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第67話 サイレント、アリアと歩き出す

2023年9月21日、後書きを消しました。(本文はそのままです)



前回のあらすじ


 村に魔物が住むのかと訊く旅芸人の一座の座長の質問に、サイレントまじめに答える。

 サイレント、自分が魔物人狼だとホラをふく。



 



「師匠、村からだいぶ離れたデスし、そろそろおろしてくださいデス」

 村から出てしばらくたったあと、アリアがボクに懇願してきた。


「そんなに村から離れたかな?」


 誰かが追ってくる可能性もあったから、念のために、誰も通らないような獣道を無我夢中で走り続けていたので、時間的感覚がなかったボクはアリアに尋ねる。


「1時間は走っているので大丈夫デス」

「そうか、1時間走っているなら、大丈夫だね」

 1時間という時間はどれ位かわからないけど、アリアが大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。


 ボクは気配察知で誰も近くに人も魔物もいないことを確認してから、お姫様抱っこをしたアリアを降ろす。


「師匠、アリア、疲れていないデスか?」

 ここで、疲れたって正直に言ったら、アリアの機嫌を損ねそうだ。


「全然、疲れてないよ」

 ボクは空元気でこたえた。


「それなら師匠、色々訊いていいデスか?」

「もちろん、何でも訊いてよ!」

 ボクは拳で胸をポンと叩く。


「何で師匠は自分が人狼だと嘘をついて、大騒ぎしたんデスか?」

「だって、この村では悪いことはすぐに伝わるけど、いいことはインパクトがないと伝わらないって、おかみさんが言っていたじゃない? ほら、人狼が村から出て行くって、村の人たちからしたら、吉報でしょ? だからだよ」


「そのために、わざわざこの村全員から嫌われるようなやりすぎたパフォーマンスをしたんデスね」

「あ、やっぱりやりすぎだったかな?」


「それはそうデスよ」

 アリアはほっぺを膨らませる。

「うう、反省」


 でも、村の人がボクの意図に気づいてくれて良かったよ。

 さすがに、人狼をかばうためとは、気づかない人もいると思っていたからね。


「何でそこまでして人狼をかばったんデスか?」

「それは、あんなに優しい人狼のせいで村を衰退させるなんてなったら、やっぱり魔物は悪いものだって思わせちゃうじゃないか」

 その原因はボクが旅芸人の一座の座長に本当のことを言ったせいだし。


「人狼が優しいデスか?」

「そりゃあ、優しいでしょ?」


「どうしてそう思うデスか?」

 ふふふ、よくぞ訊いてくれた。


「それは、人狼がボクと戦っている時、スケアード・スライムに変身しなかったからだよ」

 ボクはトランス状態のおかげで冴えわたっていた結論をアリアに伝える。


 もし、人狼がEランクのスケアード・スライムに変身していたなら、Fランク冒険者のボクは勝てないと判断して絶対に逃げ出していたからね。


 人狼がボクに変身した時点で、ボクがEランクの魔物を倒せないのは知っていただろうし。


「もしも人狼がスケアード・スライムに変身したら、師匠が大声さえ出て、アリアとムーとジュンの誰かを起こしさえすれば、フルボッコにできたデスよね?」

「え? あ、うん、そうだね」


 あ、そっか。

 人狼は1人なんだから、スケアード・スライムに変身したら、不利になるのは人狼だったのか……


 そこまで考えていなかった……


「それなら、どうして、スケアード・スライムに変身しないことが優しさにつながるんデスか?」

 まずい、まずい、まずい。

 このままだと、ボクがバカだということがバレてしまう。


「いいかい、アリア。ボクはスライムが大っ嫌いなんだ」

「そうなのデスか?」


「そうなんだよ。あの形状や柔らかさ、ボクはもし転生したとしても、スライムだけにはなりたくない……ってくらい大嫌いなんだ」


 もちろんウソだ。

 まあ、こんな嘘をついたって、誰にも怒られないだろう。

 転生したらスライムだったなんて人はいないはずだから。


「意外デス……あ、でも、スケアード・スライムに囲まれたときには戦いもせずに、真っ先に逃げ出していたデス」

「そう。実はスライムが苦手だったからなんだよ」


 まさか、あの時逃げたのがこんなところで生きてくるとは……

 人生って、分からないものだな。


「なるほどデス」

「つまりだね、アリア。他の人にフルボッコにされる前、一瞬でもボクの目の前で人狼がスライムに変身していたら、ボクは恐れおののいて逃げ出していたんだ。もしかしたら、恐れるあまり、村の外まで逃げていたかもしれない」


「なるほどデス。村の外に逃げれば、師匠は心臓発作デスもんね。それを知っていたにも関わらず、人狼はちょっとでも変身しようとしなかった。つまりこれは、人狼は優しいということにつながるということデスね?」

「そういうことだよ」


 ボクは首を縦に何度も振り、激しく同意する。

 バカと思われないために。


「でも師匠、いくら優しいとは言え、人狼は魔物デスよ。ホバッカ村の人たちと仲良くやっていけるデスかね?」

「それは後から分かることさ。今、ボク達が心配することじゃないよ」

 人狼はホバッカ村で自分にできることを精一杯やるだろうから、後はなるようにしかならないだろう。


「今度、近くまで来たら寄ってみようよ」

「師匠、師匠はホバッカ村に一生入れないと思うデスよ」


「ほとぼりが冷めれば入れそうだけど……」


 いや、待て待て。

 人狼をかばうためとはいえ、ホバッカ村を『アホばっか』だと揶揄したんだ。

 間違いなくボコってくる人がいるだろうね。


「それなら、アリアだけでも寄ってみてよ」

「師匠を追い出した村なんか立ち寄らないデス」


 ぷいと顔を背けるアリア。


 まあ、いいや。

 そのうち、ドッキリの村の良い噂を耳にするだろう。


「最後の質問デス。何で師匠は、あの時謝ったんデスか?」

「あの時?」


「ほら、師匠が自分が人狼だと嘘をついてホバッカ村を出る時デス」

「それは……結果的にとはいえ、アリアを誘拐する形になっちゃったし、ここでお別れだとアリアに勘違いさせたからね」


「謝ることじゃないデス。師匠とまた一緒に魔王を倒す旅ができるんデスから」

 嬉しそうに喜ぶアリア。


「ボク、魔王を倒すなんて一言も言ってないよね?」

「言ってないデスが、師匠が内に秘めた闘志はひしひしと伝わってきているデス」


 ボクの中に魔王を倒そうなんて闘志なんか全然ないんだけどな……

 まあ、いっか。

 どうせどこかの町か村でスローライフができるだろう。

 そんな時が来るまで、もう少しだけアリアとの旅を楽しもう。


「それじゃあ、行こうか、アリア」

「はいデス」


 ボク達は道なき獣道を歩き出した。

 この道の行きつく先はどうなっているか分からない。


 分からないけれど、きっとどこかへは辿りつくだろう。

 このホバッカ村では自らスローライフする権利を手放してしまったが、他の町や村では人々に受け入れられて、スローライフができればいいなと思ってしまう。


 そんな希望だけを胸にボク達は歩き出した。


 そして、このすぐ後、ホバッカ村で地図を買っていなくて道に迷うのは、また別の物語だ。


 第2章 完





第2章を読んでいただき、ありがとうございました。


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