第65話 サイレント、アリアと別れの挨拶をする
前回のあらすじ
村長、人狼を村の一人として誘い、村人たちも賛成するが、人狼は無理だと決めつける。
村長、人狼にもカマテにも住みやすい村にすることを提案する。
「はっ、おのれ人狼!!」
村人たちの騒がしい大声で気絶から回復したアリアが起き上がる。
「あ、良かった、アリア、起きたんだね」
「師匠、アリアが人狼を倒してやるデス」
起き上がるなり人狼へとかけよるアリア。
「アリア、落ち着いて聞いて。そのくだりはもう終わったんだよ」
ボクは優しくアリアの肩をポンと手を置き、アリアを止める。
「どういうことデスか?」
ボクはこれまでの経緯を話した。
…………
……
「なるほどデス」
納得するアリア。
「それなら、人狼に落とし前をつけてもらうデス」
「アリア、ボクの話聞いてた?」
人狼とは和解したって、たった今話したよね?
「もちろんデス。師匠の中では終わったかもしれないデスが、アリアの中では終わってはないのデス」
「何でさ?」
「だって、この人狼は師匠の姿になって、無銭飲食をしたんデスよ?」
そういえば、その件が残っていたな……
「ボクとしてはささいなことで、もうどうでもいいよ」
「良くないデス。師匠の姿で無銭飲食は死罪に値するデス」
「わっちはサイレントの姿で無銭飲食なんかしていないのだ!!」
狼姿になってしまうとみんなが眠ってしまうという理由で、ボクの姿のままの人狼がムキになって否定する。
「見え透いた嘘デス!! みんながみていたんデスよ、ね、みんな」
アリアが村人たちに振り返ると、誰も返事をしなかった。
ボクが村人の方を見ると、たまたま嘘発見調査官と目が合った。
「人狼は嘘をついていないのですわ」
「ん? ちょっと、待って。人狼が嘘をついていない? それって、つまり……」
ボクは無銭飲食したと突っかかって来た店員たちの顔を探す。
何も言わずに、空や地面を見ながら口笛を吹き始める砂糖菓子店の店員たち。
決してボクと目を合わせようとしない。
「ボクが無銭飲食をしたのってが、そもそもウソだったの!?」
「さて、魔物の件も終わったし、帰ろうか」「そうだね、帰ろう、帰ろう」「砂糖菓子を作らないといけないからね」
ボクが尋ねると、蜘蛛の子が散るように、そそくさと解散していく村人たち。
「悪いのは人狼じゃなくて、ホバッカ村の人たちだったんデスね」
「そうみたいだね、アリア。これで、人狼は関係ないって分かったんだから、一件落着だね」
「落着なんかしてないデス。アリア、絶対に許さないデスから……ぶつぶつ」
怖いよ、アリア。
独り言をつぶやいて……って、これ、魔法じゃないか?
