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転換せし分岐点


魔王…そう呼ばれる魔族の絶対王者は口元に軽薄な笑みを浮かべながら、ハクセイの攻撃を軽くはじく。

それだけでハクセイ自身も吹っ飛ばされ、受け身を取ることすら辛いようだ。


「あ~ぁ、もう勝てないって分かってるのに何でそう頑張るかなぁ」


「そんなもの、貴様らを滅ぼし不浄を正常に戻すために決まっておろう!」


「へえ、魔族が居なくなれば平和?ホント?」


「何を…」


「貴方はもう知っているんじゃないのかな…人間の醜さを」


「…っ」


魔王の、掘りが深いラテン系の端正な顔立ちに確信じみた荘厳な笑みが生じる。

先ほどの軽薄な感じから一転して、彼は傲慢なほど自信に満ちている。

この威圧こそ彼を魔王たらしめる理由なのだろう。


「人間の存在する地球と、存在しない地球、どちらが美しいと貴方は思うのかなぁ?」



「…ワシはっ」


その問いに何かを言いかけるハクセイだが、それにハクセイが応えることは無かった。

ガサっと背後から音がして、一瞬なにかがハクセイの視界の片隅で光る。


ぐじゅっ


柔らかい肉を切り裂くような音とともに、それはハクセイを貫通する。

ごほっっと血を吐きながらハクセイは自身の腹部に目をやると、長剣…それも神殿の聖剣が己に貫通していた。


「ひひひっこれでワタクシが次の神官長。

あぁ、こいつは顔だけは奇麗だったのに惜しいな」


「おぬしは…!」


神官長の座をかつてハクセイと争い、その人望の無さからハクセイに大差を付けられて負けた中年の上級神官は狂ったように笑いながらハクセイから剣を引き抜いた。


「ひひ、お前のせいで!」


上級神官は何度もハクセイを蹴りつける。


「なんでワタクシがこんな辛酸をなめなければならなかった!」


自業自得であるのに、自分を悪と認めない愚かさ。

この状況で味方より私情を優先する下劣さ、浅ましさ。


醜い。


醜い、醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い。


しゃがれた声が気持ち悪い。


「ちなみに今日の手引きをしたのはこいつだ。

いくら低能だろうが、結界を弱める魔力量だけは持っていたようだ」


あぁ、そこまで愚かだったのか。

やはり人間は駄目だ。


たとえ、魔族との闘いに終止符が打たれても、今度は…


「人間同士で争うだけ、でしょ?

さて、我が問いの答えを聞こうじゃないか」


魔王は上級神官の尻を蹴り上げ、塀に吹っ飛ばす。

そして自身の手を軽く切り、ハクセイに差し出す。


「魔として世界を平定するか、醜き人のまま死ぬか。

選ばせてあげる」


そんなもの、もう決まっている。

不浄を消し去り、清浄だけの世界。

それが美しい。


そう、醜い人間など邪魔ーーーー



「ダメです、ハクセイさま!!」




最後に愛しい者の声がした。

【だからこそ】、ハクセイは魔王の血を口に含み、魔となった。











sideミルリ


「ダメです、ハクセイさま!!」


ハクセイはセイレンに名を呼ばれた時、蕩けたような極上の笑みを浮かべ、ーーーーー魔王の血を啜った。


「は、ハクセ、イさま?」


黒い瘴気を纏い、魔族へと変質していくその男は、洗練された仕草で魔王の元に跪く。


「おや、遅かったじゃないか。

今代の大賢者、…そして、美しき光の乙女よ」


魔王はクツクツ笑い、袖で口元を覆う。


「ハクセイさまに何したの!」


「何とは、まあ、彼が望む姿を与えただけだが」


「魔族の姿がハクセイさまの望んだもの?

…そうなのですか、ハクセイさま」


ハクセイは立ち上がり、先ほど部屋でセイレンを甘やかしていた時と変わらぬ穏やかな眼差しをたたえていた。


「清浄な貴方と並び立つためには醜い人間の姿は不要じゃからのう」


なるほど。

人間を醜いものだと知ってしまったがゆえに、その醜い姿で清浄なセイレンに触れることが耐えられなくなった。だからセイレンの隣にいつまでもある為にハクセイは魔となったのだろう。


「私、気を付けて、って言ったのに」


「すまんの、ミルリさま。

じゃが、気を付けたところで結果は同じじゃ」


まあ、私の行動では主要キャラの人生を揺るがすことなんて出来ないし、する気もなかったしね。

それでも、まあまあ関わった人物が敵に回るのはなんだか悲しいね。


「ミルリさま、ハクセイさまの元に降ろしてください」


声が強張り、私と視線を交わらそうともしないセイレン。


「いいけど、私が協力できるのはここまでだよ」


「え?」


ようやくセイレンがこちらを向く。

あ、目元赤くなってる。

泣いたのか。


私は望み通り下に着地する。


振り返れば、いつの間にやら先生が立っている。

三対二ってひどくない?

セイレンはまだ魔法の基礎段階だし、こっちはまともな戦闘要員私しかいないんだけど。

まあ、それを乗り越えるのがヒロイン…だといいな。


「先生、もしかして最終選択、分岐点に入ってるんですか?」


「ふふ、よく分かりましたね。

さすが我が弟子。

でも私を退屈させてくれたのでさっさと進めちゃいました」


「ひど…せめてもう少し待ちましょうよ」


「勝負は手を抜かない主義でして」


「そーですか!」


私は左足で地面を抉り、風魔法で空に飛び立つ。

先生、勝てないのは分かってるんですが、一発殴らせろ!













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