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第66話 サイレントホラをふく

前回のあらすじ


 気絶から目覚めたアリア、人狼を倒そうとするがサイレントが止める。

 サイレント、アリアとお別れの挨拶をする。





 

「師匠……」

 潤んだ瞳でこちらを見てくるアリア。


『それじゃあ、また』と言おうとしたボクは口をつぐんだ。


 アリアはボクと一緒にカバッカの町を追い出されてきたから、これからの冒険のための準備が十分できているわけではない。

 きっと、この村で身支度をしてから出発するはずだ。


 この村にいる間くらいは師匠として面倒を見てあげたほうがいいだろう。

 さて何て声をかけようか……


「村長!!」

 ボクがアリアへの言葉を選んでいると、元気な青年の声が重い空気を断ち切った。


「おお、これは旅芸人の一座の座長。この度は、劇をしてくださりありがとうございました」

「いえいえ、それより、この村に魔物が住みつくというのは本当ですか? 村は魔物の話題で持ち切りなんですけど……」


「もちろん、本当……」

 村長がこたえようとして、副村長は村長の口を両手でふさいだ。


「そんことありませんな」

 村長の代わりに、とぼけて答える副村長。


「そうですよね、まさか、この村に魔物が住むなんてことはないですよね?」

 旅芸人の座長はホッと胸をなでおろす。


「何を言っているんデス、村長に副村長。この村には魔物・人狼ルプスが住むデス」

 アリアは正直に答えた。


「何を言っているんですかな、この娘は」

「そうだよ、アリア。人狼は魔物じゃないでしょ?」


「そうですな。人狼は魔物じゃありませんな」

 副村長は嬉しそうにボクに同意した。


「そうそう、人の突然変異なんだから、魔物というより、元人間が正しいよ」

 ボクは訂正する。


「つまり、魔物が住みつくということですか?」

 座長は慎重に訊いてきた。


「だから、魔物じゃなくて、元人間だってば」

「そうですよね、元人間の魔物がこの村に住むということですよね?」


「そうだよ、この村に住むんだよ」

 ボクはこくりと肯く。


「そうなんですね……」

 ボクの話を聞いた旅芸人の一座の座長はみるみる顔を青くする。


 副村長は額に手を当ててうつむいた。


 重い空気が不穏な空気へと変わっていく。


「あ、そうだ、次の興行があるので、我々は今日にでもこの村を旅立ちます」

「いやいや、もう少しこの村に滞在してくれてもいいのじゃぞ? 何なら儂の権限で滞在中の宿泊費は無料じゃ」


 何かに気づいた村長は旅芸人の一座を、村に逗留させようとする。

 どうしてどんなに必死なんだろう……


「お気遣いありがとうございます。ですが、我々の演劇を楽しみにしている人々がいらっしゃいますので……」

「そうか、それなら、次にこの村に来るのを楽しみにしているのじゃ」


「ご縁がありましたら……」

 そう言い残すと、座長はそそくさと帰っていった。


「村長、どうするのですかな?」

 座長を見送った後、村長に尋ねる副村長。


「どうしようかの」

 頭をかかえる村長。


「えっと、村長と副村長は何を悩んでいるんですか?」

 何があったかさえ分っていないボクは能天気に尋ねた。


「サイレントさん、サイレントさんは、魔物のルプスさんが住む村には来たいと思いますかな?」

「それは思うよ。ルプスは人間と友好的で、とてもいい魔物なんだよ。元人間だし」


「それは、サイレントさんが実際にルプスさんと面識があるから来たいと思うだけですな。サイレントさん、もし、とある村に魔物が住んでいるとしたら、その村に来たいと思いますかな?」

「そりゃあ、思わないよ」

 だって、魔物が住んでいるんだもの。


「そうですな。みんな、本物の魔物がいる村には来ようとは思いませんな」

「うっ……」

 確かにそうだ。


「このままだと、ホバッカ村には本物の魔物がいることになりますな」

「それならそれでいいんじゃない? ドッキリの村にするって言っていたよね?」


「本当の魔物が住んでいる本当の意味でのドッキリの村と、安全が保証されているドッキリの村とでは意味合いが天と地ほど違いますな」


「どういうこと?」

 いまいち話がピンとこないんだけど……


「例えば、スリルがテーマのお化け屋敷ですが、本物のお化けが出てきて命の保障はないお化け屋敷と、偽物のお化けしか出てこないけど安全なお化け屋敷、人々はどちらに行きたがりますかな?」

「そりゃあ、安全なお化け屋敷でしょ。スリルは楽しみたいけど、本物を見て命を取られたいわけじゃないもの」


「それなら、スリルがテーマの村ですが、本物の魔物が住んでいて命の保障はない村と、偽物の仕掛けしかないけど安全な村、どちらに行きたがりますかな?」

「……あ、そういうことか」

 つまりは、傍から見れば、このホバッカ村には本物の魔物がいるようにしか見えないってことか。

 なるほど、やっと話が見えてきた。


 ……あれ?

