勇者召喚
―――むかしむかし、このせかいはまおうによってしはいされていました。
まおうはとてもつよく、かたてでやまをうちくだき、いどうするたびにまわりがじゃあくなくうきでつつまれました。
こまったおうさまたちは、さいごのしゅだんとして、いせかいからゆうしゃをしょうかんしました。
―――辺りが騒がしい。
「起きてください、起きてください」
すぐ近くから高い、澄み切った声が耳に届いた。
意識が覚醒しだし、ゆっくりとまぶたを開けると、目の前には豪華な衣装を身につけた女の人や、顔が紙やらひげやら全部真っ白で、まるで王様になったサンタさんのような容姿の人がいた。
そのキングサンタ(仮)はこちらを見ると、今までの寝ぼけたような様子から一転、目を見開き、こちらへずんずんと歩み寄ってきた。
「ようこそ、異世界のものよ。」
断言しよう。開口一番、その低くずっしりとした口調でそんなことを言われると、よほど頭が残念な人か、あるいは全く逆の位置を聞いて十を知るような人物でなくては混乱する。
「ご覧になりなさいお父様!この方は今起きたばかりで右も左もわからない状態!そんな状況でお父様がいきなりそんなことを言われてはこんがらがってしまわれますわ!」
先ほどの高い声の女性がキングサンタ(仮)に向かって口撃を放つ。いまの言葉から察するに、彼女はキングサンタ(仮)の娘らしい。
「…ああ!私としたことが初対面の人の前までこんなことを言ってしまって…」
何かよくわからないけどいきなり頭を下げられた。
「姫様!頭をこのような輩に下げられるとは…」
なんか完全武装しているおっさん…というにはまだ若い男が口を挟む。なんかボクが現在進行形でディスられてるらしい。
「お黙りなさい!この方こそ彼女の啓示によれば異世界からの勇者…無礼なのは貴方の方なのですよ!」
なんかボクのせいでけんかになっているらしい。
「まあまあ、落ち着いて…」
とりあえずお姫様?をなだめる。…よく考えたら敬語じゃなくてよかったのかな。
「ッ!…大変失礼いたしました。遅れましたが、私は リリー・ブレスキーと申します。この国の王女ですわ。そしてこちらが…
「わしがこのエル・ソル王国の7代目国王、グレイト・ブレスキーだ!」
なんとびっくり。キングサンタは王様だったらしい。
「……」
その張本人がこちらを見ている。…そんなに見られると穴が開きそうなんだけど…
「おい!王様が名を申し上げたのだ!おまえもさっさと名前を申せ!」
さっきの兵士みたいな人がこちらに向かって叫ぶ。まあその後お姫様ににらまれてすぐに黙ったが。
そうか名前か。確かに名乗られているんだからこちらも自己紹介をするのがマナーというものだろう。
…やっぱり敬語の方がいいのかな?
…本名を言っちゃってもいいのかな?
「……」
あ。やばい。めっちゃこっちにらんできてる。とっとと自己紹介をしなきゃ。
「申し遅れました。ボクの名前は神薙 玲宮と言います。レイとでもお呼びになってください。」
とりあえず今まで生きてきた中で何回か使ったことがある自己紹介をする。そして何で兵士みたいな人がこっちを目を丸くして見てるのかな?
「ふむ…レイだな。」
あの王様。確かにそう読んでもいいよとは言ったけどまさかボクのフルネーム聞いてなかったなんてことは無いよね?
「はい。そしてボクの本名は神n「さあレイよ。そなたはこのたびこの国…いや世界を救う勇者として我々に召喚された。」
え?召喚?勇者?
ちょっとなじみのない言葉がいっぱい出てきて頭がこんがらがってきたぞ?
それによく考えたら武装している人がいるって言うだけでおかしいし、名前もどう考えたって日本語じゃないのにどうしてこんなに簡単にコミュニケーションがとれてるんだ?
「玲宮様。急にこんなことを言われては混乱するでしょうが、どうかまず最初はお父様の話を聞いてください。」
お姫様がささやいてくる。全く言われているとおりなので、とりあえずは黙って話を聞いておくことにした。
「まずはじめに言っておこう。そなたは…
すでに死んでいる。」
なにそれ。どこぞの世紀末かな?
「そなたは前の世界で死んでしまった。死んでしまった魂は体から離れ、次の人生を見つけるために天へとさまよっていく。しかしこの召喚術によって、そなたの魂をこちらの世界へたぐり寄せた。」
まず地球世界と全く違う常識とかが前提だけど、耳を傾け続ける。
「そしてそなたの魂を体に付着させた。」
???
「…簡単に言えば見た目が違うと言うことだ。」
兵士さんが教えてくれた。確かに言われたとおりに少し肌の色が白くなっている。顔や髪の毛の色は鑑がないからわからないけど。
「ここまでがそなたのことだ。次はわしらが一番の問題、そなたをこの時代に召喚することになった原因である…魔王軍のことだ。」