放課後デート
僕たちは近くのショッピングモールにやって来た。
「君の言っていた行きたいところってここ?」
「うん、夢だったんだ〜 放課後に男の子とショッピングモールデートするのが憧れだったの」
「それならいいけど、何するの?」
「とりあえず、夜ご飯食べない?」
「そうだね。それは君に賛成するよ」
「私イタリアンがいい」
「僕は何でもいいよ」
「じゃあ、決まりね!」
「うん」
そして、僕らはイタリアンのお店に入った。彼女はミートソースパスタを頼み、僕はカルボナーラを頼んだ。
「あっ、来たよ。うわー美味しそう〜」
「確かに美味しそうだ」
「じゃあ、食べようか? いただきます」
「いただきます」
「う〜ん、美味しい〜」
「もう一回訊くけど、こんな事でいいの?」
「もちろんだよ。付き合ってくれてありがたいって思ってるよ」
「そう? それならいいけど」
「うん、本当だよ」
僕達は他愛もない話をしながら、届いた料理を食べひと時を過ごした。彼女は食べながら料理の味を事細かに教えてくれた。そこまでは良かったのだが、僕にまでテレビの食レポごっこをするようにと迫ってきたので、無視しようとしたが駄々をこね出したので、彼女のそれに付き合うことにした。
僕はカルボナーラを一口食べる。
「うん。この口に広がるコクと温泉卵のとろみが相まって深い味わいを生み出しています。ってとこか?」
「……」
「どうしたの?」
「何で私より食レポ上手いのよ?」
「僕もたまにだけど、食レポごっこを頭の中でしたりするからかなぁ」
「ふん、もういいですーだ」
僕はどうやら彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。本当に女子という生き物の心を読むのは難しいとつくづく感じる。
「じゃあ、食べ終わったし、そろそろ行こっか」
「うん、そうだね」
彼女の機嫌はいつの間にか戻っていたらしく、彼女の口調や言葉遣いは穏やかだった。
僕たちは会計を済ませ店を後にした。僕は、彼女の願いにより、次は服を買いに行くことになった。
何故ついていかないといけないのかと尋ねると男の僕からの意見や感想が欲しいとのことだったが、僕は服というものに無頓着なので、力になれないと忠告したが彼女には聞き入れてもらえなかった。
さっそく二階にある専門店街へ近くのエスカレーターで向かうことにした。その時ふと、彼女の発言に動揺した。
「あーあ、私の命も皆んなの命もこのエスカレーターみたいにゆっくりだったらな〜」
「えっ⁈ それってどういう意味?」
「えっ? どういう意味ってそのままの意味だけど?」
「だから、それって死ぬのが恐いって意味?」
「……そうかもね。私も心の奥深くの何処かで恐いっていう感情が住み着いてるのかもね」
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「なんだか、いつもの君らしくないよ。何か病状に変化があったの? 例えば、進行してひどい状況とか」
「ううん。大丈夫だよ。心配してくれてありがと。あっ、そろそろ二階に着くよ」
「…うん。そうだね」
僕は彼女のお目当の服が売っている店までただひたすらに歩き続けた。今日は本当に夕方から歩いてばかりだ。それはまるで、ヒカリの見えない闇の中をただ彷徨っているようであった。長くただひたすら長く、果てしない感じがした。人生は山あり谷ありなどと比喩されるが、本当にその通りだと思う。姿だけ見たら元気などこにでもいる普通の女子高生だが、その奥深くまでは誰もわからないだろう。
僕はふと、人生は甘酸っぱくて、苦いキャンディーのようなものだと思った。