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約束の月  作者: 星川護
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episode.1 妖の存在


 私には、10年前のある期間の記憶が無い。そもそも、10年前のことを、強く印象づけられていない限り、はっきり覚えている人間自体、ほとんどいないだろう。



 私は、一定の期間の『記憶がない』ことと、その事に『気づいた』ことを覚えている。身に覚えがない程汚れ、嗅ぎなれない匂いを纏っていて。


 神社の神主さんや両親、神主さんの息子の幼馴染のセイ、そのほか、うちの家族や神社に関わりがある大人たちに囲まれていて。


 ケンカしたはずのセイと、私の母に抱きしめられて。何も覚えていないことを告げても、怒らず、逆に泣き続け抱きしめられて、私の頭や背中を撫で続けて。


 混乱状態で泣くことが出来なかった私も、ようやく泣けるようになって、3人で抱きしめ合いながら、泣いた。

 

 その手には、私たちの家が封じる『本』が握られていた。





 『彼』に名前を呼ばれた時、ふと、『その匂い』が思い出された。

 もしかしたらアレは、妖の匂いだったのかもしれない。実在していたんだ。きっと、あの頃の私は、妖に襲われて何とか生き延びれて、その恐怖を記憶の奥に強く仕舞ったのだろう。


 だが、どうする。

 この美しい妖、とても強そうだ。人に化けられる上、私のことを認知している。知能も高そうだ。

 確か妖の捕縛専用の御札があったはず。セイが毎月、妖を信じていない私に押し付けるように渡す霊験あらたかな御札が。

 でも確かアレは隣の私の部屋に…。隙をついて、取りに行くしかない。しかし、私の部屋には、『あの本』も…。『本』だけはどうにかして護らなければ。


 カレナは、じっと機会を伺いながら、策をたてている、立ち向かうような瞳を、その男に向けていた。



 するといきなり、どかどかと私の背中の方から、台所から足音が、私の母の足音が響く。そして母は思いっきり、私たちのいる居間の戸を開け、棚の引き出しを開け、目的のものを手に入れたのか、「あったあったぁ」とそのまま台所に戻ってしまった。


 私は唖然としながら、少しの間動くことが出来なかった。どうにか飛びかけてた意識を持ち直し、件の男を再び見上げる。

 彼は真正面からでなくとも美しく、その瞳は、母が消えた方を見ていたが、私の視線に気づいたのか、こちらへ両の眼を向ける。瞳を動かす瞬間さえも美しい。彼は私に観察するような、考えまで見透かすような紅の瞳を向ける。


 そうしてカレナは思い当たる。ただの妖ならカレナに出会っただけで攻撃し、ちょうどそこに母が居ればそこでもう殺してしまうのではないかと。

 この妖は本能で『本』を手に入れようとするモノたちとは違うらしい。

 ならば、と。


 カレナはスっと立ち、彼に背を向け、隣の自室の勉強机の引き出しを開ける。そこには御札が束ねられていて、カレナはそれを手に取り引き出しをしまう。

 ごくりと息を呑み、一息おく。



 そして勢いよく振り返り、力を込めて叫ぶ。


 「捕縛せよ!!」


 ほのかに翠色の光を放ちながら、御札は力を持って、男に飛んでいく。男は全く表情を変えずに、左手で懐から、緑の紐飾りの付いたナイフを静かに取り出す。

 カレナは、男が取り出した刃物に怯えながらも、御札に念を込める。


 男は、ナイフを持っていない腕、右手を1度強く握り、その後、腕をだらりとさせ、握った手を開いた。


 男の紅の目には。

 御札とカレナを直接繋ぐ力、そして至る所から蜘蛛の巣のように、カレナに繋がる補助魔力の翠色の糸。

 御札から放たれている薄い橙色の糸が、男の周りに漂っているのが見えた。

 できるだけ同じ力をぶつける。

 男自身の左手とナイフを繋ぐ糸をできるだけ細くする。


 向かってくる御札に、男は、左手で握ったナイフを軽く一振りする。振ったナイフの残影から、黒い霧のような気体が現れ、形を持って御札に向かっていく。


 御札と黒い霧が衝突し相殺される。御札の起こした風により、相殺された力が、緑と黒の霧となって男の方に流れる。

 男の銀色の短髪と黒衣が軽く凪ぐ。居間にあるカレンダーも揺れる。


 何も無かったように男はナイフを懐にしまう。

 対してカレナは、唯一の対抗手段が効かなかったことで、男の影が、大きく恐怖の塊に見えていた。自室には電気をつけていないので、彼の顔は逆光で見えない。はずなのに、その、紅い瞳が真っ直ぐカレナを撃ち抜く。


 恐怖に耐えきれず、カレナは気を失った。

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