第59話 サイレント、人狼に見抜かれる
前回のあらすじ
アリア、人狼と戦う。
アリア、人狼のコピーの弱点を突くが、人狼、諦めない。
「何をするかって? こうするのだ!!」
人狼は落ちていた何かを拾う。
「まさか、それは……」
「最強の矛と盾なのだ!! この武器ならお主の大鎌にも勝てるのだ!!」
狼ルプスが手にしたのは、眠っていた双子が持っていた矛と盾だった。
「さあ、かかってくるといいのだ。あ、でも、この武器たちには、一度負けているから、逃げても恥じゃないのだ!!」
「逃げるなんてことしないデス!!」
「アリア、挑発にのっちゃダメだ」
ボクは止めるが、アリアはお構いなしに大鎌で人狼に斬りかかった。
カキン。
鳴り響く金属音。
人狼はアリアの大鎌を盾ではじく。
アリアの大鎌は宙を舞った。
「しまったデス……」
自分の武器を手放してしまったアリアは唇をかむ。
「形勢逆転なのだ!! 降参するなら今なのだ」
「降参なんかしないデス」
アリアは、右手で自分の左胸をポンポンと叩くと、両腕を広げる。
あれは、抵抗しないから、自分の心臓を人刺しにしろというジェスチャーだ。
「選手交代だ、アリア!!」
ボクはとっさに叫ぶ。
「残念なのだ」
ボクの声は届かず、人狼は矛でアリアの体を貫く。
「アリア!!」
ボクはアリアから目を背けた。
「大丈夫デス、師匠!! 紙一重で回避したデス」
「ぐぬぬ。さっきのジェスチャーは、避けるための誘いだったのだ!!」
「最強の矛でも刺さらなければ、意味がないデス」
ここからだと刺されたかのように見えたが、どうやら間一髪で避けていたようだ。
よかった。
「今度はこっちの番デス! 師匠直伝、瞬動二連!!」
アリアは最初の瞬動で、地面に落ちた大鎌を拾い、次の瞬動で人狼に斬りかかった。
アリアは最速で人狼に近づき、鎌を振り下ろす。
この速度なら、たとえ、アリア姿の人狼が瞬動を使っても、間違いなく一刀両断できる。
これで、アリアの勝ちだ。
「遅いのだ!!」
ルプスは矛の持ち手でアリアのみぞおちをついた。
「ぐはっ……そんな……確かに斬ったはずデス」
アリアは右手でお腹を押さえながら、大鎌を杖代わりにして、立とうとする。
「お主が斬ったのは、瞬動で作った残像なのだ!!」
残像だって?
「どういうことデスか? アリアと同じ肉体なのに、アリアよりも速いなんて」
なんとか立ち上がったアリアはもう一度、大鎌を構える。
「部分コピーなのだ」
ルプスはアリアの攻撃をひょいとかわして、アリアの背後をとる。
「部分コピー?」
「アリアと言ったか……肉体のほとんどはお主のものなのだ。だが、脚だけ主より速いサイレントとやらの脚に変えたのだ」
答え合わせが終えると、ルプスはアリアの首根っこを矛の持ち手で薙ぎ払った。
「そういうことデスか……すみませんデス、師匠」
がくっと膝をつき、その場に倒れこむアリア。
「アリア、よくやった!! ここで交代しよう」
ボクはアリアの元へ瞬動で駆け寄り、アリアの肩をつかんで、そっと地面に横たわらせる。
息はしているので、気絶しているだけみたいだ。
「交代ということは、わっちと戦うつもりなのだ?」
「当然」
ボクはダガーを構える。
「ラッキー。人狼が化けているならアリアなら勝てる。なんせ一度、アリアには勝ってるんだし。余裕だよ、余裕……って顔なのだ、師匠」
「ボクの心を完璧に読むな!! そして、ボクはお前の師匠ではないから」
Sランクの人狼の癖に、生意気だぞ!!
ボクは直線的な動きでありながらも、不規則に攻撃をする。
全速力で攻撃しているにも関わらず、すべて槍と盾でいなされてしまう。
いや、いなされるどころか、ボクの心だけでなく、動きまでも読んで防げるうえに、コピーまでしている……だと……
なんで、こんなことができるの?
「まさか……アリアと同じ肉体ってことは、もしかして、目もコピーできるんじゃ……」
ボクは一つの答えにたどり着く。
「うむ。コピーできるのだ、師匠」
アリアの一度見たらコピーできちゃう目のコピーができるなんて、チートじゃないか。
しかも、部分コピーで、上半身アリアになっているんだから、アリアが使える魔法も技もできると考えていいだろう。
つまりは、ボルケーノも使えるということになる……
……って、ちょっと待って。
勝ち筋が全然見えない!
誰だよ、相手がアリアだから、余裕だなんて思ったのは。
全然相手にならないじゃないか。
よし、逃げよう。
ボクは最速で敵前逃亡する。
「なるほど、逃げるの一択とは……悪手なのだ」
「悪手? 何言ってるの? これが最善策だよ」
このまま、ボクを追わせて、人狼を村の外に出さないと。
「それならばあえて問うのだ。お主、どこへ行くのだ?」
人狼は、ボクとの距離を詰められないまま尋ねてくる。
「どこって、そんなの、この村の外に決まっているじゃないか!!」
この村の中じゃ、ボクと人狼が鬼ごっこするには、狭すぎて逃げる場所なんてないしね。
「逃げても良いが、村の外に出たら、どうなるか忘れているのだ」
「忘れているわけないでしょ!! 村の外に出たら、死んじゃうんだからね」
うん、今の今まで忘れてた。
村の外に出たら、心臓発作で死んじゃうんだった。
ボクは村の中で戦うしかないんだ。
でも、ボルケーノを使われたら、村の外に出られないから詰むんだよな、ボクの人生。
どうしよう?
とりあえず、村の中を逃げるしかない。
「逃げるんじゃないのだ、卑怯者。逃げているようじゃ絶対にわっちには勝てないのだ」
「そんな、ボクのスピードでもふりきれないなんて……」
「わっちはお主と同じ速さなのだ」
「くそっ……あれ? でも、待てよ。このまま逃げ続ければ、決着はつかないんじゃないか」
「最近、アリアが寝かしてくれないから、寝不足続きで体力が落ちているのではないのかの? 師匠」
あ、そうだった。
連日、アリアが殺気を出すからまともに寝ていなかったんだ。
「……って、ボクをコピーしているから、ボクの健康状態もお見通しってこと?」
「その通りなのだ。お主のことなど、まるっとお見通しじゃ」
これ、マジでやばいんじゃないか……
いい考えが浮かばないけど、力の限り逃げ続けよう。
忙しい人のためのまとめ話
アリア、最強の矛と盾を持つ人狼に負ける。
サイレントアリアと交代するが、全然勝ち筋が見つからない。