アリアが使える魔法って、ボルケーノしかないって言ってたよね……
ボルケーノって、この村を壊滅させられるって言ってたよね……
……ってことは……
「ボクはもう怒っていないから、やめてあげて」
ボクは村を火の海にしないために、全力でアリアを羽交い絞めにする。
「デスが、師匠……」
「村人たちを懲らしめる前に、アリアにはすることがあるでしょ?」
ボクは話を全力で逸らす。
「何デスか?」
「人狼はボクの姿で無銭飲食なんかしてなかったんだから、謝らないといけないよね?」
「このアリアが、魔王でもない相手に頭を下げないといけないんデスか?」
「そりゃあ、きちんと捜査もしないで、犯人を決めつけていたからね」
ボクは毅然とした態度でアリアに言う。
「うう、疑ってごめんなさいデス」
アリアはいやいやながらも、優雅に頭を下げた。
「気にしてないのだ」
「そうだ、仲直りの握手でもしておく?」
ボクが提案すると、人狼はにこっと笑って手を差し出し、アリアはとても嫌な顔をして手を出そうとしなかった。
「アリア、握手しようよ」
ボクはアリアの右手を持って、人狼の前に無理矢理差し出す。
「そうだ、山の中に住んでいるおばあさんからの伝言を伝えていなかったのデス」
アリアはボクのつかんでいる手から逃げると、パチンと手を叩いてから話題を変える。
どんだけ握手をしたくないんだよ……
「伝言とは何なのだ?」
「アリアの記憶もコピーしてるんデスから、後でアリアに変身して確認すると良いデス」
そっか、人狼はアリアをパーフェクト・コピーしているから、アリアの姿になっておばあさんと会った時の記憶を辿れば、わざわざ伝える必要がないのか……
……って、アリア言ってあげなよ。
「伝言なら、お主の言葉で聞きたいのだ!!」
そうだよね。
アリアの言葉から聞きたいよね。
「アリア、言ってあげて」
いたたまれなくなったボクは、アリアにお願いする。
「師匠の頼みならしかたないデス。一回しか言わないから、ちゃんと聞いておくデス」
んっんーとアリアは咳払いして喉の調子を整えてから、話し始めた。
「『いつでも家においで。すぐに私が恐怖を食べさせてあげる。ルプスが空腹でこの世からいなくなってしまうことより怖いことなんてないんだから』……だそうデス。」
「ありがとうなのだ」
アリアの言葉を聞き、ルプスさんは口元に手を当てて、泣きじゃくる。
「おばあさん一人分の恐怖じゃ、せいぜい1食を賄うのが精一杯だと思うデスけど」
「現在進行形で感動している人に対して、水を差すようなことは言わなくていいの」
ボクはアリアの口に人差し指を突きつけて注意する。
「ごめんなさいデス」
これには、さすがのアリアも反省したようだ。
「お話しているところ、少しいいかの?」
話を割って来たのは村長だった。
「何ですか?」
ボクはにこやかに対応する。
「サイレントさん、あなた、この村に住んでくれないかの?」
「え? ボクですか?」
「そうじゃ」
「いいんですか?」
平和にスローライフをしたいボクにとっては願ってもない申し出だ。
「もちろん、大歓迎じゃ」
ハイタッチを求める村長。
パチン。
ボクはイェーイと言いながら、村長とハイタッチした。
「これで、お主も村の一員じゃ」
「よろしくお願いします」
ボクは土下座をした。
「そうと決まれば、副村長、ボクとアリアの村から出られない呪縛を解いてください」
ボクは村長の隣にいた副村長にお願いする。
「おやおや、この村に住むのだから、呪縛は解かなくてもいいのではないのですかな?」
「あ、それもそっか」
そうだよ、これから、ここに住むんだから、呪縛はそのままでもいっか……
「師匠、それだと、何かの理由でこの村を出なければならなくなった時に、死んじゃいますよ。それに、アリアもこの村から出られなくなるデス」
「それもそうだ。副村長、今すぐ呪縛を解いてください」
何か用があったとしても、この村から出られないんじゃ不自由だ。
「はっはっはっ、実はこの村から出られない呪縛は既に解いてありますな」
「そっか。アリア、ボク達は自由にこの村を出られるみたいだよ」
「そうデスね」
寂しそうにアリアは呟いた。
なんで、アリアはこんなにも寂しそうなのだろう……
この村から出られるから喜んでもよさそうなものなのに。
あれ?
もし、アリアが村を出たら、ボクとアリアはここでお別れってこと?
そうだよ。
ボク、この村でスローライフをするって言ったじゃないか。
アリアは魔王を倒したいんだもん。
「ボクはこのホバッカ村でスローライフをするけど、アリアも一緒にどう?」
ボクはアリアに手を差し出して誘う。
「アリアは……アリアは修行して魔王を倒すデス」
アリアは首を力なく振ったあと、ボクの申し出を断った。
「それなら、ここでお別れだね」
「そう……デスね……」
いつの間にか空気は重たくなっていた。
忙しい人のためのまとめ話
気絶から目覚めたアリア、人狼を倒そうとするがサイレントが止める。
サイレント、アリアとお別れの挨拶をする。