第3話 マオ、いろいろ話を聞くけど、頭に入らない
僕はベッドから出た。
パジャマの上にセーターを来て、居間に向かう。
居間に向かう短い廊下に立てかけてある姿見に気づく
『この世界じゃ、鏡は高価なものじゃないのかな?ん、アレ』
そこに映る自分に違和感を感じる。
「はあ?ええーっ!」
髪の毛の色が、父と同じ真珠のような銀髪になっていた。
落ち着け!髪がなくなったわけじゃない!色は変われどもフサフサじゃないか!イヤ問題はそこじゃない!
コレでなーんとなく話が見えて来た。
そして、なんか面倒な話が待っている気がする。
「はあーー。」
「マオ、何をしている?」
「うおっと!」
ため息に哀愁を絡めようとした直前、自分が沢山の人に囲まれているのに気付いた。
「父さん、い、いえ。髪の毛が。」
なんとか誤魔化す。
「何?今気づいたのか。」
父さんは以外そうに聞いてきた。
「はい、自分の部屋には鏡がないので。」
「なるほど、それでさっきは、皆の様子に驚いていたのだな。そういう事か。
とにかく、こっちにきて座りなさい。
マオの体に起こった事を説明しよう。」
ゾロゾロと皆で居間に行く。
途中、誰かがバンバンと肩を叩いてきた。
誰かと思って振り向くと、ガオおじさんが、必殺の怖い笑顔を向けている。
いや、肩スッゲー痛いし怖いし。
普通の3歳児なら泣くよ、間違いなく。
「マオよ、謝罪は後にしてまずは、3日前の夜にお前の身に起こった事を説明しよう。」
「はい。」
「この世界では子供は3歳にして始めて人として扱われるのだ、それは3歳まで生き残れる子供が極端に少ない事、病気、事故、呪い、様々な理由で多くの子供は3歳前に天に召し上げられてしまうからだ。」
ん、なんか最後にサラッと怖い言葉が入ってたけど、聞き流そう、多分そこはひろげちゃダメな領域な気がする。
「だから3歳の誕生日はことさら大事な日なのだ。そしてマオには聖女からの信託があった。」
聖女?まさかと思ってガオおじさんの横にいるユアさんを見ると、いつものようにニコニコしながら手を振ってくれる。
ユアさんホントに聖女だったのね。
「3歳の誕生日にこの国を救う神の子が覚醒するとな。そしてそれがお前と言う事だ!マオ!」
「ウォーっ!」
僕達家族を取り囲むように立っていた人達が歓声を上げる。
なんか家の外まで人だかりができている。
外からも声が聞こえてくるよ。
イヤ、みんな暇か?仕事とかどうした!
「いえ、父さん僕はただ髪の色が変わっただけで…その…特別な事は何も…。」
オレは精一杯抵抗を試みる。
すると父はニヤっと笑い。
「マオよ、今迄父が話した内容。とても3歳児が理解できる話とは思えないのだが、お前は確実に理解しているようだな。」
もう、父さんのドヤ顔が止まらない。反対にオレの目線はキョロキョロ挙動不振が止まらない。
もう、誤魔化せない、崖の上の犯人の気分だよ。
オレはグッと目を閉じて覚悟を決めた。
「お見それしました父上。このマオ3歳の誕生日に頭にカミナリが走り、今までの知識が数百倍に増えた様であります。戸惑いの余り先程のよいな苦し紛れの迷いごとを口にしてしまい、恥ずかしいかぎりでございます。」
開き直って全力で、それ風の受け答えをしてみる。
今は3歳児だけど、元は年寄りだ!
年寄りの時代劇好きを舐めるなよ!
なんとも締まらないイキリ方だけど。
「お、おう。ま、まーそれはいい。それからその話方は親子の間では堅苦しすぎるからやめてくれ…。
やはり思った通りか。よしわかった。」
「で、マオよ、父もまに詫びなければならない。誕生日の夜、私はお前に魔法を使ってしまったのだ。」
「魔法?」
え?やっぱりあるの魔法。
「そうだ、威圧という相手の精神に作用し、動きを止めたり、失神させたり、場合によっては死に至る事も…。」
「父さん!それじゃ運がわるければ、僕は死んでいたの?」
「イヤ、それは戦場で使う場合だ、マオにはちょっとだけ、イヤ、ホントにちょっとビックリしてもらうぐらいのつもりだったのだが、まさかアソコまで効いてしまうとは思わなかった。ホントにすまなかった。」
「しかし、何故驚かせる必要が!」
「イヤ、それは覚醒にはちょっとした、その…きっかけというか、刺激が必要だと…」
父の目が泳いで聖女ユアさんに向かう。
僕も視線をユアさんに向けると。
ユアさんは白々しくあさっての方向を向いて口笛を吹いていた。口笛を。このタイミングで口笛!しかも「シューシュー」って音出てないし。
「は、母は反対したんだよ、マオ!でもラオに強引に押し切られてしまったの。
こんなか弱い母を許しておくれ、シクシク。」
母さん、シクシクって口で言うもんじゃないし、父さんは「裏切り者!」って顔してるし。
わかりました、いろいろわかりました。
もういいわ。
「父さん、母さん。心を鬼にして、私を覚醒に導いてくれて、ありがとうございます。マオは2人の子供で良かったと心から思います。」
嘘ではない、多分みんなの考えている覚醒では無いと思うけど、僕を愛するが故の行為だろうしね。
「おお、マオ!」
「あー、愛しい我が子」
父と母2人に抱きしめられた。
「ウォーッ!」歓声が上がり、また号泣する声も聞こえて来た。
あ、そうだスッゲー沢山に見られてたんだった。
これは恥ずかしい。みんな早く仕事に戻れよー。
そんな喧騒のなか、一際響く太く通る声。
「皆のもの!聞いたか!マオの声を!神の子の声を!我が一族の復興が早まる事間違い無しであるぞー!」
「ウォーッ!」
ガオおじさんがカッコイイ声で、なんか面倒くさそうな事言ってるー!
いや、お腹一杯です。設定盛りすぎです、精神的に無理です。
そんな神の子の心の声は当たり前にスルーされ、喧騒は家周り一帯に広がってゆく。