第7話 マオ、初めてのお仕事をする
石切場で一騒ぎした後、まだ昼前という事もあり、僕達は父とガオおじさんと一緒に違う仕事場に行く事にした。
あの大きい馬が引くこれまた大きい荷車に、切り出した岩と一緒に乗り込んだ。荷車は村に向かうが、次の仕事場はその途中にあるらしい。
デカポニーの手綱を引く御者のおじさんが、
「こいつらがこんなに機嫌がいいのは初めてだ。」と驚いていた。
朝来た道を戻ってるわけだけど、荷車の上の高い位置から見る景色はまた新鮮だ。
「あー、高い木に邪魔されて、お家が見えないよー。残念。」
と何気に不満を言うと、トトが
「マオ、あれはワザと見えなくしてるんだよ。ね、ラオおじさん。」と父に話をふる。
「ほう、さすがはトトだな。そう、盗賊や敵兵に正確な村の場所が知られないように、うちのように小さな村は高い木の影に作られる事が多いね。」
父に花を持たせる辺りは、さすが「できる3歳児」トト!
しかし、盗賊はまだしも敵兵とは、きな臭い言葉だな。
「へぇー、おっかないねー。」
子供らしくスルーしよう。
「大丈夫、マオはモモが守る。」
モモが守護者モードになって、辺りを警戒し始めた。
「お、おう、ありがとう、モモ。」
肩をすくめるガオおじさんを横目で睨みつつ、オレは考えた。
こんな小さな村なのに、警戒が結構厳重だ、ここは隠れ里的な村なのだろうか。
「みんな降りるぞ!」
目的地に着いたみたいだ。荷車から降りたが、デカポニー達が離れようとしない。
モモが撫でながら
「ん、また行く。」
と説得?した結果、デカポニー達は渋々村に向かって行った。
「ここは開拓中の土地だ。」
林を切り開いた、小さな空き地がそこにあった。
さっきの石切場と違い人は誰もいない。僕達だけだ。
「ここには、切り出した石と、材木の置き場にする予定なんだよ。」
父ラオが説明する。
「そこで…。」
父が急に真面目な顔になった。
「みんな、ここなら好き放題やっても大丈夫だ。」
ん、どう言う事?
「今、ここには、オレ達だけだ、本気だしていいから、ここをお前達で切り開いてみろ!」
「えー?」
正直びっくりした、何がって、父には僕の能力が全てではないにしろバレていた事がだ。
「ここの所、家周りでコソコソいろいろやってたみたいだしな!」
畳み掛けて父がいう。
「見てたの?」
「見なくても、草は綺麗に刈られてるわ、裏庭は穴だらけだわ、壁は一部焦げてるわ。見なくてもわかるわ!」
「ですよねー。」
ついつい、いろいろやりすぎました。
まあ、いつかは皆に言うつもりだったし、手間が省けたと思う事にしよう。
なんかスッキリしたので、トトとモモに呼びかける。
「トト!モモ!やろう。」
「よし!マオ!」
「ん、やる。」
オレは父に訪ねる。
「どのくらの広さをやればいいの?」
「切り開く予定の端には、目印の木に布が巻いてある。結構広いぞ。今日中には無理だ、できる所まででいいぞ。」
「わかった、無理はしないよ。父さん。」
そう口では言ったものの、オレは燃えていた。
トトもモモも燃えているのがわかる。モモはなんかもう守護者モードになってるし。
「まずは、印の木を見に行こう。」
「ん?切らない?」
「モモ、それは切る木の量がはっきりしてから。」
トトが説明する。
「わかった。まず偵察。」
おお、モモ分かってるじゃないか。
「そして、殲滅。」
前言取り消し。
オレ達は、鬱蒼と生茂る林に入り、目印の木を巡って、また元いた場所に戻って来た。
その途中で地面に拾った木の枝で大きい四角を書く。
「これが開拓予定の土地で、ここが今
僕達がいる場所。」
四角の中にバツ印を書く。
「モモはどこ?」
「ん?」
「モモの印は?」
「あー、うん、モモはここ。」
バツ印の横に丸印を書く。
「ん。」
モモが満足したようなので、話を続ける。
守護者モードを解くと、思考も年相応になるのかな?
