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転生したい女の子が異世界転生したら  作者: かえちゃむぅ
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デブ、前世を思い出す

 

 鈍い頭の痛みで目が覚めた。

 薄く目を開けると薄いピンクの天蓋。

 やけに身体が重く感じる。


 あまり開かない目で周りを見ると、真っ白の猫足キャビネットにかわいらしいドレッサーの置かれている。


 私の部屋はこんなに片付いてないしかわいくもない、病院にしては豪華すぎる。

 とりあえず状況を確認しようと目を擦るために近づけた手は、肉の塊だった。


「ひぃっ!」


 私の手が、ぶよぶよになっていた。

 もはやぷよぷよなんてかわいらしいものではない。


 その瞬間、意識が覚醒した。

 私はアクスラヴェル王国公爵家長女レリエル・ノディエ、5歳。

 甘やかされて育ったために性格も傲慢で自分大好きっ子。

 公爵令嬢であるにもかかわらずこの体型。自己管理ができていないどころではないが、これには訳があった。


 レリエルが3歳のとき、大好きな祖母が事故で亡くなった。圧倒的おばあちゃんっ子であったレリエルは悲しみ、部屋に引きこもりヤケ食い。レリエルに甘い両親は、止めることができなかった。

 結果、これである。


 握るとクリームパンと化す手にだらしなく脂肪のついた腕、足も太すぎて見ていられない。

 頬と瞼の上の肉のせいで輪郭は丸く、目が細い。荒れに荒れた肌も綺麗なプラチナブロンドの髪と葵色の瞳を台無しにしている。


 姿見の前に立った私は絶句した。

 ひどい、ひどすぎる。

 ほろりと涙がこぼれた。


 何故か、私はもうレリエルであるということが解った。それと同時に前までの私を遠く感じた。


 ぼうっと鏡を見ていると


「お嬢様!?」


 後ろでドアが開いたかと思うと、誰かが駆け寄ってきた。


「やっと目を覚まされたのですね!ずっと心配しておりました!」


 振り向くと茶色の髪を高く結って緑色の瞳を涙で濡らしている。

 たしか名前は、


「ア、アリア...。」


「はい、お嬢様...!気分はいかがですか?とりあえずまだ横になっていてください!いま旦那様と奥様をお呼びしてきますね。」


 慌ただしく出ていくアリアを見ながらお腹を触る。なんと3段腹である。

 自分のお腹をぷにぷにしていると、


「レリエル...!」


 勢いよくドアを開けて美女が入ってきた。

 プラチナブロンドの髪以外レリエルとの共通点が一切ない。小さい鼻に薄い唇、輪郭もしゅっとしている。見たことのないような美人さんが大きい桃色の瞳いっぱいに涙をためてこちらを見ている。


「...お母様?」


 これがお母さんなんだよなぁ。こんな美女から私みたいなデブスが生まれることってある?

 ...もしかしてレリエル、橋の下で拾われてたりする??


「レリエル心配させないで!!目が覚めて本当によかったわ!」


 ぎゅうっと抱きしめられる。ふわふわしたお母様の身体が、いかにも自分の母親であるという感じがした。

 お母様の温もりを感じていると、ドゴッという音と同時に足で蹴られたドアが勢いよく開きお父様が入ってくる。

 エグい音したけど!?


「.........」


 無言で数十秒固まったまま私を見つめ、ぽろぽろ涙を流した。

 口をぱくぱくさせながらベッドに近づいて来たかと思うと号泣しながら手を握ってきた。


 お父様も上品な紺青色の髪にレリエルと同じ葵色の瞳のイケメンだったが、目の下の隈と疲れ果てた表情でリストラされたおじさんみたいだ。


「よかった...」


 震えた声で言われて、不安にさせたことが申し訳なくなった。

 レリエルすごい、愛されてる。


「心配かけてごめんなさい。私はもう大丈夫よ。」


 2人は一瞬びっくりしたような表情をしたが、笑顔で私を抱きしめてくれた。



 

 両親に手を握られたまま2時間ほど話をしていたが、どうやら私は丸々3日間寝ていたようだ。

 誕生日のパーティが終わった後に倒れるように寝て、それから目を覚まさなかったらしい。


 この国の宰相であるお父様が、私が目覚めてすぐ駆けつけてくれたのには驚いた。娘が倒れてから不安で気が気でなかった為、お休みを貰っていたらしい。


 レリエルにはシリルという8歳の兄がいる。

 お祖父様の金髪とお母様から引き継いだの桃色の瞳がとてもかわいらしい。さらさらのまっすぐな髪質はお父様に似たのだろう。通った鼻梁が高貴な感じを与え、穏やかな性格と整った容姿から学校でも人気らしい。

 ここまでくればもう当たり前だが私にも優しい。

 ブラコン不可避である。


 レリエルの意識が戻った時は初等学校に行っており屋敷にはいなかったが、帰ってくるとめちゃくちゃにかわいがられた。

 ほっぺたにキスされたときは心臓が止まるかと思った。前世の私はショタコンなのだ。


 その日の夜はレリエルの好きな物がテーブルいっぱい並んでいて、3日間の分を補うようにバカ食いした。みんなには笑われたが幸せだった。




 次の日、医者には2週間の絶対安静を厳しく言われたが、もう問題はないらしい。頭痛も一晩寝れば無くなった。

 2人分の記憶があることで最初は混乱していたが、どちらの記憶も安定した結果、前世の私の記憶の方が多かったため前世よりの性格になった。

 庶民派公爵令嬢の爆誕である。



 今の私には昔のレリエルのように使用人に傲慢な態度なんて取れるわけがなく、性格の問題も解消された。

 事情を知っていたとはいえ、あんな振る舞いをしていたにも関わらず大切にしてくれていた使用人達には感謝しかない。



 ただし問題はここからだ。

 なんと私はアクスラヴェル王国第2王子であるノア殿下の婚約者なのだ。この体型で。

 これは王妃様と仲が良かった祖母が私が生まれたときに、レリエルは身分も申し分ないしいい子になるだろうというノリと勢いで結んだ婚約だった。

 祖母の生前、そんな感じでいいのかと聞いたが、ここ20年は戦争もなく情勢が安定しているから安心して欲しいと言われた。



 直近のノア殿下との思い出はレリエル4歳、ノア殿下6歳のときのことだ。

 祖母を亡くして悲しんでいるレリエルを慰めようと屋敷にいらっしゃったのだが、太りつつあったレリエルがこんな姿見られたくないと嫌がった。ひねくれたレリエルはわざと傲慢な態度で王子を出迎えすぐ帰るように誘導。王子も顔を顰めてすぐに帰っていった。

 嫌われたに違いないとレリエルは1日中泣いた。

 それ以来、体調が悪いと言って王子と会うことを避け続けている。

 婚約者でしかも好きでもないデブスに誘いを断られ続けるなんて王子が不憫でならない。王子は御歳7歳であるため学校に行っているが、婚約者が豚であると陰で言われているに違いない。

 どうにかしなければ。



 回想はここまでにして、とにかくレリエルには課題が山積みなのだ。


 1.痩せる

 2.婚約を解消する

 3.ポテトチップスを作る

 4.肌荒れを治す

 5.ポップコーンを作る


 特に重要なのはこの辺りだろうか。



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