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ヒロインを苦しめるもの


数か月後…





「我が乙女、ほら、口をあけよ」


「じ、自分で食べられますです…あっ」


「ふふっ」


辞めたい。

私は何でここにいるんだろう。

セイレンの「ますです」は可愛かったけど、くっそ甘い。

そこの神殿騎士も胃もたれしたような顔してるし…帰っていいですか?


うん、先生が笑顔で、ダメに決まってるでしょ、と圧力をかけてくる幻覚が見えます。

…そうですか、だめですか。

時空天使で実績積んだら転生の希望が通ることを願って頑張りましょう。


「ハクセイ、お姫様は自分で食べられると言っている。

意思を尊重しなさい。刻むよ?」


「じゃが、もしスプーンが喉に刺さったら…!」


「貴方はアホか?」


…んなドジ属性いるわけないだろ。

たとえヒロインがどんなにおっちょこちょいでもそんな馬鹿な死に方はしない。

そんなことで死なれたらゲームが始まらないし。

まあ敢えて上げるなら、18禁の飼いならされ系ヒロインくらいでは?

飼いならされ系ヒロインとは幼いころから自分で生活できないように世話され…うん?目の前の行為はその前触れとかないよね?

ここは18禁は禁止だよ!?

少なくとも本編期間は絶対にできないからね!


それにしても、セイレンは『また』倒れたのか…。

私はセイレンをちらりと見る。

ヒロインは頑張り屋さんすぎて無理をする。

中には自己犠牲がすぎて、見知らぬ異世界のために命落としました系ヒロインもいるくらいだ。

だからこそ、定期観察を怠ってはいけないのだが…


「で、何で私を呼び出したの?

私、忙しんだけど」


主にヒロインと他の攻略対象の出会いの妨害とか、妨害とか。


「それはのう、セイレンがあまりに倒れすぎるので、体調が心配になっての。

ミルリさまは医学にも精通しとるじゃろ?

一度セイレンを看てほしい」


「ふむ…」


確かにそれは必要かも。

ヒロインが単なる病気で死ぬことなんかないんだけど、弱ってるときに襲われたら危険だ。

ついでに、ハクセイとの進展具合も聞きたいし…


「わかった。

看てみるから、ハクセイは出てって」


「えっ…なぜじゃっ、ワシもセイレンが心配じゃ。

片時も離れとうない!

もういっそ…囲い込んで魔力を奪って飼いた、こほん、慣れとる人がおった方がセイレンもよかろう」


うわっ…『飼いたい』って言いかけたね?

