表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/372

第64話 村長、突然の思い付きをする

前回のあらすじ


 カマテ、人狼に殺害依頼をした経緯を説明した後、母と和解する。

 村長、人狼に殺害依頼をした経緯を説明した後、土下座する。




 

「村長だけのせいじゃないのだ。村長のノリに押されて、偽物の殺人事件を起こしてしまったわっちにも責任があるのだ」


 人狼も土下座した。

 ボクの姿で。

 うーん、思った通り、すごい綺麗な土下座だ。


「どうせこんなことだろうと思っていたのですな。二人とも顔をあげるのですな」

「まあ、村長だしな」「そうだよね」「そうだね」

 みんなあきれ顔をしながら許してくれているみたいだ。


 おお、さすがは、推定、世界土下座大会優勝者と準優勝者の土下座。

 効果は抜群だったみたいだね。


「みんな、ありがとう」

「まあ、貴方がいませんと、毎日がお通夜みたいに寂しくなりますからな」

 副村長、照れ隠しをしてるな。

 なんだかんだ言われてるけど、村長って人望があるんだなぁ。


「ほら、ルプスも顔をあげるのじゃ。儂らは許されたのじゃ」

「良かったのだ。後はわっちを倒せば、全てが丸く収まるのだ」


「それは違うよ!!」

 ボクは大声で叫ぶ。


「違うとは、どういうことですかな、サイレントさん」

 聞いて来たのは副村長だった。


「ボクはルプスと戦わないからね」

「話が違いますな」

「違わないよ。だって、成り行きでボク、人狼のルプスと戦っているけど、副村長の依頼は誰が人狼かを特定することだけだったよね?」


「……それは……確かにそうでしたな」

「特定したならボクの仕事は終わりでしょ?」

 討伐依頼じゃないのだから、わざわざ倒す必要はない。


「そんなことを言わずに討伐して欲しいのですな」

「討伐はしないからね。冒険者は約束を違わないんだから」


「わっちは討伐されないのだ?」

「そうだよ、ルプスは殺人なんかできないでしょ?」


「絶対に人殺しはしないのだ。わっちの矜持なのだ」

 素晴らしい矜持だ。


「そんな言葉、信じられないべ!!」

 疑いの目を向けてくる村人。


「でも、人狼の言葉に嘘はないじゃないか!!」

「何でそう言い切れるんだべ?」


「だって、嘘発見調査官のお姉さんが何も言わないもん。もし、嘘だったら、嘘発見調査官のお姉さんが難癖つけてくるでしょ?」

「う……それもそうだべ……」

 言い返せない村人。


「ルプス、君は、村長さんの願いをかなえ、宿屋の親子の絆をより強いものにした。君も人を幸せにできるんだ。君はこれからも生き続けて良いんだよ」

 ボクは人狼に優しく諭した。


「そうじゃ、サイレントさんの言う通りじゃ!! ルプスさえ良ければ、この村で一緒に過ごすのじゃ」


「そうだね、一緒に住もう」「はい、あなたもホバッカ村の一員です、はい」「村長が言うなら、反対はしないんだね」「うん、反対はしないんだよ」

 どうやら、村人たちも賛成のようだ。


「嘘はやめるのだ!!」

 大声で否定する人狼。


「嘘発見調査官の私から言わせてもらうけど、村長も村人たちも嘘をついていないのだわ」

 みんなの発言をフォローする嘘発見調査官。


「そんなの最初だけなのだ!!」

「最初だけってどういうこと?」


「だって、そうなのだ。わっちは主食である人間の恐怖がないと生きられないのだ。結局、この村の誰かを驚かすか脅すかして、人を恐怖させなければならないのだ。そんなことしていたら、この村ににわっちの居場所はなくなるのだ」


 なんというジレンマ。

 ルプスは生きたくても、生きるためには人を脅かさないといけない。

 人とは仲良くなれない存在なのだ。


「わっちは人間の突然変異。魔族としても生きられず、人間としても生きられないのだ。わっちにはもう、生きる場所なんてないのだ。はやくとどめを刺して欲しいのだ」


 わんわんと泣くルプス。


 ルプスはこれほどまでにいい人なのに、ボクが介錯するしかないのか?

