第62話 サイレント、人狼をかばう
前回のあらすじ
サイレント、腕に力が入らなかったので、人狼のとどめをさすのを断念する。
サイレント、違和感に気づき、人狼を倒すのをやめる。
「ほら、村長とカマテは生きているんだから、人間でもあるルプスさんは、この村で何もしていないよ。ただ、観光しに来ただけだよ。カマテに何の罪があるの?」
「魔物の言うことなど信じられないべ。本当に村長とカマテが生きているかどうかなんて分からないべ」
「「「そうだ、そうだ」」」
村人の一人の言葉をきっかけに、村人たちの怒声が響き渡る。
「わしがどうかしたのか?」
とぼけた声で村人たちの前に現れる村長。
人狼が目の前にいるということは、本物の村長だ。
「「「「村長、生きていたのか!!」」」」
村人全員が驚きを隠せない。
「ほら、村長は生きていたよ」
ボクはふふんと鼻を鳴らす。
「村長はいきているかもしれないが、カマテは死んでいるかもしれないだろ」
「死んでいるって僕のこと?」
車いすでやってきたカマテ。
「「「「二人とも、本当に生きていた」」」」
びっくりする村人たち。
「生きているわけないべ!! 検死した時は、二人とも全身、刃物の傷でボロボロだったべ」
村人の中の一人が叫んだ。
「違うんだよ。貴方達が見たのは、人狼が……いや、魔物が人に化けた死体だったんだよ」
ボクは枯れかけている声で説明した。
「ボロボロの死体に化けて、どうやって回復するんだべ? 息さえしていなかったべ」
ごもっとも。
「カマテも村長も確かに死んでいたべ。ゾンビなんだべ!?」
まあ、そう見えるよね。
「そうだ、ゾンビだ」「この村はゾンビが出る村になってしまったんだ!!」
村人たちはパニックに陥る。
ああ、まずいことになったぞ。
「いや、違うのですな。本当に本物の村長ですな」
「嘘発見調査官の私も保証しますわ」
副村長と嘘発見調査官もボクに味方してくれた。
よし、この人たちが味方してくれれば、パニックも収まる。
これで一安心だ。
「もしかしたら、副村長と嘘発見調査官は魔物に操られていて、正気じゃないんだべ。こうなったら、ゾンビである村長と魔物に操られている副村長をリコールで解任して、オラがこの村を取り仕切るべ」
さっきから発言がおかしいと思っていたが、自分が村長になって、村を乗っ取ろうとしていたんだな。
「私は正気ですな」「私も正気ですわ」
「それなら説明してもらおうべ。どうやって、死体になった魔物は回復したんだべ?」
「人狼は人に化けることができる上に、たとえ死んでも恐怖があれば復活できるんだよ。人狼、恐怖を食べて、回復してみて」
ボクは人狼を促す。
「いいのだ?」
「いいから、恐怖を食べて!!」
「わかったのだ」
人狼はただただそこに立つ。
…………
……
「ごちそうさまでしたなのだ」
少し時間が経つと、人狼は満足そうにつぶやいた。
「ほら、見て分かったでしょ? 人狼は人間の恐怖をエネルギーに変えられるんだよ」
ボクは村人たちに確認をとった。
「分かるわけないべ! ただ、人狼がつっ立っていただけだべ!」
「「「そうだ、そうだ」」」
……ですよねー。
ボクから見てもつっ立っているようにしか見えなかったもんね。
どうしよう……
「わかりやすく回復をすればいいのだ?」
言いながら人狼は落ちていたムーの矛を拾うと、自分のお腹に思いっきり突き刺した。
お腹からは血がドバドバと流れ出る。
「いやーっ!!」「キャー」「うわっ」
人狼が自決するというショッキングな光景に、失神する人や、叫ぶ人、目を背ける人が出てきた。
もちろん、何が起きたか分からずに、ただただ恐怖する人もいたはずだ。
「ははは、バカな魔物が自決したべ。これでこの村は守られたべ。村が守られたのはオラのおかげだべ」
「人狼は死んでないよ」
ボクは言い切る。
「何を言っているんだべ? 人狼は死んだべ」
「ほら、人狼の傷が回復しているでしょ?」
お腹の傷口は塞がり、矛もお腹から抜けていく。
「うわー、人狼の傷口がみるみるうちに回復していく」
「これで納得した?」
「カマテと村長を殺してなかったとしても、やっぱり魔物は魔物だべ!!」
「「「そうだ、そうだ!! 血も涙もないんだ!!」」」
一人の村人が叫ぶと、他の村人も同調し始める。
「人狼のことを知りもしないで、なんでそんなことが言い切れるんだよ!!」
ボクは必死に抵抗をする。
「逆にお前は人狼の何を知っているんだべ?」
「この村に寄る前に、人狼と過ごした人がいるんだけど、その人が言っていたよ。この人狼は優しいって!!」
「それはその人の感想だべ!!」
「そうだよ、感想だよ」
ボクはその通りだとうなずく。
「そんなの信じられないべ」
「「「そうだ、そうだ」」」
「でもさ、人狼を知ろうともしないで、人狼を悪だと決めつけている人たちよりは信じられる!!」
ボクは言い切った。
「ぐっ……」
押し黙る村人たち。
「でも、根拠がないなら、信じられないべ」
「根拠ならあるよ」
「何だべ?」
「よく考えてみてよ。人狼は最初から、全員を眠らせることができたんだよ。寝ている間に誘拐するなり監禁するなりできたはずなのに、それをしなかった」
「それだけじゃ優しいと言えないべ!!」
「確かにそうだ。でも、この人狼、誰にでも変身できるんだよ。やろうと思えば、一瞬でアリアもボクも倒せる力を持っているんだ。アリアもボクも致命傷を負ってないのが優しい証拠だよ」
「……そうかもしれないべ」
納得しかける村長の座を奪おうとしている村人。
「それなら、人狼を信じてよ」
「それでも、魔物は駆逐するべきだべ」
「そうだ、駆逐しろ!!」「駆逐しろ!!」「駆逐しろ!!」「駆逐しろ!!」「駆逐しろ!!」「駆逐しろ!!」「駆逐しろ!!」
いつのまにか、コールが巻き起こり、石を投げる人も出てきた。
「いいのだ、サイレント。これで」
諦めの悲し気な表情でボクにだけ聞こえるようにいう人狼。
「そうやって、君は死に場所を探していたんだね?」
ボクは人狼だけに聞こえるような声で尋ねた。
「その通りなのだ。四天王になっても、魔族からは元人間だと軽蔑された。死に場所を探したわっちは、人間界に来てみたが、やはり、人間界でもわっちの居場所などないのだ。これでいいのだ」
最初から誰かに殺されるつもりだたのか。
だから、ボクが戦った時に、抵抗しなかった上に、殺し方まで教えてくれたんだ。
「やめて! 人狼のおねえちゃんを殺さないで!!」
車いすに乗りながら、大きく手を広げ戦いを止めようとしたのはカマテだった。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、人狼は優しいと断言する。
村人たちは人狼を排除しようとするが、カマテが止める。