カップル
僕たちは二階にあるショップに入った。店の中はいかにも十代の女子が好きそうな服ばかりであった。薄ピンクに肩がフリフリになっているいわゆるガーリーな服を彼女は選び、試着した。
「ねぇ、これどうかな?」
「どうかな?って何が?」
「だから、似合ってるかってこと」
「似合ってるんじゃない?」
「もう、ちゃんと答えてよ!」
「う、うん。 似合ってるよ本当に」
「本当? ありがとう」
「うん」
「ねぇ、今の私って可愛い?」
「い、いきなりなんなんだよ」
「私ってもうすぐ死んじゃうのにな〜」
「言わなきゃだめ?」
「もちろんだよ うふふっ」
「……可愛いいよ」
「ははははっ」
「何がおかしい?」
「いや〜君が本当に答えてくれるって思わなかったから、照れちゃったよ」
「そっちが言えって言ってきたんじゃないか」
「まぁ、そうですけど?」
「うわ〜 見事なまでに開き直ったな」
「まあまあ、気にしない気にしない!」
「はぁそうですか」(やっぱり調子狂うな)
「ねぇ、私これ買うよ」
「気に入ったの?」
「うん、とっても!」
「そう、それなら僕も付いて来た甲斐があったってもんだよ」
「定員さん、これください」
「はい、かしこまりました。では、三千円頂戴いたします」
「あっ、ここは僕が払うよ」
「えっ! いいの?」
「うん、もちろん」
「でもやっぱり、悪いよ」
「いいから、僕に払わせてよ」
「… ありがとう」
「お礼はいいから」
「では、三千円ちょうど頂戴いたします。お似合いのカップルですね」
「えっ? い、いや僕たちは…」
「はい! ありがとうございます」
「また、お越しくださいね!」
「ぜひ、また来ます!」
そうして僕たちは店を後にした。
「ねぇ、なんでさっき否定しなかったの?」
「さて、何のことかな?」
「ふざけないでよ」
「ふざけてなんかないよ?」
「じゃあ、ちゃんと答えて」
「…… ずっと夢だったの彼氏と一緒に服を買いに行くのが、だからさっきはあんなこと言っちゃった」
「これも死ぬまでにやりたいことの内ってこと?」
「うん」
「… そう」
「ごめん。嫌だった?」
「… 嫌じゃないけど、僕をからかってるって思っちゃっただけ」
「そっか、ごめんね。君の気持ちも考えないで」
「もういいよ」
「… 今日はありがとね。服も買ってもらっちゃって」
「いいよ。これが僕に出来る数少ない君への恩返しだから」
「恩返しって私何もしてないよ?」
「いや、いいんだ。なんでもない」
「変なの〜」
「そろそろ、親も心配するだろうし帰ろうか」
「そうだね。今日は楽しかったよ、ありがとう。また、君とデートに行きたいな!」
「そうだね、僕も君と行きたいよ」
「あれ?やけに素直じゃない? 何か変なものでも食べたの?」
「なんでそうなるんだ? 僕はただ楽しかっただけだよ」
「ふ〜ん? 楽しかったんだ」
「うん、とっても」
「なら良かった。また行くときは君に買ってもらったこの服を着て行くね」
「うん、楽しみにしてるよ」
「う〜ん、やっぱり君が素直だと調子狂うなぁ。でも、いいや。君も変わったってことなんだね!」
「そうだね」
「じゃあ、帰ろっか」
「そうだね」
そう言って僕らは別々に帰った。僕は久しぶりに他人と居て楽しいと感じた。僕は、そんな自分が嫌いじゃなかった。