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第60話 人狼と戦うサイレント、死を覚悟する

前回のあらすじ


 アリア、最強の矛と盾を持つ人狼に負ける。

 サイレントアリアと交代するが、全然勝ち筋が見つからない。





 寝不足で頭はクラクラ。

 そして、逃げ続けて、脚はフラフラ。

 お腹はペコペコだし、喉もカラカラ。


 体力も精神力も限界。


 どうすれば、人狼に勝てるんだ?

 考えろ、考えろ、自分。


 考えなければ、待っているのは死のみだ。

 さあ、頑張れ、自分。


 ……ダメだ、全然勝ち方が見えてこない。

 これはピンチ……いや、大ピンチだ。


 せめて、寝不足でさえなかったら、人狼を倒すアイディアが浮かんでいただろうに……

 まったく、アリアの寝言が大きすぎる上に、殺気まで放つせいなんだからね。

 アリアめ、後でお説教だ。


「あー、もうっ!!」

 イライラしたボクは大声を出してしまった。


「あっれー? 何でオラは寝ていたんだべ? みんな起きるんだべ」「あら? どうして私、こんな道の真ん中で寝ていたのかしら?」「急に眠くなったんだよ」「そうそう、急に眠くなったんだね」


 一人が起き出し、他の人を起こし始める。


「あ、冒険者のお兄ちゃんが戦ってるよ」「本当だ、戦ってるね」「逃げているとことをみると劣勢みたいなのだわ。みんなで応援するのだわ」

 誰かが呼びかける。


「がんばれ、冒険者の小僧!!」「魔物を倒すんだべ!!」「そうだ、やっちまえ!!」

 呼びかけに答えて、声援を送ってくる村人たち。


 これは……昼間の勇者劇と同じパターンだ。

 そうだ、この声援を力にして、人狼を倒すんだ!!


 ……って、声援を力にできるかいっ。

 人形劇の勇者と違って、ボクには声援を力にする能力なんてないんだからね。


 ボクの思いとは裏腹に、地を揺らすほど大きな声の声援が響き渡る。

「頑張れ」「頑張れ」「頑張れ」「頑張れ」「頑張れ」「頑張れ」「頑張れ」


 ああ、うるさい、うるさい、うるさい!!

 ボクは寝不足でクラクラで、脚もフラフラでお腹がペコペコで喉もカラカラなんだぞ。


 ……と思った瞬間、脚にうまく力が入らなくなった。

 ボクはふらつき、脚を止める。


「今なのだ」

 最強の矛と盾を持った、上半身がアリアで下半身はボクの姿の人狼は、瞬動でボクに迫ってきた。


 ふらついた脚では瞬動を使えないと判断したボクは、瞬動を使わずに人狼と距離をとる。

 瞬動なしじゃ、逃げ切れない。

 これは、やられる。


 ボクは死を受け入れる覚悟を決めた。

 決めたのだが……


 あれ?

 人狼、遅くないか?


 人狼は瞬動を使っているはずなのに、全然ボクに追いついて来ない。

 もしかして、ボクより人狼の方が先に限界が来たってこと?


 いやいや、体力も精神力も限界なのに、そんなわけないよね。

 でも……もしかしたらということがあるかもしれない。


 試しに、人狼の背後に立ってみよう。

 ボクは瞬動を使わずに、移動する。


 やったー、背後を取れた。

 超嬉しいんですけど。


「もう限界のはずなのに、瞬動も使わずにどうしてそんなに早く動けるのだ?」

 背中越しに尋ねてくる人狼。


「うーん、よくわかんないんだけど、とてもスローに見えるんだよね。もしかして、声援の力かな? 自分でもびっくりしているんだよ」

 興奮しながらこたえるボク。


「お主に声援を力にする勇者のようなスキルはないのだ」

 ですよね。


 それなら、なんでボクこんなにも動けるんだろう?


「まあ、いいのだ。アリアの目で動きはコピー済みなのだ。パーフェクト・コピーでサイレントに化けて同じことをしてやるのだ」


 人狼は瞬動でボクと距離をとると、まばゆい光に包まれて、ボクに変身した。

 もちろん、最強の矛と盾を持ったまま。


 あっ、しまった。

 人狼の背後をとれたことに興奮しすぎて、ダガーで攻撃するのを忘れてた。


 しかも、人狼に今のボクの動きをコピーされちゃう。


 まずい、まずい、まずい。

 何とかしないと。

 集中しろ、集中しろ、集中しろ!!


 ボクはダガーをしっかりと構えて、人狼の襲撃に備える。


「これでおしまいなのだ!!」

 人狼は瞬動を使わずにボクに近づく。


 ……って、あれ?

 普通に瞬動を使うより遅くないか?


 うん、遅いよ。

 ボクはもう一度人狼の後ろをとった。


「どうしてさっきの動きをコピーできなかったのだ?」

「それは……ボクに訊かれても分からないな」


 どうして、人狼の背後を取れたのか、自分でもさっぱりわからない。

 分からないけど、このまま攻撃をしてしまおう。

 ダガーを振り下ろした瞬間、人狼はにやりと笑う。


「なるほど、そういうことなのだ」

 人狼は納得をすると、最強の盾でダガーを受け止め、矛を手放すと、振り下ろしたボクの右手に触れようとした。


 ボクの手に人狼を触らせちゃダメだ。

 直感が反射的に働いたボクは、そのまま人狼と距離をとる。


「なぜ、わっちの手を触らなかったのだ?」

「ボクをもう一度コピーするつもりだったんでしょ?」

「その通りなのだ。アリアの目ではトランス状態のお主をコピーできなかったのだ」


「トランス状態?」

「人間は空腹状態や寝不足や極度の疲労、そして、そんな自分をみんなが見ていて格好悪いことはできないという極限状態に置かれたときに、神経が研ぎ澄まされ、『少しの間だけ』自分の能力が覚醒をすると言われているのだ」


「へー、そうなんだ。あっ、分かった。今、ボク、空腹で寝不足で極度の疲労がたまっていて、しかもみんなに応援されているから、覚醒してトランス状態ってこと?」

「そういうことなのだ」


 最近、アリアが寝かせてくれなかったから、トランス状態ってやつになってるんだ、ボク。

 アリア、寝言が大きくて、しかも殺気まで放ってくれて、本当にありがとう。


 アリアには後で土下座して感謝を伝えないといけないな。


 これでボク、人狼に勝てそうだよ……


 ……って、ちょっと待って。

 さっき、人狼が気になるワードを言っていなかったか?


「今、トランス状態は『少しの間だけ』って言った?」

 ボクは人狼に確認をとる。


「そうなのだ。『少しの間だけ』なのだ」

「それって、どれくらいなの?」


「分からないのだ。1秒後かもしれないし、1分後かもしれないのだ。10分はもたないはずなのだ」

 良く分からないけど、すぐにでもトランス状態が解けるかもしれないということだけは分かった。


 とにかく、1秒でもはやく人狼の背後をとって、1秒でもはやく倒さないといけないということね。

 ボクはすぐさまダガーを構えた。


忙しい人のためのまとめ話

 

 人狼と戦い死を覚悟したサイレント、トランス状態になる。

 サイレント、人狼を追い詰めるが、トランス状態はすぐにでも切れることを知る。



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