づいてくる人の気配を感じ取り、ボクはすぐさまバックステップで酔っ払いと距離をとり、草陰に隠れる。
「どこへ行った!? 出てこい、卑怯者!!」
よし、一瞬のスキをついて、隠れることには成功したぞ。
「火事はどこだ!!」
ボクの声を聞きつけた治安部隊の警備兵の1人が血相を変えて大声で尋ねる。
「火事なんかねえよぉ」
「何、ウソだったのか!! 最低のウソをつきやがって、酔っ払いめ」
他の1人が若者を怒鳴りつけた。
「違うっ!! これはサイレントがぁ!!」
「サイレントって、あのバカのサイレントか? いないじゃないか」「どうせ、酔いすぎて、夢でも見ていたんだろ!!」
警備兵があきれ顔で話し合う。
「そんなわけあるかぁ。俺は素面だぁ」
「おいおい、素面を主張するなら、その酒の臭いを消してから言え! パーティーを追放されたからって、ボク……じゃなかった、人のせいにするのは良くないぞ!! 酔っ払い!! 人でなし!! 唐変木!!」
ボクは草陰から警備員の一人になりきってヤジを飛ばす。
「何だ、お前らも俺のパーティー追放を笑いにきたのか?」
「その通り!! 笑いに来たんだ!! ワハハハハ」
もちろん、ヤジはボクだ。
「なんだとぉ、このやろぉ!! 1度パーティーを追放されたら、この町じゃ誰も拾ってくれないからってぇ!!」
ボクの声にキレた酔っ払いは、むくりと起き上がると警備兵の一人を殴りつけた。
『どごっ』……という鈍い音と、「ぐはっ」……という呻き声が聞こえた瞬間、ボクは茂みから顔を出す。
ぴっぴー!
「逮捕だ、逮捕!」「治安維持部隊を殴るなど、言語道断! 終身刑だ!」「終身刑など生ぬるい! 死刑だ、死刑!」
背後から、けたたましく鳴り響く笛の音とともに、警備兵の怒声。
こうなりますよねー。
ご愁傷様、酔っ払いさん。
パーティーを追放されてイライラしてるのは分かるけど、やけになったら終わりなんだよ。
治安維持部隊にたてついたら、生きていけないというのは、バカのボクでも分かるこの町の常識なんだから。
……おっと、早く行かないと、冒険者ギルドがしまっちゃう……
ボクは冒険者ギルドへと足を走らせた。
忙しい人のまとめ話
サイレント、酔っ払いがAランク冒険者だと知って逃げ出そうとする。
サイレント、結果的に酔っ払いを町の警備兵に引き渡す。