プロローグ
私には好きな人がいた。
家が隣で同じ歳だった為親同士の仲もよく、小さい頃からなにかとお世話してきた、所謂幼馴染みというやつだ。
朝が苦手な彼を引っぱって学校に行くのが私の日課だった。大変だが嫌ではなかったし、私がいなかったら生きていけないと笑う彼に満たされていた。
彼に「今週末空いてる?」と誘われたときも二つ返事で快諾し、ドキドキしながら服を選び約束の時間に待ち合わせ場所であるカフェに着いた。彼の前には女の子が座っていた。
「今日は〇〇に俺の彼女を紹介したかったんだよね。同じ部活の1つ上の先輩。お祝いしてくれる?」
その後はあまり覚えていないがおめでとうは言えたと思う。
彼女から告白されたとか、料理が得意だとか惚気られたがそれ以上聞きたくなかった私は彼の小さい頃の話をした。正直あまり話したくなかったが。
恥ずかしそうにしている彼の隣で先輩は笑って聞いてくれた。
帰り道、駅に向かう途中に突然悲鳴が聞こえた。
悲鳴の方で女の人が倒れ、血だらけになった包丁を持った男が走ってくる。彼は私を庇おうとしていたがその男の目には先輩を写していた。私が守らないといけないと思った。
ドンッと先輩を突き飛ばし、包丁を正面から受けた。
深く包丁が入っていくのを感じながらゆっくりと流れていく時間の中で思った。
(今日は最悪な日だった。彼には私が必要だと思ってたんだけど。....彼に愛される先輩が羨ましい。私はこのまま死ぬんだろうなぁ。親孝行もしてあげれなかった。ごめんね。)
足の力が抜けて倒れた私に彼が駆け寄ってきた。
彼は私の名前を呼んでいるようだった。
「彼女のこと、いっぱい幸せに、してあげて、ね」
彼の腕の中で死ねるだけよかったと精一杯笑顔で言ったが涙は止まらなかった。
「....っ!!違う!俺はっ....」
意識が遠のいていく。目が霞んで彼の表情はわからなかった。
(生まれ変わったら、先輩になりたい。彼に愛される1番の人に。)