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ミルリの決断





荒れ狂う闇の嵐がすべてを壊す。

闇の大賢者クライの得意魔法は風…という設定らしい。


てか、神殿が全壊しかけてますけど!?

おい、闇に対抗する聖なる結界はどうした!

この世界、パワーバランスがおかしい…

理不尽ここに極まれり、だ。


「ミルリさま、あの恐ろしい方は…」


セイレンの声が震える。

でも、私はそれどころじゃない。


これは、このイベントは本来この時期ではない。

ずっと、ずっと、後の話。

なのに、なぜ先生はここで起こしたのだろう。


『魔王降臨イベント』を…!!


『魔王降臨イベント』。

それは魔王の配下、クライが光の乙女のいる神殿を襲撃する。

全てを闇に染めるため、光の乙女を亡き者にせんとするクライ。

それを決死の覚悟で止め、光の乙女を逃がすのがハクセイだ。

この時までにとあるイベントを解決していなければハクセイは闇に呑まれ、次に相まみえる時には…

で、なんでこのイベント名が魔王降臨なのかというと、光の乙女は大粒の涙を流しながら走るが、その前には魔物が。

絶体絶命。

それを助けるのが魔王なのだ。


なんで魔王たる彼が魔物を殺すのか。

それは彼が心から生まれる闇に心酔しているからである。

心を持たず本能だけで動く者は彼にとってただの”もの”なのである。





「ミルリさま、上!」



天井が崩壊し、垣間見える闇の魔力。


「…『螺旋の暴風』」


先生の軽やかな詠唱が空気を伝って浸透し、螺旋状の風の刃がこちらみ向かう。


なぜ、今なんか。

先生…、なんで、

そう問うてしまいたいけどセイレンが居る。

運命を伝えてはならない。

私も先生の考えが分からない。


…だけどっ、じっとしていたら負ける!


「…っ!『螺旋の暴風』!」


私は同じ詠唱を唱える。

だって私も風の魔法が得意、という設定だから。

螺旋を描いて、暴風がぶつかり合う。

先生は薄っすら唇に弧を作り、普段は澄みわたる青空のようだった瞳は深海のように澱んでいた。


「あぁ!貴方はこんなところにいたのですね、ミルリ。

わたしだけの愛しく、哀れな贄」


ぞぞっ

スイッチが入っていらっしゃる。

寒い、普段の先生を知ってるから、と、鳥肌が。


「さあ私と同じ時を生きる者よ。

もっともっと私と同じに…そう、同じだけ堕ちなければならないんだ!」


なんの公開処刑だ、これは。

まあ、こういう風にヒロイン以外に愛を囁かなければ、顔のいい男は攻略対象にされてしまうから仕方ないんだけど…

その相手が同じ時空天使であれば安全なのも理解できる。

先生がヒール側で、私がヒロイン側だから、先生がヤンデレを演じなくてはいけないのも。


でも、でも、でも!

普通に恥ずか死ぬ!!

あと、整いすぎてても華美でなく、川のせせらぎのように目に優しい顔がわりとタイプなので二重にダメージが…


このまま先生に負けたいかも…。

でも、ヒロイン幸せにできなければ時空天使不適任で、処理されちゃうし(時空天使の闇)。

どこも闇ばっかだよ。

だから幸せになるために、ヒロインは堕ちない、と…い、



『私はどうすれば良いのですかっ

苦しいのですっ

自分でどうにかしなければならないのはわかっています。…いますが。

怖い。

もがけばもがくほどあの方を好きになる。

もう、わからない。

私、いつかハクセイさまをどうにかしてしまうかもしれない。

嫌です、そんなの。

貴方が答えを知っているならば、お願い…助けて』


いけない、はず、






……………………………それは本当幸せ?


私が先生と戦って勝ち目なんか無い。

サポート力においても、負けている。


だから、私なんかがサポーターになった悲劇のヒロインをせめて幸せにしたくて、



「ミルリ、いささか油断しすぎだね」



先生は私を引き寄せる。


「ミルリさま!!!」


つんざくようなセイレンの悲鳴。

耳が痛い。

でも、それは彼女の心の痛みそのものを表しているから、耳を塞ぐ気にもならなかった。

…だってヒロインは誰にでも優しくしてくれるから。


先生は先ほどの狂気的な愛ではなく、いつもの読めないアルカイックスマイルを浮かべていた。


「ーーーーー大丈夫、貴方はいつだって正しい。

自分が思う通りにやればいいんです」


そういや、いつも悩み始めたら、必ず先生がフラッと来てヒントをくれた。

まるで先生の方がヒーローみたいで。


眩しくて。


「ふふっ、私が思う通りに、ですか。

そしたら今生の別れになるかもしれませんよ?

ま、先生が手加減してくれるなら何とかなるかもしれませんが」


「私、勝負事には全力を尽くす主義なので」


「ちえー」


私は飛び退き、宙で一回転してセイレンの傍に戻る。


「お姫様、失礼するよ」


私はセイレンを肩に担ぐ。


「え、きゃ」


「揺れるけど舌、嚙まないようにね」


色気のない担ぎ方だが、姫抱っこなんて両手が塞がるものは出来ない。

先生相手にやったら死ぬ。

いや、殺されはしないだろうけど、エンドが決まる。


私はまだどれが幸せなのか分からない。

だからまだ舞台から降ろされるわけにはいかない。


「ミルリさま、あの、私、ハクセイさまをさが…!!」


「探したい?」


「はいっ!私、まだ戦闘は苦手なのでミルリさまのハンデにならないように降ろしてほしいんです!」


「なら、大丈夫。

戦いながら探したら壁とか壊れるし見やすくなるよ」


「ミルリさま!??」


それに今のセイレンの力じゃ間に合わない。

ハクセイの闇落ちが正解か分からない以上、ここで阻止するべきなのだ。


慌ただしく表情を変えるセイレンに私は笑いかける。


「大丈夫、私は貴方のサポーター。

貴方の幸せを望んでる!」


だって、


それが私の存在意義だから。























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