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私はヒロインサポーター~ヤンデる悪役様のため、純なヒロイン育成します~


一つの物語に、一つの結末。

可能性は無限で、一人ひとり望んだ結末は違うのに、結末はたったの一つなんです。










「あなた、誰…?」


ピンクブロンドの髪をたなびかせて、不安げに私を見上げる少女。

ふむ、乙女ゲームの主人公らしく愛らしいお顔で、お目目ぱっちり。

小柄で、…なにより重要なことですが、魔力は光属性。


この子が今回のヒロイン。

私が導く少女。


「人に名前を聞くのなら、自分から…ですよ、お姫様」


「私?私はセイレン!」


あら、簡単に名乗ってしまいました。

ヒロインだからこそいいものを、それ、他の人がやったら単なるカモだからね。

まあ、良いと思うよ。…御しやすそうで。


「私はミルリ。ミルリ・アーサバル。

大賢者クライ様の最後の弟子にして、その跡を継ぐ者」


「ミル、リ…?」


私は悲しげな雰囲気を演出し、眉根を寄せる。


「…そして、彼を滅ぼす者でもある」


「…?なんでそんな辛そうな顔、してるの?

嫌なら滅ぼさなくていいじゃん。

仲直りしようよ!」


セイレンの瞳に映る私は、微かにほほ笑む。

セイレンを騙すため、いばらの道を歩ますため、…己が目的を果たすため。

うむ、苦し気に笑う青を宿す美少女。

外見にも助けられてはいるが、結構いい演技なのでは?


「無理なんです、彼は闇に落ちてしまったから。

闇に落ちればその魂は魔の王のもの。

彼は天に上ることもできず、暗い暗い闇の中をさまよい続ける」


「そんな…!」


「でも、助ける方法はある」


セイレンの目が輝く。

毎回思いますけど、ヒロインって会ったこともない人の話を初対面の人にされて、なんでこう感情移入できるんでしょうね。

まあ、大丈夫ですよ、セイレンもここからの話にはかかわりますから。


「光」


「ひかり…?」


「光の乙女が現るとき、闇はその手に抱かれん」


私は、セイレンの手を両手で包む。


「ミルリ…?」


「闇を照らせるのは、光だけ。

貴方にはその力がある」


「っ!

ちが、私は光なんかじゃない!

この力は私もママも、リオルも不幸にした!

こんな力が光であっていいはずがない!!」


「いいえっ!

貴方は光です!

誰かを思いやる心を持つものが光でなくばなんと言う!

お願いです、私とともに来てください。

魔王を倒すのです。

魔王は貴方の対極であるとともに、貴方の運命を示す者。

貴方たちが迫害され、それでも善意を失わずに生きて、生き抜いた意味はその運命の中にある!」


これが物語のエピローグ。

これがセイレン、貴方の定め。

私も、貴方も、誰も、変えることができない呪い…


【物語】は始まった。













「…っていう感じですよ、こっちは」


私は後の大賢者ミルリ・アーサバルの役目を一旦終え、彼と合流した。


「こっちもぼちぼちですよ。

いや、病キャラなだけあって少々扱いにくいかな」


私と同じ賢者の証のフードをかぶった優し気な男は苦笑いした。

なんとも頼りなさげだが、この男の「ぼちぼち」は、私の成績のはるか上を行くのだ。


「まったく、先生が今回は敵側のサポートだなんて、独立早々ついてないなぁ。

ヒロインちゃん、負けるの確定かもしれないけど、なるべく素敵なバットエンドにたどり着けるようにするから安心してね…!」


「それは安心するべきところではないね。

というか、最初から負ける気でいるな。

当たって砕けてみろ」


「砕けたらだめですよ…

私は勝てない勝負はしたくないのにい。

どーしても避けられないからその中で最善を行こうとしてるんですう。

そもそも敵側のサポーターが先生なのが悪いんですよ。

あ、今は師匠と呼ぶべきでしたかね?」


私と同じ青を宿す瞳を細める彼は乙女ゲームの登場人物らしく恐ろしく顔が整っていうのだが、派手な印象はない。

そういうやらかす属性ではないし、目が痛くならない目の保養タイプのイケメンだ。

…うん、自分で言っておいてなんだが、何を言ってるんだろうな。


まあ、注目してほしいのは顔じゃなくて、賢者のフードだ。

私のには白にオリアン国の紋章が入っていて、ところどころに刻まれている輝線がきれいだ。

だけど、先生のは、漆黒。そして刻まれるは闇の魔術、魔王の刻印。


闇に落ちた大賢者、クライ…その人だった。


そろそろ私たちのことも説明しようと思うが、私たちはいわゆる乙女ゲームのサポーターだ。

乙女ゲームには無数の未来への可能性があり、私たちはそのゲームの分岐点、ルートを作るため、その乙女ゲームの世界をめぐり、サポーターとして対象を補助する。

そうしてできた一つのルートがどこぞの開発者に届き、そのルートをもとに別の可能性を開発者がその発想力で勝手に作ってくれる。

故に、私たちがそうゲームをめぐるのは一回だけ。

やり直しはきかず、キャラたちはその後もその世界で人生を歩む。

つまり、私たちのせいで不幸になる人がいても救えない。

そもそも乙女ゲームは複数の男がたった一人の少女に思いを寄せるわけだから、そのゲームが始まった時点で誰かしらが不幸になることは約束されている。

しかし、わたしたち、時空天使が介入しないと物語は始まりもせず、消滅する。

だから、私たちはそれぞれの人物にチャンスを与える。

私をヒロイン側に、先生をヒール側に。

ヒロインでも、悪役でも勝つ可能性は平等なのだ。

まっ、今回に関しては、時空天使新入生に、最上級時空天使を差し向ける管理局に苦情をかけたいけどね!


そして、もう一つ言うならば、時空天使は責任ある立場だから、生まれたての魂は知識が足りず、なれない。

私は転生者だ。

別に全員が転生者ではないらしいけど、「それ以外」については私は何も知らない。

まあ、おそらく、このふんわりとした笑みを浮かべる男が「それ以外」に該当するのはわかるけどね。

私が時空天使研修生の時の担当だったんだけど、この人、ほんと何者だろうね。


「いえ、先生で構いませんよ。

師弟関係はその呼び方でも通りますし、あまり呼びなれないのもお互い困りますしね。

あ、私を師匠と呼ばないのは、自分で私を殺すそのけじめとか、そういう設定でどうです?」


確かに、言ってることは理にかなっているけど…


「私が先生を殺すなんて不可能では?」


物理的に。

むしろコテンパンにやられる未来しか見えない。


「まあそこはお手並み拝見ですね」


のほほんと何でもないことのように言う先生。

ちょっと殺意が沸いた。

しかし、殺せない。

心象的ではなく、物理で。

もう一度言う。

物理で、だ。


ごめんね、セイレンちゃん。

せめて素敵な悪役様との闇落ちエンドで幸せになって…!

私はセイレンのいる方角に手を合わせる。


「また変なこと考えてません?」


訝し気に私を見る先生の呆れた視線が痛い。

だ、だってしかたないじゃないですか!

私が先生を殺すだなんて、レベル1でなんの装備もせずラスボス戦に挑むようなものですもん!!


でもヒロインは幸せにしたいって思ってますよ、勿論。

だから、私はちゃんと計画を立てました。

えっへんです。

題して、




『私はヒロインサポーター~ヤンデる悪役様のため、純なヒロイン育成します~』




です…!






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