地獄の特訓
「疲れた…」
誰もいない空間に独り言を漏らすくらいには疲れていた。
肉体は元気なのだが、精神がもう限界を迎えている。前の世界でこんなに注目されることは、
…死ぬ寸前までなかったからだ。
ボクはベッドに体を預け、ごろごろし始めた。
あー。至福。やっぱり寝床でごろごろするのは気持ちがいいな…
コンコン
ボクの至福の時間を邪魔するように、ドアが二回たたかれた。
「どうぞー」
「失礼する。」
ドアを開けてボクの部屋に入ってきたのは…きれいな女の人だった。
鎧を身につけ、腰には剣が差してある。彼女が何に見えるか、というアンケートを出したら100人に99人は女騎士と答えるだろう、そんな見た目の女の人だった。
「はじめてお目にかかる。王国騎士一番隊隊長、アイリスだ。よろしく頼む。」
「よろしくお願いします、アイリスさん。ボクの名前は…」
「国王から名前は伺っている。レン…というのだろう」
…もう何でもいいや。はいはい、ボクの名前はレンですよ、それがどうかしましたか。
「ところで、なんでボクの部屋に?」
あまりアイリスさんがボクの部屋に来た理由がわからない。
「ああ。決まっているだろう?」
ワカリマセン。
「レン殿の能力は私も見せてもらった。しかし聞いた話によるとレン殿は剣を一度も持ったことがないよう。勇者たる物、何か戦う武器がなくしてどう魔王に抵抗できよう。」
アイリスさんは続ける。
「そこで国王は私をレン殿の専属の教師となった。今から…そうだな、二週間で剣術の初歩を覚えるぞ。さあついてこい。」
「え?いまからですか?」
「?あたりまえだろう?」
アイリスさんは当然だろう?という様子でこちらを見ている。
┼┼┼
その後のことは…あまり思い出したくない。たぶんスパルタってこういうことを指すんだと思う…
「ふむ。初日だからこのくらいにしておきますか。」
(や、やっと終わった…)
ボクは安堵の息を漏らす。…冗談抜きで死ぬかと思った。
「お疲れ様です。とりあえず今日は部屋に戻っていいでしょう。」
「あ、ありがとうございます…」
かすれた声でお礼を言う。もう今日はこれ以上は何もできない…
コンコン
…また誰かが来たようだ。
頼む、予想が外れてくれ…
「失礼しますよ…」
部屋に入ってきたのは鑑定士のおじいさんだった。
「自己紹介をはじめにしておこうかの。わしの名前はゼルミ。グレイト王の命令でそなたに魔術を指導することになった老いぼれじゃ。」
「よろしくお願いします…」
外から見れば普通に振る舞っているが、内心はどうか予想が外れてくれと思いっきり祈っていた。
「さて、レイよ。善は急げという、わしの部屋に来なさい。いまから特訓じゃ。」
いやぁぁぁぁ!!
もうかんべんしてぇぇぇ!!
悲痛な彼の心の声は、誰にも届くことはない。彼は疲れた体にむち打って、ゼルミの後をついて行ったのであった。