恋焦がれ
その日の気分次第で変わる短編記念すべき二作目や
青い、夏空の下。離れ離れになるけれど、ずっと一緒だと言ってくれた彼は、今では私にとって遠い存在となってしまった。
あれから五年間の間で、何があったのだろうか。知りたかったけど、彼の周りには人が多過ぎて私には分かり得なかった。
働いている美容院でお客さんの髪を切る私に対して、あの人は世界的な音楽家だ。世界に認められた音楽を作るのだから、私とは天と地程の差がある。彼の元には美人女優さんがつくんだろうなあ。
『ーー今朝、あの有名音楽家が授賞式のために帰国されました』
正午、バックヤードで偶然見ていたニュースに彼が映っていた。
「…帰ってたんだ」
連絡くらいくれれば良いのに。
心中でムスッとしながらも、休憩を終えて店に立つ。とは言っても、今日はかなり客足が少ない。ずっと立ってるだけで終わるんだろうなあ。先輩従業員も同じく暇を持て余している。
前屈みになってスタイリングチェアに後ろからもたれ掛かった。支えがあった方がやっぱり立つのが楽だ。
不意に、チリンチリンと店のドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ」
ゆっくりと振り返る。そこで目を疑った。
「あれ、ユイ?」
懐かしい、男性の声。間違いない。
そこに立っていたのは、遠い存在だった彼なのだ。
ほな、ありがとな