第56話 サイレント、寝たふりをする
前回のあらすじ
村長狩りの賞金金貨100枚に村人たちは心揺さぶられる。
村長狩りのイベントが村長探しイベントに変更される。
「いたぞ、村長だ!! これで、金貨100枚は俺の物だ!!」
近くで男の声がした。
何だって!?
くそっ、ボクが村長を見つけるはずだったのに。
こうなったら……瞬動で声の主のところまで移動して、ボクも一緒に見つけたことにしよう!
金貨100枚、山分け、いぇーい!!
瞬動!!
「本当だ、村長がいたぞ!! これはほぼ同時に見つけたと言っても過言ではない」
もちろん、過言である。
何故なら、ボク、村長の顔さえ知らないのであり、当然、ボクが村人と同時に見つけられることなどないのだから。
「さすが、師匠。我先に人狼の元へ駆け寄って、人狼を倒す算段なのデスね」
あ、そうだった。
もしかしたら、目の前にいる村長は偽物で、本当は人狼なのかもしれなかったんだ。
……でも、まあいっか。
どうせSランクなんだから、すぐに倒せるさ。
ボクはダガーを構える。
「いやー、どうしたのじゃ、皆の集」
そこにはやせ細って、腰の曲がった白髪交じりのおじいさんが杖をついて歩いていた。
このおじいさんが、村長?
想像していたのとかなり違うな。
もっと、へらへらした元気のよいおじいさんかと思っていたが……
「おい、村長、どうして、死んだふりなんかしようと思ったんだよ?」
村人が尋ねる。
「それはの……突然の思い付きじゃ」
「どうして、隠れもしないで、こんなところにほっつき歩いているんだよ?」
またも、村人が尋ねた。
「それはの……突然の思い付きじゃ」
「それなら、村長、何で杖なんかついているんだよ? いつも使ってないじゃないか」
「それはの、お前たちを油断させるためじゃ!!」
大きな声がしたと思った瞬間、辺りが真っ白な光に包まれ、黒い人影がだんだんと他の影へと変わっていく。
まばゆい光で目をくらませている間に何か仕掛けるつもりなのかもしれない。
あるいは、このまばゆい光で目を潰す気か?
判断に迷ったボクは、片目をとじ、片目だけ開けて、何があっても良いように対処する。
少し経つと光が消えた。
そこに、村長の姿はなかった。
どうやら、光で目を潰す気でも、目をくらませている間に何か仕掛けるつもりでもなく、逃げるための時間稼ぎだったようだ。
「アリア、村長を追いかけよう!!」
ボクはウィンクをしたまま、アリアに話しかける。
しかし、返答がない。
ボクはアリアの方を一瞬だけ目を向けると、アリアはばたりと倒れた。
「どうしたの、アリア!!」
ボクは瞬動を使って、アリアに駆け寄る。
「おのれ、魔王め!!」
アリアは殺気を込めながら怒声をあげる。
あ、うん、これは寝言だね。
……ということは、気配察知。
ボクは気配を探る。
草陰に狼の形をした魔物の気配がする。
なるほど、草陰からこちらの出方をうかがっているわけか。
「狼だ! 狼が出たぞ!!」
ボクは大声で叫んで、みんなに狼襲来を教える。
そうだよ、人狼は一人。
それにたいして、こちらは村人全員。
こちらの方に人数の分があることはバカなボクにでも分かるんだから。
ふふふ、相手はSランクの魔物。
大勢の大人達に囲まれて、リンチにされるのがオチだ。
後悔するとといい、人狼。
……って、あれ?
動く人の気配がない。
……どころか、誰からの返事もないじゃないか。
何で?
村に魔物がいるんだから普通はもっと大騒ぎするはずでしょ。
まさか、ボク、嘘ついていると思われている?
ボク、オオカミ少年じゃないからね。
「嘘じゃないんだよ、本当に人狼が出たんだ!」
ボクが振り返ると、村人全員が倒れていた。
あ、そっか。
みんな寝ているんだ。
魔法が使えるアリアが眠るくらいだ。
冒険者でもない村人なら、アリアよりも早く眠りについちゃうだろう。
「わっちは香りが甘いのだ。そして、お主らは爪が甘いのだ。さあ、お主も眠ると良いのだ」
くっ、しまった。
このままじゃ眠くなって、ボクも戦闘不能になってしまう……
…………
……
あれ?
全然眠くないんだけど。
本当に甘い香りなんかするの?
くんくんとボクは鼻を鳴らす。
うん、してるね。
甘い香り。
でも、眠くならないね。
よし、ここは、眠ったフリをして、やり過ごそう。
「うう、眠くなってきた!! 眠るぞ、眠るぞ!!」
ボクは叫びながら、地面にぱたりと倒れる。
「おのれ、魔王め、許すまじ!!」
「うわっ!!」
アリアが殺気を出しながら寝言を言うので、ボクはびっくりして、ダガーを身構えてしまった。
「何でなのだ、何で寝ないのだ? しかも、ダガーまで構えているのだ?」
しまった、やっちゃったー。
「ああ、今から眠るんで、ちょっと、待っててね」
ダガーを持ったまま狸寝入りはできないと感じたボクは、ダガーをホルダーにしまう。
「しかも、どうして会話までできるのだ? お主、相当強い魔力を持っているのだ?」
「いや、そんなことないから。今から眠るから!!」
本当に強い魔力なんかもってないんだからね。
さて、空気を読んで眠らないと、人狼におかしな人だと思われるぞ。
「……と言っている間に、他の人間なら寝ているのだ!!」
うっわー、すごい警戒されている。
「うわー、眠いぞ」
ぐー、ぐー。
ボクはその場でいびきをかいて、寝たフリをした。
「本当に寝たのだ?」
「そうだよ……」
ボクは返事をする。
「寝ている人間が質問に答えられるわけないのだ。狸寝入りがバレバレなのだ」
しまった。
何で返事何かしたんだ、ボクのバカ。
「いや、ベストなタイミングで寝言が返事になったということも考えられるのだ。もう一度聞くのだ。本当に寝たのだ?」
今度は、うなずく代わりに、ぐー、ぐーといびきで返事をするボク。
「どうやら、本当に寝ているみたいなのだ」
よし、このままやり過ごそう。
「それなら、首をもいでも問題ないのだ?」
ボクは、うなずく代わりに、ぐー、ぐーといびきで返事を……って、返事できるわけないじゃないか。
なんでクビちょんぱされなきゃいけないんだよ!!
「問題大ありだよ!!」
忙しい人のためのまとめ話
村長、人狼になったので、みんな寝てしまう。
サイレント、空気を読んで寝たふりをするが、バレてしまう。