回復力
がたがたと音を立てながら、馬車はまっすぐと進んでいく。この馬車の馬は普通の馬までは無く、魔物を調教と呼ばれるスキルで仲間にした物らしい。
「勇者様はどこからの出身なのですか?」
「ボクは召還されてこの世界に来たんだ。だからボクの故郷はこの世界には存在しないんだ。」
「…もしかして私変なこと聞いちゃいましたか!?」
「いや、大丈夫。気にしてないよ。」
…あんまり元の世界も鮮明には覚えてないしね。
「元の世界はどんなところでしたか?」
「うーん。まず魔法の代わりに科学っていう物が発達しててね…」
「かがく?それはどんな物なんですか…」
もうちょっと休ませてほしいな、喉がからからだよ…よくそんなに話し続けられるね…
…また直感が働いた。
「ちょっと静かにしてくれる?」
彼女はいったん驚いたような顔をした後、小さな声でささやいてきた。
「どうされたんですか?」
「敵がいるみたい。」
「そうなんですか!?…【直感】のスキルでも持っているんですか?」
【直感】。そう言えば鑑定をしてもらったときにそんなスキルがあったような…もしかして今までのもそのスキルのおかげだったのかな?
「おっと…」
敵が近づいてきたようだ。視野できる範囲では通常のゴブリンが5体と、弓を持ってほかのゴブリンを統制しているゴブリンが1体。おそらく馬車に積んでいる食料につられてやってきたのだろう。
「ゴブリンアーチャーとゴブリンですね。…私戦闘はからっきしなのでお願いします!」
まあそうだよね。商人が戦うのは難しいだろうね。
とりあえずゴブリンを1体難なく倒す。ここでコマンダーがこちらの存在に気がついたようで、あっという間に包囲されてしまった。とは言えど、結局はゴブリンが4体集まっただけ。二匹同時に切り裂き、次のゴブリンを倒してゴブリンアーチャーへと視線を向けた時。
「うぐっ!?」
太ももに激痛が走る。見るとゴブリンアーチャーの放った矢が刺さっており、傷口から血がこぼれ落ちていた。ゴブリンアーチャーはこちらが顔をしかめたのを見るなり醜い顔をさらに醜くして笑っていた。
「なめるな!」
ゴブリンアーチャーに向かって剣を投げつける。ゴブリンアーチャーは突然のことに対応できず、顔を一転驚愕に変えながら消えていった。
「大丈夫ですか!?」
ガレスさんが心配そうにこちらへと走ってくる。
「すみません、私が戦えないばかりに…」
「いや、大丈夫。」
どこかで聞いたことがあるけど、刺さっている矢を抜くと出血がひどくなるから抜かない方がいいらしい。それに勇者の力かどうかは定かではないけれど、痛みも少しずつ引いていってる。
…もしかしたら抜いても大丈夫なんじゃないか?
おそるおそる矢に手を近づけて、一気に引き抜く。
………
おそってくると思った強烈な痛みはなく、その代わりにガレスさんの驚いたような吐息だけがあった。
「…これも、勇者の力なのでしょうか…?」
矢に指されて受けたはずの傷は、もう破れたズボンとそれを赤く染める乾いた血しか残っていなかった。
…勇者って、すごいなぁ。




