第58話 アリアVS人狼ルプス
前回のあらすじ
サイレント、人狼と戦うが引き分け。
サイレント、アリアと交代する。
「わっちを倒そうなどとは、良い度胸なのだ」
「師匠の体に化けている限り、アリアを倒すことはできないデス」
「どういうことなのだ? 知っておるのだぞ、お主がこのサイレントという輩に負けていること。お主など瞬動を使えば、ひとひねりなのだ」
ボクの姿をした人狼は瞬動を使ってアリアの近くまで移動する。
「それは、瞬動が使えない時のアリアデスよね? 瞬動」
人狼がアリアに近づいた瞬間、アリアもまた、瞬動で逃げた。
「追いかけっこをするつもりなのだ? すぐに捕まえるのだ。わっちの化けているサイレントの方が速いのだ」
その逃げたアリアを人狼は瞬動で追う。
「そのつもりはないデス」
アリアは瞬動を何回も連発しながらボクとぶつぶつと独り言を言いはじめる。
「なるほど、お主、わっちから逃げながら、ボルケーノの魔法を唱えるつもりなのだ」
ボルケーノの魔法……って、この村一帯が火の海になるじゃないか!!
何を考えているんだ、アリアは。
「ふん、まあ良いのだ。サイレントの方が少しだけ脚が速いから、お主に触ることができたのだ」
「しまったデス」
人狼はアリアに触れた瞬間、アリアと少しだけ距離をとると、まばゆい光を出し、アリアの姿へと変貌した。
「これでお主の魔法は効かないのだ」
「まあ、魔法を使うつもりはさらさらなかったんデスけどね」
アリアは少しだけ舌をちろっと出した。
「魔法をつかうつもりはなかったのだ? どういうことなのだ?」
「説明なんかしてやらないデス」
「それなら、お主の記憶を読むまでなのだ」
「アリアが生まれたころの記憶から読むと良いデス」
人狼が瞬動で距離をとると、アリアも同じ速度で人狼を追いかけた。
「そんなことをしていたら、時間がかかり過ぎるし、戦いにも集中できないのだ。この数時間の記憶だけでいいのだ」
「戦いのことなんか忘れて、アリアの一撃を食らうといいデス」
「……なるほど、わっちが武器を持っていないと見たお主は、魔法を唱えるふりをして、あえてわっちに触らせて距離をつめさせたのだ」
アリアの記憶を読み終えたのであろう人狼は、すぐにしたり顔になって納得する。
「え? でも、アリアに化けた人狼も持っているじゃないか、大鎌」
武器は持ってるよね?
「その大鎌はコピーできていないはずデス。アリアの大鎌は特注デスから。肉体の能力は同じでも、アリアの武器まではコピーできないという弱点を突いてやったデス」
「あ、そういえば、人狼が素材を持っていなければ、よく似た偽物にしかならないって、言っていたっけ」
もしも、鉄製の包丁をコピーしたとしても、人狼が鉄を持っていなければ、コピーした包丁は、見た目は包丁でも鉄製の切れ味はないんだったけか……
「偽物の武器しか持っていない人狼と戦えば、アリアの大鎌でダメージを与えられるデス」
「でもさ、この作戦、人狼にバレたら意味がないんじゃない?」
むしろ、これってピンチなんじゃ……
「アリアの作戦がバレたところで、その対処法がなければ意味ないデス!! もし、偽物の大鎌で襲い掛かってくれば返り討ちにできるデス」
おお、さすがはアリア……と思ったのだが、ボクはふと思ってしまったことを訊かずにはいられなかった。
「もし、人狼がボクのダガーを拾ったら?」
そう、人狼の目の前に、ボクのダガーが落ちていたのだ。
「師匠のダガーを拾うにしても、アリアの攻撃のほうがはやいデス。そのためにわざわざ人狼に距離をつめさせたんデスから」
おお、さすがはアリア。
先の先まで読んでいる。
これは勝負あったな。
「対処法はあるのだ!!」
「強がっても無駄デス。アリアの作戦は完璧デスから!!」
「それなら、試してみるのだ!!」
叫びながら、偽物の大鎌でアリアに斬りかかる人狼。
「試すまでもないデス」
パキン。
やった!!
アリアが人狼の大鎌を真っ二つにした。
「観念して諦めるデス」
そうだ、そうだ!
観念して諦めろ!!
「瞬動」
人狼は真っ二つになってしまった大鎌をアリアに投げつけた後、アリアと距離をとった。
もちろん、ボクのダガーは地面に突き刺さったままなので、人狼は徒手空拳だ。
「武器がないから逃げる気デスか? そうはさせないデス。瞬動」
アリアも人狼を追いかける。
「あえて、お主に追いかけさせたのだ。お主が先ほどわっちにさせたようにな」
「打つ手がないから、アリアの真似事ということデスか?」
「打つ手ならあるのだ」
人狼ルプスは、まばゆい光に包まれながら、狼の姿に戻った。
まずいよ、アリア。
これじゃあ、甘い香りで眠らせられて、形勢逆転じゃないか。
「そうはいかないデス」
アリアは自分の大鎌で自分の左手を傷つける。
「なんということなのだ。痛みで眠気を飛ばしたのだ?」
「その通りデス」
「アリア、手の甲から血が流れ出ているけど、大丈夫?」
「深くは傷つけていないので、大丈夫デス」
アリアはすぐさま、大鎌を構える。
「わおーん」
人狼は大きく吠える。
どことなく悔しそうだ。
「今度こそ観念するデス」
「それはできないのだ」
人狼はまばゆい光に包まれ、また、アリアと同じ姿になった。
もちろん、大鎌も元に戻っている。
「もう一度アリアに化けたところで無駄デス。お前に打つ手はないデス」
「そんなことないのだ」
人狼はアリアに向かって、大鎌を投げる。
「そんなの当たらないデス」
アリアは投げられた大鎌を自分の大鎌で真っ二つにした。
アリアに大鎌を投げた一瞬のスキをついて、人狼は倒れている村人の方へと走り出す。
「もしかして、人質をとるつもりデスか?」
「人質をとったところで、お主の性格なら、真っ先に攻撃をしてくるのだ。まったく意味のない行動なのだ」
「それなら、何をするデスか?」
忙しい人のためのまとめ話
アリア、人狼と戦う。
アリア、人狼のコピーの弱点を突くが、人狼、諦めない。