 今、ボク、座長にこの村には魔物がいるって言い切ったよね……

 もしかして、ボク、やっちゃった?


「もしかして、アリアのせいデスか?」

「そんなことないよ、アリア」

 致命的なミスをしたのはボクなんだから。


「その通り、アリアさんのせいじゃないのじゃ。緘口令を敷かなかったわしのミスじゃ」

 村長は唇をかむ。


「そうですな、村長のせいですな」

 副村長もうなずく。


「うーむ、一連の会話で本物の魔物が住んでいるということが旅芸人の一座にバレてしまった。このままだと、ホバッカ村は魔物が住んでいて危ないという噂が流れてしまうのじゃ」

「せめて、人狼が村からいなくなった……と旅芸人の一座が認識してくれればいいのですがな」


「旅芸人の一座は、今日この村を出て行くんじゃろ? 追い出してしまったと言い通すというのはどうかの」

 村長は自信なさげに呟く。


「インパクトが弱いですな。その程度だと、魔物が住んでいるという噂の火消しはできなさそうですな」

「そこをノリで押し切るのがこの儂のやり方じゃ」

 村長はすごく気さくに話してはいるが、空元気をしているようにしか見えない。


「師匠、最後の最後でアリア、ミスをしたみたいデスが、これで丸く収まりそうデスね」

「……そうだね」

 ボクはアリアのせいじゃないということを強調したいがためだけにうなずいた。


「師匠はホバッカ村でスローライフをするんデスよね? ここで師匠ともお別れデスね……」

「アリア、ごめん」


「師匠、なんで謝るんデスか?」

 ボクはアリアの問いには答えずに、大きく息を吸った。

「ボクが人狼だ!!」


 大声を出して、人狼をじっと見るボク。

 ボクの意図を察してくれた人狼は、パーフェクト・コピーで山の中のおばあさんへと変身した。


「何を言ってるんデスか、師匠!! 師匠が人狼のはずないデス」

「そうだぞ、君が人狼なわけないのじゃ」「サイレントさん、そんなことを言ったら、この村に住めませんな」「何を言っているんだべ?」


「本当にホバッカ村の人は『アホばっか』だな」

 ボクはこの村のタブーを大声で叫ぶ。


「あーん? 今、何て言ったんじゃ? 小僧!!」「この村で言ってはいけないタブーを言ってしまいましたな」「いくら村を救った恩人とは言え、我々をアホ呼ばわりするのだけは許せないべ。追放だべ!!」

 近くでボクの声を聞いたホバッカ村の人たちが一瞬で手のひらを返す。


「アホばっかのホバッカ村の人たち良く聞け! ボクこそがお前たちの恐れおののいていた人狼だ!!」

 ボクはアリアの手を引き、大声を出しながら村の中を走り回る。


「人狼だって!?」「あのバカ面が?」「そういえば、さっき話した時、人狼は元人間だと必死に強調していたな。そうか、彼が人狼だったから、あんなにも必死だったのか!!」

 出発直前だった旅芸人の一座も目を丸くし、座長も勘違いをしてくれた。


「師匠、ちょっと待っていてくださいデス。師匠をバカにした旅芸人の一座の血液で、ホバッカの新しい観光名所、血の海を作るデス」


 冷酷な目に変わったアリアは、物騒なことを言い放つ。


「ボクをバカにするやつなんか放っておいて、逃げるよ、アリア」

 ボクはぶちギレしているアリアを抱きかかえ、お姫様抱っこする。


「あ、人狼が若い娘をさらって逃げるぞ!!」「くっ、なんて速さだ!! 全然追いつけない」「いや、別にこれこのままこの村から出て行くんだから追いかける必要ないんじゃないか?」

 旅芸人の一座がボクの行動を見ながら言い合う。


「こんな『アホばっか』しかいない、ホバッカ村にいられるか!! ボクはこの若い娘を連れて、もっとおしゃれな都会でランデブーするんだ」


「追放だ、追放だ」とすれ違う村人は言いながらも、みんな手を振っていた。


「ううっ……サイレント!! ありがとうなのだ!!」

 ルプスの嗚咽とともに、感謝の声が遠くから聞こえた。

 ボクは振り返らずに村を後にした。


忙しい人のためのまとめ話


 村に魔物が住むのかと訊く旅芸人の一座の座長の質問に、サイレントまじめに答える。

 サイレント、自分が魔物人狼だとホラをふく。




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