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罪悪感を抱えて



【エンディング回収ーーー忘却の姫君は籠の中】


エンディングが終わった。

私と先生は同時に戦いを止める。


「終わり、ました…?」


「ええ、終わりましたね。

下を見てみてください、ヒロインが幸せそうですよ」


私は先生に言われた通り下降しながらヒロインに目線をむける。


「ハクセイさまぁ、ハクセイさまぁ、

見て、空飛んでる奇麗なお人形さんたち!」


「う、うぬ。そうじゃのお」


「人間が死んじゃったらもっともっと奇麗なものが見られるんでしょ?

私、ハクセイさまと一緒に奇麗なお空見てみたい!

人間はやく滅びて、ハクセイさまとずーーと、いられる日が来ないかな」


「ああ、醜いかの生き物は全て消し去り、おぬしの視界になど入れさせたりはせぬ」


「あはは、ハクセイさま優しい!大好き!」


…しあわせそう、か?

どっちかと言うとメリーバットエンドでは?

いや、私もそのエンド目指してたけど。


「なんかお姫様幼児退行してませんか?」


「まあ、メリーバットエンドだからね」


「…なんか違う気がする」


「君も処罰されないし、よかったね」


「初めて仕事を達成した弟子を先生がいじめる…!!」


いや、良かったは良かったのか?

私はメリバ好きでもないから良く分からないけれど。


ともかく地面に足を付けて風魔法を解いた私だがセイレンがこちらを向くことは無い。

何があったのかは知らないが、洗脳かな?

乙女ゲームって洗脳OKだったっけ。


…ん?


「セイレン?」


私は思わずセイレンの名を呼んだ。


「なあに、お人形さん?」


笑みの形に歪められた唇に、焦点の定まらぬ瞳。

理性の光が消失した桃色の瞳からは、濃いアメジストの輝線はもはや無く、濁り混濁している。


これが幸せ?


おかしい。だってセイレンの目から透明な雫が頬を伝っている。

こんなの…


「良かったね、ミルリ。

サポートクリアだ、彼女はとても笑ってる」


先生がいつもより優しい声で褒めてくれて、私を撫でてくれる。

嬉しいはずなのに、涙が溢れる。


「終わったか、時空天使どもよ」


魔王は平然と瓦礫の上に寝転んで、こちらに冷ややかな目線を向けてくる。

流石に魔王ともなると、この世界の仕組みについて知っているのか。


でも、驚愕の表情を浮かべるハクセイは知らない。


「時空天使…?

ミルリさまは初めからクライさまと協力関係にあったのか?」


違う。

そうだけどそうじゃない。

ゲームの進行中は確かに私は貴方たちの仲間だった。


先生はハクセイを無視して、魔王に向き直る。


「ええ、魔王。

これにてこの世界は明瞭さを獲得し、我らの管理下から離れます。

では、私たちはこれで」


先生は私に手を差し出す。

子どもじゃないんだし、私も帰り道が分からなくなることはない。

だが、ハクセイの非難するような視線の中で置いていかれるのが嫌だった。


だからその手を取る。


「ハクセイ、セイレンとお幸せにね」


私は振り返りもせずに、先生と一緒に転移陣を発動させる。

さよなら、この世界。

そして、ばいばい、…セイレン、ハクセイ。














時空天使管理局。


私は自分に与えられた自室へと戻り、やや埃を被った布団にダイブした。


もし、私ではなく先生が、あるいは力ある者がセイレン側のサポーターだったら、未来は変わったのだろうか。

いや、そしたら魔王側が不幸になる。


でも、明確に自分のせいだと分かる終わりは苦しくて辛い。


分からない。じゃあどうすれば良かったの?


コンコン。


「入るよ、ミルリ」


先生の声だ。


「はい、」


私はベットから飛び起き、ドアを開ける。

いつも通り先生は穏やかにほほ笑んで…そういや、それ以外の表情見たことないな。

私はちょっとのことで泣いたり笑ったりしちゃうのに、なんか羨ましい。


「先生が私の部屋を訪ねるだなんて、初めのころ以来ですね。

あ、お茶かコーヒーどっちにします?」


「お茶で。

どうせ君は苦いもの嫌いだし、コーヒーとは名ばかりのドロドロに甘いカフェオレなんだろ?」


「まあそうですけど。

でも、商品名はちゃんとコーヒーですよ?」


「商品詐欺じゃないか」


「無糖こそ飲めたもんじゃないですよ。

それで、今日は何の用事ですか?」


「…君が落ち込んでると思って」


…。

こういう人のことを出来た大人って言うんだろうな。

なあにが天は二物を与えず、だ。

顔もよくて性格も温和で、察しもよくて、仕事も優秀。

しかも気遣いもできる。

二物どころの話じゃない。


「…そういうとこ、好きですよ。

お茶は麦茶で良いですよね。苦いお茶は嫌いなので」


「その渋みがいいんだけどね」


「はいはい。お茶入れてきます」


私は狭いキッチンの小さな冷蔵庫を開けて、麦茶の容器を取り出す。


「あと、私、君の担当から外れるから」


「え、」


「もう君は一人前だし、上司に『お前は人を育てるのに向いてない』って言われてるし」


先生が私の先生じゃなくなる?

今度はあんな辛い任務を一人でしなきゃいけないの?


「私、一人で…出来るのでしょうか」


「出来るかどうかというか、しなくちゃなんないからね」


「そんな…」


「それが時空天使だからね」


それが時空天使。

私もそのことはよく知ってる。

時空天使が人の生殺与奪をいとも簡単に決めてしまえることは。


だって私は時空天使に殺された。

それも単なるお遊びで。





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