 いや、こんな結末は間違っている。

 何かないのか、良い方法が……うん、何にも思いつかない。


「のう、一つ訊くが、お主、人の恐怖さえあれば生きていけるのじゃろ?」

 村長が尋ねる。


「そうなのだ」

 ルプスは力なくこたえた。


「それなら、思いついたのじゃ」

「また、村長の突然の思い付きですかな……」「今回はどんなことに巻き込まれるか、考えただけで胃が痛くなるんだよ」「そうだね、胃が痛くなるね」

 残念ムードが漂う。


「今回は大丈夫じゃ。名付けて、『ホバッカ村、ドッキリの村に改造計画』じゃ」

「ドッキリの村?」


 何を言っているんだ、この村長は。


「そうじゃ。ご覧の通り、最近のホバッカの村は、特産物の砂糖菓子しかないのじゃ。しかし、近年、その砂糖菓子売れ行きが悪くなっているのじゃ。そこで、ホラー色の強い、ドッキリの村として売り出すのじゃ。ここに泊まりに来た人を仕掛けやらお化けやらのドッキリで驚かせば、定期的に恐怖を得ることができるのじゃ」


「「「「おー、さすが村長!! ノリだけはいい!!」」」」

 感心する村人たち。


「『ホバッカ村、ドッキリの村に改造計画』の第一弾として、宿屋をびっくり・ドッキリ宿屋に改造するのだ!! 協力してくれるな、カマテ?」


「え? 僕?」

「そうじゃ。宿屋を改造するには、細工師であるお主の力が必要なのじゃ。もちろん、村からお金も出す」


「宿屋で働けるなら、どんなことでもするよ、ボク」

 目の輝きを取り戻すカマテ。


「コンセプト宿屋にするために、宿屋を改造しますが、構いませんかな、おかみさん?」

「息子がこんなにもキラキラと目を輝かせているのに、断る理由がないです」


「でも、宿屋の改造が終わったら、宿屋では働けなくなるんじゃないの?」

 ボクは村長に素朴な質問をぶつけてみる。


「その心配はないのじゃ。宿屋が終わったら、墓場などにも細工が必要になるのじゃ。なんせ、ドッキリの村じゃからな」

「なるほど、それなら、細工師のカマテにも仕事ができる」


「わっちのために村をホラー色にするのはなんだか申し訳ないのだ」

「申し訳ないなんてことはないぞ。以前は砂糖菓子を買い付けにくる商人が商売相手だったが、これからは観光目当てのお客も獲得できるんじゃからな」


「それなら、今までは美しい砂糖菓子だけだったが、今度はおどろおどろしいお化けをモチーフにした新商品も作れるぜ」

「おお、それはよい考えじゃ。これは、村全体を観光化してお金を落としてもらえるチャンスじゃ。監修はもちろん、わしがやるのじゃ」


「いいえ、村長は大したエコとはできないのですな。それなら、人の心が分かるルプスさんにやってもらうのが一番ですな」

「おお、それがいいのじゃ」


「わっちが監修をやっていいのだ?」

「もちろんじゃ。ただ、監修の責任は重いのじゃ。驚かせたい客はどっきりに喜び、宿屋は潤い、ルプスちゃんはお腹が満たされ、砂糖菓子屋もホラー色の強い新商品をお土産に売り出せば、四方良しの計画じゃからの。お主にやれるかの?」


「やってみせるのだ!!」

 胸をどんと叩くルプスの瞳には、確かに光が宿っていた。


「さて、この『ホバッカ村、ドッキリ村に改造計画』じゃが、この場は正式な議会の場じゃないが、議会を通さずに、ノリで決定してもよさそうかの?」

「「「「いいでーす」」」」

 その場に居た村人全員が賛成する。


「さすが村長。素晴らしい思い付きをするぜ!!」

 村人の誰かが叫ぶ。

「そりゃあ、そうじゃ。なぜなら……」


「「「「ノリだけはいいから!!」」」」

 村長と村人たちは、イェーイと拳をあげた。


忙しい人のためのまとめ話


 村長、人狼を村の一人として誘い、村人たちも賛成するが、人狼は無理だと決めつける。

 村長、人狼にもカマテにも住みやすい村にすることを提案する。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