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ステラは大学に行き着くや速やかに救護室に連行された。
後頭部の怪我は縫合が必要な程ではなかったものの、今後一週間は激しい運動は禁止ということだった。
毎日走るのが好きだったのに。この世界、自分を苦しめるあの男、義務と苦役から解放された気にさせてくれるひとときだったのだ。
あのじいさん、結局何がしたかったんだろう?
ようやく自分の勤める研究室にたどり着けたのは午後に差し掛かった頃だった。
火薬やよく分からないその他薬品、危険すぎて内容を学長にも明かせないまま溜め込みすぎた彼女のコレクションが山と積まれていた。
巨大な木で出来た構築物が床の上にのっぺりとのさばっていた。
「…誰も来てない…」
助手のマルクスもヴェヌスも、教授のソル爺さんも誰一人いなかった。
無言で歯車の仕掛けに手を掛けた。
ガタンと音がしてつっぱりが外れ、中から凄まじい悲鳴が聞こえた。
「…ごめんマルクス…」
どんな悪魔が着想したか分からない、気味が悪いほど精密に作られた木の船の内側から少年が這い出してきた。
「殺す気か!!」
「…そこで寝てたんだ…」
「押し潰されるとこだったよ全く。」
マルクス少年は彼女を睨みつけた。
「そんなところで寝てるのが悪い。」
背後から声がした。ヴェヌスが肩までの髪をすきながら近づいてきた。
元々地味な作業着が灰を被って野良猫のようだった。
暖炉の中で寝ていたのだろうか?
不思議な少女だった。
「…徹夜だろうが残業代は出ないからね…」
ステラはボソッと言った。
「鬼!悪魔!お前の言い出したムチャな設計に合わせて一晩中こねくりまわしてたんだからな!木削って木削って木削って…パン一切れと水だけで…!」
大騒ぎするマルクスにヴェヌスは掴んだ灰の塊を背中から入れた。
「うぉう!」
跳びすさったところで彼は自分が下着しか身につけていないことに気づいたか、あたふたと部屋の奥に入っていった。
「労組に訴えますよ?」
ヴェヌスがニッコリと笑ってステラに言った。
「労組って何…?」
「メタ的発言の一種とお考えください。」
全く持って不思議な少女だった。
「ところであなたにお会いしたいという方がいるそうです。ソル教授の部屋へお行きください。」
「え?今?」
ステラは放置されたままの図面や工具類を名残惜しそうに見ながら言った。
「そう。今です。」