急な知らせ
先ほどようやく長く感じた昼休みが終わった。そして5時間目が終わり、突然一人の女子が僕に近づいて来た。夏菜の親友の藤咲華恋であった。
「あのさ、夏菜から伝言なんだけど、急に具合が悪くなったから病院に行って来るって伝えろってあんたに言えばわかるからって」
「… そうか。 わざわざありがとう」
「あのさ、ずっと訊きたかったんだけどさ」
「ちょっとごめん」
「あっ、ちょっと。 どこ行くのよ?」
「ごめん、 事情はちゃんと話すから。 あと、先生には早退したって伝えといてくれないかな?」
「えっ? ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「本当にごめん。 でも、行かなきゃいけないんだ!」
「…… わかった。 でも、必ず説明してもらうから」
「ありがとう」
僕はその知らせを受けて、居ても立っても居られなくなってしまった。僕は、ようやく分かった。
僕には彼女が必要だということに…
僕は出せるだけの力を出し、彼女のいる病院へ急いだ。
病院に着いた僕は、受付で彼女が来ているかどうかを訊いた。僕は、受付の女性から、彼女は急遽入院したことを知らされた。僕はすぐに彼女の病室を訊いた。彼女は、503号室に居ると言われた。僕は、病院だと言うのに走りに走った。今思えば、泣いていたのかもしれないが、身なりを気にすることなく503号室のドアを開けた。
「ひゃっ!」
「大丈夫⁉︎」
「… 来てくれたんだ。 うれしいなぁ」
「よかった。 生きてた…」
「何それ? 死んで欲しかったの?」
「いや、むしろ逆だよ。今君に死なれたら僕は困るから」
「なんで?」
「君が言ったんじゃないか、僕の友達第一号になるって。だから、君が死んだら僕はまた友達も大切な人も失ってしまう。だから、何が何でも生きてっ!」
「…… 私って言う存在が君の中でそんなに大きくなっていたんだね。私、すごく今幸せだよ。でもね、私以外に友達を作らないと君は悲しい思いをするよ? 私だけじゃなく、他の男の子とか女の子の友達を作りなさい。これは、助言じゃなく、命令です!」
「ははっ」
「何かおかしい?」
「いや、いつも君は正しいよ。凄く苦しいほど正しくて、美しく、儚い。でも、僕はそんな君を愛してる」
「…… ねぇ、それって私への愛の告白?」
「さぁ? どうだろうね。これは、君の好きな様に解釈して構わないよ」
僕はこの時どうしてこのような言葉が出てきたのかがわからなかったが、きっとこの言葉は、彼女が死ぬまでに僕が伝えたかった本心なのだろう、と僕は思った。
「ねぇ、私からも伝えたいことがあるの。」
「… 何?」
僕は彼女の言葉と雰囲気から嫌な予感がした。
「あのね、落ち着いて聞いてね?」
「… うん」
「… 私の余命は、あと二ヶ月です。」
「…………」
「だからこそ、私は君に仲良くしてほしいの。」
「… やめてよそんな事言うの」
「だって本当のことだし、こればかりは仕方がないの」
「… だったら、やりたいコトを考えておいて。 どれだけ出来るかわからないけど、出来ることは手伝いたい」
「わかった。でも、ちゃんと手伝ってね?」
「もちろんだよ」
僕は必ず彼女との約束を果たすと決めた。僕を変えてくれた『君』の為に何が出来るだろうか。僕に果たして彼女の『一生の思い出』を作ってやれるのだろうか。
だけれど、僕は彼女の為に生きて、彼女が逝くまで側に居ることを決意した。いや、前から決意はしていたが、決意しなおしたというところだろう。僕は彼女や彼女のお母さんの為に決して破らないと心に決めているし、時には神社にもお参りし神様に決意表明もしたりしてきた。だからこそ僕は逃げることは許されないのだ、逃げれば僕はバチが当たってしまう。
「ねぇ、ねぇってば。さっきから何一人で考えてるの?」
「いや、君のことを考えてたんだよ。君は僕とは違い強いなって。僕が病気になって死ぬとなったら、平然としてられないだろうって思ってね」
「それって褒めてくれてるの?」
「うん。そうだよ」
「ありがとう。といっても何もあげられる物は何もないよ?」
「別に見返りが欲しくて言ったんじゃないよ。ただ、本当に君を見ていたらそう思ったんだ」
「…そっか〜。君もちゃんと人を考えられるようになったじゃん!」
「まあね。僕も大人になったということだ」
「違うでしょ‼︎」
そんなことを言うと、彼女からの鋭く素早いツッコミが飛んできた。
「はい。すみません」
僕はすぐさま彼女に謝った。
「そろそろ暗くなってきたね。もう帰ってもいいよ?」
「いや、もう少し居るよ」
「私と一緒に居たいの? うふふっ」
彼女はそう言うと僕にいたずらな笑みを浮かべた。
「そうかもね。君は、もうすぐ僕の手の中から居なくなってしまうからね」
「君ってたまに難しいことを言うよね」
「そうかもね。君の頭には理解できないだろうね」
「むっ、今のは流石の私でも心外だなぁ」
「ごめんごめん。お詫びに僕の持って来たスイカを切ってあげるから、許して」
「えっ⁈ スイカあるの?」
「うん。あるよ。君に持って来たんだよ」
「嬉しい。ありがとぉ〜」
彼女はやはり自分の好物があると子どもの様になってしまうようだ。
そして、僕らはスイカを食べ、暗くなってしまったので、僕は帰ることにした。
「じゃあ、今日はもう帰るよ」
「うん。でも、必ずまたすぐに来てね?」
「もちろんそのつもりだよ。君は僕が居ないと寂しくて死んでしまうからね」
「そんなことありません〜」
彼女は意地になってそんなことを言った。
「そうだね。君の言う通りだよ。そんな事はないね」
僕はそんなことを言うと笑った。こんな冗談を誰かと言い合っている自分自身がおかしかったのかもしれない。そんなことを黄昏時に考えていた自分が居た。