第53話 サイレント、捜査を続ける
前回のあらすじ
アリアの名推理で人狼がカマテの棺に居ることを特定する。
棺の中を開けたら、中に誰もいなかった。
「どうするの、アリア? このまま村人が恐怖にさいなまれたら、人狼の思うツボだよ」
確か、人狼は恐怖を食べて強くなるんでしょ?
このままだと人狼のやりたい放題になっちゃうよ。
「アリア達にできることは何もないデス」
「どうしてさ? 何かできることがあるはずでしょ?」
「アリア達はずっと棺を見張っていました。どうやって死体が棺から逃げたか分からない以上、恐怖を和らげることも、人狼を特定することもできないデス」
「それでも、できることを何かしなくちゃ。それが冒険者ってもんだ」
「でも、推理を間違えたアリアにできることはないデス」
「いや、アリアの推理は間違っていないよ。だって、埋葬されたはずのカマテの死体がないんだもん。つまり、カマテの死体は人狼だったってことでしょ?」
そう、死体がひとりでに消えるなんてことはないのだ。
「確かにそうデス」
「ね? そうでしょ」
よしよし、これでアリアの自信は取り戻せたはずだ。
「それなら教えてください、師匠。どうやって人狼は棺の中から逃げ出したんデスか?」
うん、それはボクにも全然分からないから答えられない。
「それをこれから一緒に考えるんだよ、アリア」
答えを誤魔化すために、ボクはアリアの肩に手を置いて、一番星を指差した。
「そうデスよね。すみませんデス。取り乱したデス」
「分かってくれれば、いいんだよ。それなら、捜査を再開しよう。何か変なところに気づかない?」
「そうデスね……これといっておかしいところはないデス」
「ボク、気になることがあるんだ、アリア」
「何デスか?」
目を輝かせるアリア。
「それはね、宿屋のおかみさんだよ」
「何がおかしいんデスか?」
「おかしいよ。だって、カマテが生きているって分かったのに、喜びもしなければ悲しみもしないんだよ」
アリアがカマテが生きていると言った時、おかみさんはさぞ喜ぶだろうと思って顔を見たのだが、まったく変わっていなかったのだ。
「確かに怪しいデスね。さすが師匠デス」
ふふふ、ボクの観察眼をもってすれば、これくらいのこと気づいて当然なんだから。
「でも、おかみさんはカマテの死体を引き渡した後、棺には一度も触っていないはずデス。もしもおかみさんが犯人だとしたら、どうやって持ち出したんデスか?」
「えっと、それは……」
ボクが分かるわけないよ。
「それをこれから一緒に考えるんだよ、アリア」
ボクはアリアの肩に手を置いて、一番星を指差した。
誤魔化すために。
「そうデスね」
さっきと同じ行動をしたためか、アリアは不審そうにこっちを見てくる。
まずい、誤魔化しているのがばれてしまったかもしれない。
ここは嘘を嘘で重ねるように、誤魔化しているのを誤魔化さないと。
「アリア、現場を良く調べよう!!」
ボクはアリアに大きな声で言って、大げさに棺を調べる。
何か、何かないのか?
ボクのごまかしを語ませるような手がかりが。
「あれ? 棺の底に小さな穴があるよ、アリア」
「本当デス。1cm程度の穴があるデス」
「分かったぞ!!」
ボクは大きな声をあげた。
「本当デスか?」
「うん、これは空気穴だ」
「空気穴デスか?」
「うん、そうだよ。息ができなくなったら、死体も苦しくなるでしょ? だから空気穴を開けておいたんだよ」
「師匠、死んだ人は息をしないので、空気穴は必要ないデス」
え? そうなの?
不審そうな目でこっちを見てくるアリア。
まずい、誤魔化しているのを誤魔化せない……
「もちろん、冗談だよ、冗談」
「師匠、冗談を言っている場合じゃないんデスよ!!」
さすがの温厚なアリアも怒っている。
怒っているアリアも可愛いな……じゃないよ。
ここは早急になんとかしないと。
「もしかしてだけど、ここの小さな穴から抜け出したんじゃない? アリア」
「師匠、カマテの体の大きさは少なく見積もっても140cm程度デスよ。1cm程度の小さな穴からどうやって抜け出るんデスか?」
確かに、こんな小さい穴から這い出ることなんてできやしないか……
まずい、アリアにバカだと思われてしまったかな?
「そうだよね……でも、この穴、ちょっと湿っているからさ、ここから何かしたのかなって思ってさ」
「本当デス。湿っているデス」
「そうでしょ? そういえば、カマテの棺を持った時も湿っていたな……」
「師匠が、カマテの棺を持った時デスか?」
「うん、そうだよ」
「その時、他になにか感じなかったデスか?」
「あの時は生温かくて、カマテの返り血かと思ったけど、違ったんだよね……」
「大切な事なのでよく思い出してくださいデス」
「そういえば、ゼリーみたいなプルっとした感触だったような気がする」
「そういうことデスか!! アリア、人狼が棺から脱出した方法が分かったデス」
「本当に?」
「本当デス。師匠のおかげデス」
「え? あ、うん」
あれ?
ボク、何かやっちゃった?
「それなら、はやく説明して、みんなを落ち着かせないといけないよ、アリア」
「そうデスね」
アリアはこくりと肯くと振り返った。
「皆さん、落ち着いてください。人狼がどのように棺から姿を消したかが分かったデス!!」
「何、本当ですかな?」「どうやって姿を消したんだよ?」「どうやって姿を消したんだね?」「教えてほしいですわ」
「それは、棺にあるこの穴からデス」
「人狼はその穴からでることができるくらい小さい魔物ということですかな?」
「いいえ、人狼はこんなに小さくないデス。狼姿の体長は2mを超えるはずデス」
「2m? それなら、その穴から逃げることなんてできませんな」
「そうデス。人狼の姿なら」
「……ということは、人狼は人間の姿だったということですかな? 子どものカマテの姿でも145cmですな。人間の赤ちゃんに化けたところで、50cmほど。1cmの穴からはでられませんな」
「確かに、人間に化けていたらこの穴からは出られないはずデス」
「それなら、人狼はどうやって棺から出たというのですかな?」
副村長は首を傾げた。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、棺に小さな穴があいていることに気づく。
アリア、人狼がいなくなった