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第11話 サイレント、酔っ払いに出会う

前回のあらすじ

サイレント、お姫様をバカにする。

サイレント、お姫様、騎士団長やドラゴンをテイムしようとしたという噂を耳にする。


「でも、お姫様が行方不明になったのは、5回目なんでしょ?」

「そうだな、一大事も5回目だから、一大事じゃなくて、五大事だな。ははは……って、何だよ、五大事って!!」

 おっちゃんは一人ツッコミをした。


「あはは、人騒がせな、おてんば姫だね」

「まったくだ。こっちの身にもなって欲しい」


「きっと今回も王室を抜け出しただけなんでしょ?」

「多分な」


「それなら、心配ないじゃない」

 お姫様が暇つぶしのためだけにお城を抜け出したんだろうしただけだろう。


「だがな、もしかすると誘拐という可能性もある」

「その可能性は低いんでしょ?」


「ああ、その可能性は非常に低い。お城は常に厳重警戒されているからな」

「それなら、心配ないじゃない」


「だが、万が一の可能性もある。もしも、誘拐された先がこのカバッカの町で、おっちゃんのミスで姫様を見逃していたら、おっちゃんの首は飛んでしまうだろう」

「うわー、大変だー」

 良かった、ボクは『しがないFランク冒険者』で。


「だから、今日は荷物検査と人物確認はいつも以上に厳しいチェックをしなければならないんだ。そのせいで、おっちゃんは本当にくたくたなんだよ」


「なるほど、おっちゃん、疲れているんから、ボクを顔パスで通してくれるのか」

 たくさんの人の持ち物検査を厳しくチェックしているから、疲れていて、信頼できるボクを通してくれるというなら、納得だ。


「その通りだ。持ち物検査をしているフリをして愚痴でも言ってないと、やってられないぜ、この仕事」

「お疲れ様です」

 ボクは深々と頭を下げた。


「……ということで、おっちゃんはそろそろ本職に戻るために、サイレント、お前をそのまま通す。もちろん、このことは誰にも言うんじゃないぞ」

「分かってるって」


「分かったならよろしい。それでは、またな」

 おっちゃんはボクを通してくれた。


「おっちゃん、『今度、何かおごるよ』」

 ボクはここぞとばかりに『今度、何かおごるよ』と言い切る。


『今度、何かおごるよ』は、この町で『元気を出せよ』って時に使う定型句だ。


 一度使ってみたかったのだが、詐欺にあってばかりのボクがみんなからこの言葉をかけられることはあっても、自分から言い出す機会が今まで一度もなかったので、嬉々とした気持ちで言えたことに大満足だ。


「がーはっはっ。まさかサイレントからその言葉が出るとは思わなかった……ゴホゴホッ」

 大爆笑した後にむせるおっちゃん。


「あーはっはっ」

 とりあえず、ボクも笑っておこう。

 おっちゃんがハイタッチを求めてきたので、ボクはその手をパチンと叩く。


「あー、笑った、笑った。バカのサイレントからおごられようなんて思ってはないが、期待せずに待ってるぜ」


『期待せずに待ってるぜ』は、この町では『ありがとう』という意味だ。

 おっちゃん、ちょっとは元気が出たのかもしれない。

 良かったと思いつつ、ボクはテントから出て、冒険者ギルドへと足を向かわせた。



 ボクは町の大門をくぐり抜け、馬車が余裕ですれ違いできるくらい広い石畳へと足を運ぶ。

 この時間帯なら、まだ馬車の行き来はほぼないはずだから、商店街の道を無事に突っ切ることができれば、町の中央部にある冒険者ギルドへの近道になるはずだ。


 木造建築が並ぶ飲食店には、どのお店にもランプと共にお祭りを祝うための緑色の旗が掲げられていた。

 お祭ムード一色なんだな。


 ボクはランプの明かりを避けて、いつでも闇に乗じられるように、薄暗い道の端っこをできるだけ音を消して走り続けた。

 走り続けていると、道の真ん中で倒れている人が目に入って来た。


 うーん、あれは酔っ払いだよね……

 お酒のビンを両手に持っているので、おそらく、酔っ払いだろう。

 病気やケガの人なら助けに向かうところだが、酔っ払いなら放っておいて問題ない。

 ボクは構わずに走り続ける。


「たった1枚の手紙だ。たった1枚の手紙で追放の通知をしやがってぇ!! 何でパーティーに尽くしてきた俺が、お金を1回着服しただけで追放されなきゃいけないんだぁ!!」


 お金を着服したからだよ、酔っ払いで追放された冒険者さん。

 こういう輩と関わりたくないから、気配を消してそのまま走り去ろうっと。


「あの……」

 酔っ払いに近づく人影。


「おい、女、おれのことを笑いに来たのかぁ? バカにしやがってぇ!! 一発殴らせろぉ!!」

 酔っ払いは少女の肩につかみかかる。


「危ない!!」

 ボクは方向転換し、酔っ払いの頬を思いっきり殴る。


「ぐはっ」

 酔っ払いは吹っ飛んだ。

 酔っ払いの持っていた酒の瓶もカランと音を立て道に転がる。


「あの……ありがとうございますデス」

「お礼はいらないから、とにかく逃げて!!」


「はい」

 ボクは少女を目だけで見送る。

「何だぁ、お前はバカのサイレントじゃないかぁ? くそっ、お前も俺のことを笑いにきたのかぁ?」

 立ち上がる酔っ払い。


 まずい、ボクがサイレントだとバレてしまった……

 なんとか誤魔化さないと。


「ボクはサイレントじゃないですよ」

「じゃあ、誰なんだよぉ、お前は?」


「この国の姫です。姫であるボクに手を出していいんですか?」

「姫? どっからどう見てもお前は男だろぉが!!」

 しまった。

 姫って王様の娘のことか。


 王様の息子のことだと思ってた!!

 騎士団長って言えば良かった。


 失敗した。

 そうだ、言い直せばいいんだ。

 お姫様を探しに来た騎士団長だ……って。


「ふふふ、よくぞ見破った。そう、ボクの本当の正体は……」

「サイレントだろぉ?」


「そう、お姫様を探しに来たサイレントだ!!」

 しまった。

 酔っ払いに本当の名前を名乗っちゃった。


忙しい人のまとめ話

サイレント、おっちゃんと別れて、冒険者ギルドに向かう。

サイレント、酔っ払いに絡まれている女の子を助ける。

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