第57話 サイレント、人狼と戦う!?
前回のあらすじ
村長、人狼になったので、みんな寝てしまう。
サイレント、空気を読んで寝たふりをするが、バレてしまう。
「信じられぬが、やはり、わっちの香りが効いていないのだ」
目を丸くする人狼。
「ふふーん、ボクは賢いからね。鼻から息を吸うんじゃなくて、口から息をしているから、眠らないんだよ」
ボクははったりをかます。
「いや、わっちの香りの眠り効果は口から肺に作用するものだから、口から息をすれば耐えられるという代物でもないのだ」
「え? そうなの?」
「そうなのだ」
そう言われれば、眠くなってきたような気もする。
まあ、夜だしね。
多少は眠くなるよね。
「まあ、いいや。眠っちゃう前に倒しちゃおう!!」
「ふはは……わっちを倒すとのたまったのだ? 面白い冗談なのだ。やってみるといいのだ!!」
「それなら、お言葉に甘えて」
ボクはダガーを両脚のホルダーから出しながら、瞬動で距離を詰めて、右手に持っていたダガーで斬りつける。
「させないのだ」
人狼はボクのダガーを口で受け止めた。
人狼はそのまま、前脚でボクの体に触ろうとしたので、ボクはダガーから手を離す。
へへーんだ。
ボクに触ってコピーする気だったんだろうけど、そうはさせないんだから。
「お主、何故、わっちの能力を知っておるのだ?」
ボクが手を離したダガーを人狼は首の力で真上へと投げてからボクに聞いてきた。
ちょっと待って。
たった一太刀で、ボクが触られるのを警戒しているのが分かったってこと?
どんだけ賢いんだよ、人狼。
「知らないよ、なんのこと?」
ボクは口笛を吹きながら、人狼から視線をそらしてとぼける。
「知らないわけないのだ。お主はわっちに触られないように動いているのだ」
「ちっ、気づかれたか……」
触られなければ、コピーのしようもないからね。
「やっぱり知っていたのだ。それなら……」
言いながら、人狼はまばゆい光を出す。
ボクは念のために片目を閉じてから、人狼の一挙手一投足に気を配る。
狼姿から人の影にみるみるうちに変わっていく。
そして、落ちてきたボクのダガーを右手で奪った。
まったく、今度は誰に化けたんだ?
村長か? それともカマテか?
ダガーは奪われちゃったけど、誰に化けたとしても、冒険者であるボクにはかなわないはずだ。
さあ、かかってこい……
「……って、目の前にいるのはボクじゃないか!! え? なんで?」
目の前には確かにボクがいた。
「何をそんなに驚いているのだ?」
ボクの姿・ボクの声で人狼は話す。
「そりゃ驚くよ。だって、ボク、君に触られていないよ。触られていないのに、どうしてコピーできるの?」
「確かにわっちはお主に触ってはいないのだ。じゃが、お主の方からわっちに触ってきたのだ」
「いやいや、ボク、人狼なんか触ってなんかないよ」
「何を寝ぼけているのだ? 昼間、わっちがスケアード・スライムとなって村に出た時に、『何だこれ?』と言いながら、スライムの一部に触ったのだ!!」
「あの時か!!」
触られないように動いていたのに、全然意味がなかった。
「なるほどなのだ。今、パーフェクト・コピーで君に変身して、必要な記憶を思い出させてもらったのだ。アリアがわっちについていろいろと教えていたのだ。悪い子なのだ、アリアは」
人狼はアリアを睨む。
はっ、もしかして、これはアリアを狙っているということか……
「アリアを倒すなら、ボクを倒してからにしてもらおうか」
「うん、君ならそう言うと思ったのだ」
「「それじゃあ、決着をつけようか!!」」
ボクと人狼の声が重なった瞬間、同時に瞬動を使う。
カキン。
ぶつかりあう金属音。
ラッキー。
相手がボクならすぐに倒せるぞ!!
だって、ボク、Fランク冒険者で弱いもん。
すぐに倒してやる……
カキン。
ボクが右手に持ったダガーで斬りかかるが、人狼はそれをボクから奪ったダガーで受け止める。
「どうして倒せないの?」
相手はボクなのに。
ボクと同じ動きをして、全然倒せそうにない。
「同じ速さで、同じ思考に同じ武器なのだ。このままだと決着はつかないのは当然なのだ」
あ、そっか。
相手もボクなんだ。
「もしかして、引き分け狙いなの?」
「引き分け狙いなどあり得ないのだ」
「それなら、どうやってボクを倒す気?」
「色々方法はあるけど、一番簡単なのはこれなのだ」
言いながら、ダガーをボクとは反対方向に投げる人狼。
「どこに投げているのさ!! ……って、まさか……」
「そのとおりなのだ!!」
ダガーはアリア目掛けて一直線。
「させない」
ボクは自分のダガーを投げて、人狼の投げたダガーを跳ね返した。
「よくできましたなのだ。それなら、次は防げるのだ?」
瞬動を使ってアリア目掛けて突進する人狼。
まずい、まずい、まずい。
人狼の方がアリアと近い。
このままだとアリアが大ケガを負ってしまう。
「起きて、アリア!!」
ボクはダメもとで叫ぶ。
「ん? 人狼? 瞬動!」
間一髪のところでアリアは起きて、人狼と距離をとった。
「良かった、避けれて。ところで、アリア、どうして起きることができたの?」
「人狼は狼姿じゃなく師匠の姿になっているから、きっと眠りの効果が薄れたんデス」
「なるほど、そういうことか。それなら、協力して人狼を倒そう」
ラッキー。
一人じゃ無理でも、アリアとなら倒せるはずだぞ。
「師匠、ここはアリア一人に任せて欲しいデス」
「え? でも、人狼はボクの格好をしてるんだよ? 難しいんじゃないかな?」
アリアは一度、ボクに負けているんだから。
「ここはボクと力を合わせて一緒に倒さない?」
「アリアが倒すデス。人狼はSランクデス。人狼よりも魔王の方が強いデスから、人狼を倒せないようでは、魔王を倒すなんて、夢のまた夢デス」
「お、良いこと言うね、アリア」
確かに、Sランクという弱い魔物を倒せないようでは、魔王を倒せるわけないからな……
「師匠が言っていたんデスよ」
「あれ? そうだっけ? まあ、Sランクなら、強さは普通のスライム程度なんだから、気負わずに頑張って。もし、ダメそうなら、すぐに交代するんだよ」
「分かったデス。それに、人狼の弱点ももう分かっているデスしね」
「そいつは頼もしいや」
「それなら交代しても良いデスか?」
「うん、交代しよう」
「ありがとうございますデス」
いやー、良かった。
自分と戦うなんて初めての経験だからね。
ここはアリアに任せよう。
「待たせたデスね、人狼」
「まさかとは思うが、お主がわっちと戦うのだ?」
「そうデス。お前を倒す算段はできているデス」
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、人狼と戦うが引き分け。
サイレント、アリアと交代する。