ごめん、セイレン。

こいつ、ヤンデレ属性だったわ。

てっきりその属性、闇落ち時のみかと思ってたけど、天性のものらしい。


というか『飼いたい』ってペットじゃないんだし。

いや、ハクセイにとっては…

まあ、幼女に恋するようなやつだし。


「だから今からお姫様を『看るの』。

清廉な神官長さまはいたいけな乙女の裸体を見る気?」


「セイレン」と「清廉」を掛けてるわけじゃないよ、断じて。

あ、そこの神殿騎士笑ったな?というか爆笑してるな。

言った私もあれだけど、そこまで笑える君のギャグセンスを疑うよ。

…まあ、面白そうなので後で飲みに誘おう。


「ら、裸体…!?だめです!ハクセイさま、そこの騎士さまを連れて出て行ってください!!」


「むうう…我が乙女がそういうならば」


さすがに全年齢キャラ、単に一緒に居たいだけで、肉欲はないらしい。

あったら物理的に沈めるけど。


「ゆくぞ、ユイラン」


その神殿騎士、ユイランって言うのか。

細身だけどしっかり筋肉ついてそうな美丈夫だからなんか似合わないな。

男だし…異国の生まれなのかな。


さて、二人とも退出してくれたことだし。


「セイレン、悪いけど上体だけ脱いでくれるかな?」


「は、はい」


セイレンは慌てたように脱ぐが、ふと視線がハクセイの出て行ったドアに向かう。


「ハクセイがいないのは不安?」


「え、はい、いや、ちが…

私はただハクセイさまに貧相なものをお見せしたくなくて…じゃなくて!!!」


分かりやすすぎない、この子。


一先ず仲は順調なのね。


私は軽く診察し、茹でだこになっているセイレンに服を着せる。

セイレンはボーっとされるがままだが、その視線は私の胸の方に集中していた。

大きい、ハクセイさまはもしかして、…なんて声も聞こえるし、やはり順調なようだ。


私は何食わぬ顔をして、セイレンに聞く。


「どうしたの?」


「あの、み、ミルリさまはハクセイさまのことどう思います!?」


「単なる同志。もしくは変態野郎」


「やっぱり好…え、ええ!?」


ごめん、勇気を振り絞って聞いてくれたんだろうけど、それはあり得ないから。

変態は対象外です。


「あ、じゃあ、…相談にのってくれますか?」


もじもじするセイレンは可愛い。

なのにどうしてあんな変態を…、うん、私のせいだわ。


「いいよ」


「…私、おかしいんです」


セイレンはそう前置きをして話し出す。

セイレンがここに来た時、口さがない者がいたけどハクセイだけは優しかったこと。

ハクセイがいつも悩みを聞いてくれたこと。

どんなに忙しくても一緒にご飯を食べてくれたこと。

りんご飴を買ってくれたこと。

そして…


「初めて魔法を使って倒れた時、朦朧とする意識の中でわずかに浮上できる時があって、ハクセイさまが私を抱いて走っているのに気づきました。

普段は穏やかにほほ笑んでいる方が、私のために焦ってくれている。

ハクセイさまの白磁の肌が日で傷ついているのに、それすら厭わず私のために汗を流して走る姿は…」


なるほどね、あの時か。

ごめんね、私見捨ててた。


「奇麗なものを穢してしまったみたいで…私…許されるわけがないのに。

神に仕える神官長とただの平民だなんて…!

あり得ないことですけど、もしあの方が望んでくださるなら、どこまでも堕ちてもいい…そう思ってしまったのです」


うーん、まあ君も単なる平民じゃないけどね。


はてさて。

どう答えるべきか。

闇落ちしてもいいよ!…って言いたいけど、どんな答えでも答えをあげちゃうと悩みが弱くなっちゃうんだよね。


私の求めるルートだとヒロインも闇落ちしてもらわなきゃ困るし。

だから闇落ちのためには言うべきじゃない。


…でも。


セイレンは心臓を抉り出しそうなほど胸をかきむしって、辛そう。

可愛い顔も苦痛に歪んで…


私…でも、ルートは、


「私はどうすれば良いのですかっ

苦しいのですっ

自分でどうにかしなければならないのはわかっています。…いますが。

怖い。

もがけばもがくほどあの方を好きになる。

もう、わからない。

私、いつかハクセイさまをどうにかしてしまうかもしれない。

嫌です、そんなの。

貴方が答えを知っているならば、お願い…助けて」


セイレン…


私にとってはセイレンを預けてほんの数か月経っただけだった。

でも、貴方の心は大切な人のため、大人になろうと無理に成長した。


私、ヒロインサポーターなのに、ヒロインがハクセイに恋をしたことも、ここまで思い詰めていたことも何も気づけてなかった。


ルートだけ押し付けて、本当のセイレンの幸せを考えてなかった。


私…


…。



「お姫様、聞いて」


貴方にせめてもの私が伝えられる答えを…





その時だった。


どこかで地面が割れる音がする。

振動が足を震わす。



「ミルリさま!セイレンさま!

闇の大賢者クライに神殿が襲撃されました!!」



ユイランがドアを蹴破る勢いで入ってくる。



…!?

そんなイベントはないはず!







どうして、…先生。











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