風魔法と驚愕
くたくたのボクがゼルミさんに連れてこられたのはあまり光が入ってこない暗い図書室のような場所だった。
「そこに座ってもらえるかの?」
ゼルミさんに言われたとおりに、ゼルミさんと向かい合うようにして座る。
…今のところはアイリスさんのような鬼特訓には見えないな…
「さて…まずはどこから話しましょうかな。」
ゼルミさんはボクが席に座ったのを確認すると、ゆっくりと口を開いた。
「…そうですな、まずは“魔法”がどんな物かを説明もらうとするかの。」
魔法。地球ではもう昔から存在しないとされている、幻想の物。それがこの世界では存在するのだ。
「まず魔法とは、この世界に存在する空気中の魔力を呪文や魔方陣によって一点に集め、そのまま別の物質に作り替え発射する…と理屈上では言われておるが、実際は一流の魔導師でもあまりプロセスはわかっておらんのじゃ。」
ゼルミさんは笑いながら言う。
しかし次の瞬間、ゼルミさんの顔が真剣になった。
「さて、おぬしは厳しいことを言わせてもらうとまだまだ未熟も未熟。そのようでは魔術はおろか、魔力の制御も難しいであろう。」
そういったゼルミさんはもっていた袋の中から紫に光る石と輝くように赤いチョークのような物を取り出した。
「とりあえずは魔術がどんなものかを見ておかなくてはイメージも難しいじゃろ。少しそこで見ていなさい。」
ゼルミさんがチョークで地面に魔方陣を書く。そしてこんどは輝石を手に持って…それを握りつぶした!
異変が起きたのはそのときだった。まず、輝石を握りつぶしたゼルミさんの手から緑色の光が漏れ、部屋の中に風が舞い起こった。かなり強い風で、本棚が今にも倒れてきそうなくらいにきしみ、揺れていた。かなり心配になったけれど、それも二十秒程度で止んだ。そして、ゼルミさんはこちらを振り向いて、満面の笑みで、
「今のが風魔法じゃ。」
といった。
すごかった。語彙力が無くなるくらいには呆然とし、驚愕し、興奮を覚えていた。
ゼルミさんが魔法を見せてくれたのはたったの数十秒。でもボクには、今までの人生のすべての信じられないようなことをすべて一緒にして、それを二倍にしたのよりもすごかった。
この感動を伝えたかった。尊敬を示したかった。
――でも呆然としているボクの口から出たのは、
「ふおい…」
文字同士が言葉を紡がない、三つの音だった。