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番外編ーーー壊れた先は優しい囲い







あれから100年。




「ミルリ?」


いつもなら遠慮してクライの部屋を訪ねることなどないミルリがノックもせずにクライの部屋に上がり込む。


「今日はえらく大胆ですね。

私、一応時空天使の中でもけっこう偉い方なのだけど」


「…」


ミルリはいつもなら言い返すところなのに、返事がない。

クライは不審に思って、指先でミルリの顎をくいっと上げた。


「せん、せ」


ミルリの淡い青の瞳は理性の光が浮かんでは消え、また浮かんでは消える。


「やくそく、」


「!

覚えててくれたんですね!

しかもおぼろげな意識で私の元へだなんて、私、君に愛されてます!」


クライは嬉しそうに破顔し、ミルリを抱きしめる。


「さ、囲いの中に行きましょうか」


「私、まだ壊れ、てない、けど」


「最後くらい私が壊してさしあげますよ」


「…悪趣味」


「その悪趣味な男を選んだのは誰ですか」


「っち」


「舌打ちしても無駄ですよ。

君の趣味の悪さを呪ってください」


クライはミルリを横抱きにして、上機嫌な足取りでベットに向かう。

クライが愉しそうなのが嬉しいのかミルリは首を摺り寄せる。


「ミルリ、今日はいつにも増して素直ですね」


「不満?」


「いえ、囲われる哀れな少女はやはり素直な方が哀れ感が増して良いです。

あ、首輪付けますね。それと足枷も」


「それ、何時ぞやの首輪…そして何か増えてな、い?」


「あれはお試しですからね。

ちなみにこの足枷の鎖の範囲内はベット内です」


「せま…てか、首輪もリード、鎖になって、るし」


「お試しですからね。

そして囲いとは、相手の筋力を落としてどこへも行けなくさせるのは基本です」


そういうものなのか。

ミルリは首を傾げたがもはや口に出す余力も無さそうだ。


「私、このまま消え、ちゃう?」


「いえ、何百年か経てば戻るんじゃないですか?

体は私にいい様にされた後ですけど」


「言い方…!」


「心を取り戻したミルリが私の思う通りに動く体に絶望しながら堕ちていくとこまでが私の計画です」


「いらない計画性の高さ…!」


ミルリは気力もないはずなのに、長年の反射で思わず突っ込んでしまう。

それが良くなかったのだろう。

ミルリの瞳に翳りが広がっていく。


クライはミルリの手を両手で包む。

思えば、手だけは拘束しないが、何か理由でもあるのだろうか。

いや、単なる彼なりの美学なだけなのかもしれない。


「だから安心してくださいね。

私、慈しんで堕としてさしあげますから」


くすくす笑うその声は弾んでいる。


「愉し、そ」


「ええ、ホントに嬉しいですし。

目の色とかもっと私に近づけたいなーとか思ってましたし、あと味覚も私に合わせたいな、と!」


「ええ…変態じゃん」


「それは以前も聞きました。

他の言葉で罵ってくださいよ」


「うわ、まぎれもない変態だ…

あ、そうだ。なんで、手はくくんないの?」


「え、………な、なんででしょうね!」


わずかに頬を赤めるクライ。

そんな可愛い反応、この100年で初めて見たんだけど。


「もしかして、手を繋ぎ」


「そろそろ時間ですよ!!

起きたらもがきながら私に溺れてくださいね」


「え、」


「ーーーーー愛してますよ、我が最愛の弟子」


あの日と同じ柑橘の香りが鼻孔をくすぐる。

私まだ告白してない、そう返事もできないままに柔らかいものが唇に押し当てられた。


「良い夢を」


一方的な宣告とともに私の意識は闇に沈む。

次起きたら伝えなくちゃ。

私は遠い未来に思いを馳せながら、どんどん暗闇に堕ちていった。












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