魔力と自然体
「むむ…」
ゼルミさんに魔法を見せてもらってから一週間。相変わらずアイリスさんとの特訓も続いている。
しかしボク自身でも驚いているのだが、アイリスさんの特訓に…体が慣れてしまった。
いや、流石に完璧にこなしたりはできないよ?ただグロッキーになったのは初日だけで、二日目からはかなり疲れたものの特訓を完了することができた。…そのあと特訓を延長されるとは思っていなかったけれど。
とにかく、肉体/剣技は万全とは言いがたい物のできるようになった。しかしまだ、ボクは魔力の制御――魔法を使うことに混乱していた。
目をつぶって深呼吸をする。片手を前に構える。頭に力を込めて、実際に何かを動かすイメージで。空気中の魔力を感じ、一つになるイメージで。
「…ああ! また失敗した!」
仕方が無いといえば仕方が無いのかもしれない。いままで生きてきて常識的に考えて無いと考えていた物を認識して、さらにそれを使うことなど。
「だめだ…いったん休憩しよう。」
その場に力なく座り込む。やはりこの修行をしていて一番つらいのは精神だ。ずっと特訓していても、何も得られる気がしない。まず本当にこんなことをやる必要があるのか?と疑問に思うこともある。
コンコン
そんな邪念を振り払うかのように、ドアがノックされる。
「…リリー女王。」
「そんなにかしこまらなくたってよろしいのですよ?お邪魔しますね。」
ボクの部屋を訪問したのは、意外なお客さんだった。
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「なるほど。魔術が使えず悩んでいると。」
「はい…ボクが本当に魔術が使えるのかすら疑問に思ってしまって…」
せっかくの機会なので、リリーさんに悩みを打ち明ける。
「…すこし、庭を散歩しましょうか。」
リリーさんの提案で、ボクたちは庭に散歩に行くことになった。
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「うわあ…」
ボクは感嘆の声を漏らす。庭には様々な色の花が咲いており、ほとんどは知らない花ばかりだが、少し日本でも見かけることがあった花がちらほらと見える。魔術とは違った、別の美しさがそこにはあった。
「…玲宮様にとって、魔力、とはどのようなイメージですか?」
不意に、リリーさんから声をかけられた。
魔力。おもえば、そんな物をイメージしたこともなかった。
「なんか、こう…ふわふわしてて、それであってずっしりしてそうな…幻想的な物で…」
あやふやな答えを出す。そんな様子のボクを見て、リリーさんはクスリと笑った。
「私は…魔力とは、ここにあるすべての草木、大空…そんな身近な物だと思っていますわ。」
リリーさんがどこまでも広がる青空を見つめながら言う。
「あまり深く考えなくてもいいと思いますわ?この世界に存在する物…その程度の解釈ですわ、ほかの方も考えているのは…」
なるほど。よくわからん。
…ただ、だいたい何を言いたいのかはわかった。
もう一度魔術の展開を試みる。
今までに無いくらいリラックスして、自然体で。
…ああ。そうか。魔力とは…ボク自身であり、この世界なのか。
………
……
…
…ハッ!
な、なんだろう。今、この世の真理を垣間見た気がする…
まあ、今はそんなことはどうでもいいんだ。
ボクはリリーさんと一緒に微笑んだ。
――ボクの前に、優しい光の柱が、佇んでいた。