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第63話 村長、土下座する

前回のあらすじ


 サイレント、人狼は優しいと断言する。

 村人たちは人狼を排除しようとするが、カマテが止める。




 



「どうしてかばうんだべ、カマテ」「そうだ、あいつはお前を殺そうとしたんだぞ」


「違うよ。僕が僕を殺すように頼んだんだよ。だから、人狼のお姉ちゃんは悪くないんだ」

「頼んだだって!? 何でそんなことを頼んだんだべ?」

 村人の一人が尋ねてくる。


「僕の適性職業は細工師だったからだよ」

「カマテの適性職業が細工師と殺害依頼をしたのと何の関係があるの?」

 ボクは訊いてしまっていた。


 細工師と言えば、器用な指先で細かな物を作ったり、ぜんまい式仕掛けとかを作ったりする職業だから、殺害依頼とは特に関係はなさそうだけど……


「僕、家の宿屋を手伝って、ゆくゆくは後を継ぎたかったんだ。だけど、適性職業が細工師だったから、役にたてそうになかったんだ」


「そんなことないよ。適性職業が細工師だからっていっても、宿屋の職業をしたってなんの問題もないよね?」


 適正職業はその人にとって最も適正とされる職業だけど、必ずしもその職業に就かなければならないというわけではない。


 細工師の適性があったとしても、宿屋を経営してもいいのだ。

 適正が無いので、間違いなく苦労はするけど、役に立たないなんてことはないはずだ。


「宿屋の職業って、僕に何ができるっていうのさ?」

「それは……接客とか、シーツ交換とか……」


「僕は脚が悪いから、自分一人で立てないんだよ? ろくに接客もできないし、シーツを交換するのだって誰かの助けなしにはできないんだよ?」

「う……」

 ボクは言い返せない。


「せめて、会計士といったような、経営を手伝えればいいけど、それも出来そうにないし」

「それなら、細工師として、宿屋のドアとかの修理をすれば……」


「うちの宿屋は、まだ新しいから、細工師が必要な修理なんか全然ないじゃないか」

「それなら、細工師として商売を始めればいいだろ!!」


「この村じゃ、細工師として食べていけないじゃないか!!」

「そうなの?」

 ボクは振り返って、村人たちに尋ねる。


「確かに、この町では、お菓子作りしか産業が発展していなくて、他の職業をはじめると、大抵は潰れてしまいますな。この村を出るか、適性職業ではないお菓子屋の呼び込みをするか、原料のカリン糖を収穫するしかありませんな」

 答えてくれたのは副村長だった。


「宿屋の経営はかつかつで、村を出て修行するようなお金なんてないし、かといって、僕の脚じゃお菓子屋の呼び込みもろくにこなせないし、カリン糖の収穫も、1日のノルマをこなすことができない……人生詰んでいるんだよ!!」


「確かにな」


 ここの村の呼び込みはすさまじいものがあった。若くて可愛い男女がわんさかいて、口八丁手八丁で自分の店に引き込もうとしていた。


 さすがに車いすのカマテでは不利だろう。

 それに、加えてカリン糖の収穫は重労働で脚の不自由なカマテには難しいだろう。


「僕は生きている価値がないんだ。だから、人狼さんに僕の殺害を依頼したんだ」

「ごめんなさい、私が五体満足で産んであげられなかったばっかりに……ごめんなさい、ごめんなさい」

 嗚咽を漏らしながら泣き崩れる宿屋のおかみさん。


「母さんのせいじゃない!! お荷物になる僕が悪いんだ」

 ムキになって否定するカマテ。


「貴方はお荷物なんかじゃないわ」

「ううん、僕は手伝いたくても手伝うことのできないお荷物さ」


「そんなことない、私は貴方が幸せになってさえしてくれれば、それでいいと思っていたの」

「それなら、どうして人狼に狙われている時、ボクが護衛の申し出を断ったんですか?」

 ボクはずっと思っていた質問を宿屋のおかみさんにぶつけた。


「私、人狼とカマテが話しているのを立ち聞きしていたの。その話を聞いて、カマテが本当に死を望んでいると思ったのよ。だから、私はその願いをかなえるために、サイレントさんの申し出を断ったのよ」


「そうだったのか。僕は母さんがサイレントさんの申し出を断ったのを見て、僕は母さんに見限られたと思っていたんだ。でも、本当は違ったんだね」


 つまり、おかみさんはカマテが死を望んでいるのだと思っていて、カマテはおかみさんが止めないから、自分は死んだ方が良いと確信したということ?


 つまり、お互いに勘違いしていたということ……

 うわー、悲劇。


「ごめんなさい、カマテ。本当は私、貴方に生きていてくれるだけでいいと思っているのよ」

「そうだったんだね、僕、お荷物じゃなかったんだね……ごめんなさい、お母さん」

 わんわんと泣きじゃくるカマテ。


 そのカマテを見て、おかみさんはそっとカマテを抱きしめた。


「良かったのだ……本当に、良かったのだ」

 カマテとおかみさんの姿を見て、ぽろぽろと涙を流す人狼。


「ほら、見てよ。結果的に、この人狼はカマテとおかみさんの絆を深めさせたんだよ。良い魔物でしょ?」


「カマテはともかく、村長の件はどうなるんだべ?」

「わしも自分で人狼に頼んだのじゃ」


「どうして?」

「ノリで!」


「「「「村長!!」」」」

 その場に居あわせた村民全員が怒声を発する。


「違うんじゃ、これには海よりも深くて、山よりも高い崇高な目的ががあったんじゃ」

「「「「聞きましょう」」」」


「だって、わしが死んだとき、みんながどんな反応をするか知りたかったんじゃもん」

「「「「村長!!」」」」

 もう一度その場に居あわせた村民全員が怒声を発する。


「怒りたいのはわしのほうじゃ!! 葬式会場で、『ノリだけは良かった』って言って、他は何もいいところ出てこないのには、さすがのわしもびっくりじゃぞ」

「「「「それは自業自得!!」」」」

 その場に居あわせた村民全員が怒声を発する。


「みんなの反応みるためだけに死んだふりをしたとか、マジで迷惑」「香典を返してほしいわ」「むしろ、迷惑料を請求したい」「やっぱり元凶は村長だったか」


「ごめんなさい」

 村長はみんなの前で土下座をする。

 うん、土下座し慣れた人のキレイな土下座だ。

 きっと、世界土下座ランキングがあれば、優勝は、村長かボクのどちらかだ。


忙しい人のためのまとめ話


 カマテ、人狼に殺害依頼をした経緯を説明した後、母と和解する。

 村長、人狼に殺害依頼をした経緯を説明した後、土下座する。

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