「既に切り開かれてるのが、これぐらい。」
バツ印の周りに全体の4分の1程の楕円を書く。
オレは枝をトトに渡す。
「トト、モモのアレを効率良く使う場所は?」
トトは四角に丸を書いていく。
「えーと。ここと、ここと…。」
全部で10個の丸が四角を覆う。
「モモ、場所覚えた?」
「ん。」
「よし、段取りを確認しよう。モモが木を倒す。根を引き抜くのはオレ、トトが土をならす。」
「わかった!」
「ん。」
「じゃ、モモ、頼む!」
モモは林の中に入っていく。
「ドドドッ、ドッゴーン!!」
モモが向かった林の中から爆発音が聞こえた。
「マオ、今のはなんだ!」
「父さん、大丈夫。マオが地面に向かって、たくさんパンチを打っただけだから。」
「たくさんパンチ?」
「うん、マオの必殺ワザだって。
ごめん父さん、次は僕の番だ。」
オレはモモの元へむかう。
「モモ、お疲れ。後は僕とトトに任せて、次の場所に移動して。無理はしないでね。」
「ん。大丈夫。」
モモは次の場所に向かって走っていく。
後ろ姿が凄く凛々しい!
モモが去った後には、パンチの跡を中心にして外側に向かって倒れた、たくさんの木。
「たくさんパンチ」の衝撃で折れたり、根から倒れたりしている。
オレの役目は根は掘り起こし、その根と倒れた木を予定地の端に集める事。
さて、モモにあそこまでさせたなら、オレも全力でやるよ。「再現!パワーショベル!」
オレは、パワーショベルのアームの先と手の先が重なるようにイメージした。
手を動かすと「ウィーン、ガシャ」と重機特有の音がする。
「よし!」
オレは木の根にてをかける。
「よっ!」
思いっきり手を引くと、きの根が引き抜かれて、転がる。
その行為を繰り返し、モモが倒した木の根を引き抜いていく。
傍目に見ると、馬鹿力の子供みたいだが、実際は再現した重機がやっているので、オレは力をほぼ使っていない。
重機を再現するなら、コントロールバーで、操作する必要があるんじゃないかと思うかも知れない。
扇風機を再現した時にスイッチを押し間違えて、消そうとしたのが、風力を強くした事があったからね。
でも、あの後オレは練習したのだ!
練習のおかげで、当初は
1.イメージした物を再現。
2.再現した物を操作。
3.結果を実現。
だったのが
1.イメージした物を再現。
2.操作した結果をイメージして実現。
と、ちょっと楽になったのだ!
…と。なんとなくご都合主義のいい訳を誰?相手に説明しつつマオは作業を進める。
「ドドドッ。ドッゴーン!!」
モモが次の場所で、パンチを炸裂させている。10箇所弱、モモはパンチで、きを倒す。その後僕が木や根や石を片づける。
こっちも周辺の根は全部引き抜いた。
「再現!ブルドーザー!」
別に口に出す必要はないし、叫んだところで、ブルドーザーは目に見えないのだが、やっぱり言ってみたい。
3歳児だし。
倒れた木や木の根、大きめの石を、根こそぎ端に寄せる。
体の幅を超える範囲の物が一塊りに寄せられていく光景は、なかなか魔法っぽい風景だ。
「トト、後はよろしく。」
邪魔な木はなくなったが、地面はまだ穴だらけだ。
それをトトが土魔法で、綺麗に慣らしていく。
オレはモモが木々を倒した次の場所に向かう。
お昼をちょっと過ぎた頃、そこには綺麗に整地された空き地が出来ていた。
木々や根が端々に寄せたままになっているが、とにかく、この地を切り開いた。
モモ、トト、オレはヘトヘトで、土の上に大の字になっている。
お腹減ったー!
「お前達、凄いな。良くやった。
何より、目的に向かって、計画し、段取りを決めて、実行する。しかも1人1人の得意な事を組み合わせてだ。
父さんは心底、感心したぞ!
まさか、今日中に終わらせてしまうとは。」
「だから言っただろ、「やれるところまで」なんて言ったら、こいつらは意地になって今日中にやるに決まってるだろうが。」
父とガオおじさんに、褒められたが空腹と疲れであまり耳にはいらない。
そこに、綺麗な透き通る声がする。
「あらー、綺麗になったわねー。」
「まあ、本当にうちの子達がやったのね。」
声の方を見ると、大きなバスケットを持った母さんとユアさんがいた。
「お弁当持ってきたわよー。」
オレはトトとモモに言う。
「もう、ひと働きしようか?」
5分もしないうちに、木や岩でできた簡単な椅子とテーブルが出来上がった。
その上に布を敷いて、お弁当を広げる。
小麦粉を水でといて焼き、ジャムを挟んだクレープみたいなものや、果物、干し肉、お茶。
前世から見るとかなり、簡単なものだが、大好きな家族と親友達と一緒に食べるには十分過ぎるご馳走だ。
オレ達三人の赤ちゃんの時の話とか、父やガオおじさんの失敗談とか、どうってことの無い話が凄く楽しい。
楽しい時間は唐突に終わる。
「さて、ちょうどみんなが集まったことだし、今から三人には大事な話をすることにしよう。」
唐突に父さんが語り出した。