本当の想い
彼女が入院してから数日が経ち…
「ほらほら、みんな早く席につけ」
「ちぇ〜、今日の授業古文かよ」
「私、瀬戸嫌なんだけど〜」
クラスの生徒からそう言われてるのは、古文教師の瀬戸光春である。彼は、いつも授業がつまらないからと嫌われているのだ。
授業が終わり、次の授業の準備をしていた。次の授業は男女ペアでやるようだが、あいにく僕にはペアになるような仲の良い女子はいない。また、一人になるかと思ったのだが…
「ねぇ、あんた一人?」
「そうだけど?」
「じゃあさ、一緒に組まない?」
「いいけど、なんで?」
「別に、ただあんたが寂しそうだったからね。夏菜が居なくて寂しい?」
「馬鹿言わないでくれよ。 僕がそんな男だと思う?」
「さあ? あんたのことあんまり知らないし。 でも、夏菜なら特別かなって」
「かもね」
「ふ〜ん」
「で、組むの?」
「組むよ」
「じゃあ、よろしく」
「ふふっ。 あんた意外と面白いのね」
「なんのことかわからないのだが」
「まぁ、わからなくていいよ」
「そうか」
そして授業が始まった。 僕らは先生に組んだ相手の名前を書いた紙を前に提出した。こうして僕らは授業中だけのパートナーとなった。 今日の授業は、パートナーと共に蛙を解剖するという実験のようだ。各グループごとに蛙が配られた。
「うぇ〜。 私こういう気持ち悪いもの無理‼︎」
「じゃあ、僕がやるから見ててよ」
「おっ、男らしいところあるじゃん!」
「別に普通だと思うけど?」
「男でも虫とか生き物を触れない奴だっているでしょ」
「確かに、でも僕は昔から触るのは出来たから」
「へぇ〜」
「まぁ、始めるよ」
「はいはい」
僕は彼女の為に一人で解剖実験を行った。 解剖は初めてだったが、なかなかに面白いと思った。 それと同時にペアを組んだのが夏菜であったら、どんな感じだったのだろうと考えてしまった。 早く学校を抜け出し、会いに行きたいと思っている自分がいた。すると突然、彼女が口を開いた。
「ねぇ、あんた昼休みに屋上に来てくれない? というか来なさい!」
「う、うん。わかった」
「約束を忘れたり、すっぽかしたりしたら承知しないから」
そして、午前中の授業が終わり、彼女との約束の昼休みになった。僕は屋上へ駆け上がっていった。
「ちゃんと来たんだ」
「そりゃあ、君と約束してたからね」
「じゃあ、単刀直入に言うよ」
「うん」
「あんた、夏菜のこと本気なの?」
「何が?」
「何が? じゃなくて、あんたの本音を訊いてるの!」
「そうだなぁ、君が思っているような答えは出せないかもしれないけど、僕は自分でもどうしたいのかわからないんだ」
「はあ? あんた夏菜を馬鹿にするのもいい加減にしてよ!」
「馬鹿にはしてないよ、ただ、今の僕らはそんな恋人とかみたいな関係じゃないと思う。僕も、彼女への気持ちが異性として好きかどうかは、わからないから。そういった意味でさっきは言ったんだよ。」
「だったら、その気持ちを私じゃなく、夏菜に言いなさい! あんたさ、後悔してもいいの?」
「えっ? それってどういう…」
「黙ってたけど、実は私も知ってるの。だからこそ、今しかないの、わかる? 死んじゃったらもう一生言えないし、会えなくなるんだよわかってんの? だから、ちゃんとどんな事でもいいから伝えるって私に誓って!」
「……わかった。君に誓うよ、必ず会って気持ちを伝える。彼女は嫌がるかもしれないけど、それでもちゃんと伝えてさよならしたい」
「うっ、うわあああ〜」
「だ、大丈夫?」
「私、夏菜と別れたくない一生一緒に居たいよ」
「……それは僕も一緒だよ」
校舎の屋上の切ない青には彼女の悲痛の叫びだけが、赤く青から染まりかけている校舎というキャンバスに響いていた。