第52話 アリア、推理を外す!?
前回のあらすじ
アリア、人狼は村長とカマテに化けて、自殺していたと推理を披露する。
人狼は今、カマテの死体に化けているはずだと言う。
「死体を掘り起こして、中を確認するデス!!」
「大丈夫なのですかな? もし、既に復活していて、死体を掘り起こした瞬間、襲ってきたりしたりしないのですかな」
副村長は青ざめている。
「副村長さん恐怖状態になれば、人狼の思うつぼデス。怖い気持ちはわかるデスが、落ち着いてくださいデス」
「そうでしたな、何とか落ち着きませんとな」
深呼吸をし始める副村長。
「安心してくださいデス。ここには師匠がいるんですから」
「そうです。ボクに任せてください!!」
Sランクの魔物なんか、一発KOですよ。
ボクはどんと胸を叩いたが、帰って来たのは、全員からの冷たい視線だった。
本当に大丈夫なのか……と目で訴えている。
「みなさん、安心するデス。師匠もいるですし、及ばずながらアリアもお手伝いするデス。それにこの村には、最強の矛と最強の盾を持つムーとジュンもいるデス。みんなで返り討ちにしてやるデス」
アリアは大鎌を構えた手前、ボクもダガーを構える。
「そうです、みなさん、ここにはタナトス教団の教祖であるネークラのお清めの塩もあるのです、はい。これがあれば人狼はにげていくので安心するといいのです、はい」
「言いにくいデスが、その塩に魔物除けの効果はないデスよ」
「何たる、侮辱! 何を根拠にそんなことを言うのですか、はい」
「でも、アリアちゃんの発言は、本当ですわ」
「嘘ですよね?」
「嘘じゃないデス」
「嘘じゃないのだわ」
嘘発見調査官がアリアの言葉に嘘はないとお墨付きを与えた。
「なんですと!! この塩を作るのにどんなに手間と時間とお金がかかったか……」
膝から崩れ落ちるネークラ教祖様。
「ネークラ、そう気を落とすのではありませんな。人狼を呼び起こす前に清めの塩の効果が薄いと分かっただけで、良かったではないですかな?」
「何がいいんですか? ……はい」
「もし、知らなければ、蛮勇で命を落としていたかもしれないのですからな」
副村長がフォローをしてくれた。
「はい、そうですね、はい」
「それでは、ネークラは後ろに下がって。ムー、ジュン、まずは、カマテの棺を掘り起こすのですな」
名前を呼ばれた双子は木製のスコップで土を掘り返し、棺を取り出す。
「師匠、何か気配は感じますか?」
「土の中に居るのが死人なら、気配なんか感じるわけないでしょ」
「気配がないといういことは、少なくともまだ復活はしていないようデスね」
「そうかもしれないけど、油断しちゃダメだよ、アリア。いつ復活するか分からないんだから」
ボクはダガーを構えてごくりと唾を飲みこむ。
「分かっているデス。それでは、中を見てみましょう。誰か、棺を開けて欲しいデス」
アリアは、墓場にいた全員に視線を向けた。
みんな、視線が合いそうになるとみんなそっぽ向く。
なんて薄情な人たちなんだ。
一番にアリアの視線から逃げたのはボクだけど。
「師匠、お願いするデス」
名指しされた。
一番にアリアの視線から逃げたのはボクなのに、一番危ない役を押し付けられた。
「開けるのは他の人でもいいんじゃない? ほら、ボクは出てきた相手と戦う役目があるからさ」
「いやいや、ここはサイレントさんがあけるべきですな」「そうだよ、長年付き合いのあるムゴイ姿のカマテの死体は直視できないよ」「そうそう、長年付き合いのあるムゴイ姿のカマテの姿は直視できないね」「そうですわ、嘘発見調査官の水晶がサイレントが適任だと言っていますわ」
おい、嘘発見調査官、嘘は発見できても、適任かどうかを判断するスキルなんかお前にないだろ!!
「何だかんだ理由をつけて、ボクにあけさせる気でしょ?」
「もちろん、そうですな」「もちろんだよ」「もちろんだね」「もちろんですわ」「そうですね、はい」「そりゃそうでしょ」
こういう時だけ、団結しやがって!!
「分かったよ、開けるよ。開ければいいんでしょ」
ボクは観念した。
「ムーとジュン、もしかすると、人狼が狼姿で復活するかもしれないデス。狼姿の人狼の香りには、眠り効果があるデス。師匠が棺を開けたら息を止めてくださいデス」
「分かったんだよ」「分かったんだね」
「それでは師匠、お願いしますデス」
ボクはごくりと唾を飲みこむ。
棺を開けた瞬間、人狼が襲ってくるかもしれない……
震える手で、おそるおそる棺を開けた。
「中に誰もいないよ!!」
棺の中は空っぽだった。
「何で空っぽなんデスか?」
中にはカマテの死体さえない。
「もしかして、誰かがグルになって、人狼を逃がしたとか?」
「確かに、その可能性はあるデス!!」
「カマテの遺体を埋葬した後、墓場には誰も入っていないよ」「そうそう、誰も入っていないね」
「それなら、ムーとジュンが人狼とグルなんだ」
「僕達が墓場に入ったら副村長にばれちゃうんだよ」「そうそう、ばれちゃうんだね」
あ、そっか。
「グルということはなさそうデスね」
「それなら、おかみさんがグルで、そもそもカマテの死体を棺に入れなかったとか?」
最初から中身が空なら、
「そんなことないですな。死体を入れたところは貴方達も見ていたはずですな」
「それもそうですね」
「それじゃあ、やっぱり、ムーとジュンがグルで、カマテの棺を運んでくる途中、人狼を逃がした……とか?」
「みんなが見ている前で運んだのに、どうやって逃がすんだよ?」「そうそう、そうやって逃がしたか説明して欲しいね」
確かに。
棺を運んでいる最中、逃がしているようなそぶりは見られなかった。
「道中、副村長であるこの私が二人の様子をずっと見ていましたが、逃がすなんてことはしていませんな」
副村長がいうのだから間違いないだろう。
「それなら、村長の時と同じで、埋葬された後、恐怖を糧に復活して、土から逃げていたとか?」
「村長の時のように人狼が自分で土から出てきたなら、すぐに気づくよ」「そうそう、すぐに気づくね」
それもそうか……
「分かったデス。人狼は最初から、この棺と同じ棺をもう一つ用意していたんデス」
「そんなことしてどうするの?」
「今、掘り起こした棺は、人狼が用意しておいた偽物なんデス。近くに本物の棺があるはずデス」
「それはありませんな。お墓の位置は1cm単位で決まっていますからな」
「それなら、一つの棺を浅いところに埋めて、一つの棺を深いところに埋めれば、いいんじゃないデスか?」
「お墓の深さも1cm単位で決まっているんだよ」「そうそう、決まているから無理だね」
「それじゃあ、どうやって人狼は逃げ出したんデスか……まさか、アリアの推理が間違っていたんデスか」
アリアの狼狽ぶりを見て、墓場にいた全員がざわつき始める。
「確かに死体はないですわ。つまり、死体は煙のように消えたということですわ」「……ということは、人狼はまだ村の中にいるということか」「おいおい、人狼は村人に化けることができるんだろ!? 誰かが人狼に成り代わっているかもしれないってことか?」
墓場はプチパニック状態となり、人々の恐怖に包まれてしまった。
忙しい人のためのまとめ話
アリアの名推理で人狼がカマテの棺に居ることを特定する。
棺の中を開けたら、中に誰もいなかった。