約束
あれから数日が経ち、学校に行く日になった。僕は少し不安だった。彼女とどう接したら良いか僕にはわからなかった。そうこう考えていると、もう学校に着いていた。教室に入ると彼女はいつも通り友達と話していた。そして、彼女は僕を見て近づいて来た。
「おはよ〜」
「うん、おはよう」
「君には今日から私の願い事に付き合ってもらうよ」
「…うん。 でも、あんまり期待はしないでほしい。 僕は君が思ってるほどの人間じゃないから」
「何行ってるの? これは君にしか頼めないし、君にしか出来ないんだよ」
「なんで君は僕にそんなにも期待しているの?」
「う〜ん、なんでだろう? でも、なんとなく君なら私の願いを叶えてくれるって思ったの」
「… わかった。 できるだけやってみるけど、叶えられなかったらごめん」
「私は、きっと君ならできるって思ってる。だから、お願いね私の『救世主』君」
「僕は君の『救世主』…か」
「うん、そうだよ。 君だけが頼りなの」
「じゃあ、今日は何をすればいい?」
「う〜ん。じゃあ放課後に発表しま〜す。 だから、放課後残っててね?」
「わかった」
こうして僕は彼女の願い事を叶えるために奮闘することを決めた。彼女が余命を全うするまで付き添うと。
そして、僕は彼女との約束を果たすために、放課後一人教室に残って居た。一人で居る教室は少し気味が悪かったが、騒がしいクラスメイト達が居ないので静かでもあった。すると一人の足音が聞こえて来た。
「あっ、ごめん。待った?」
「うん。待ったよ」
「あのさー 普通女の子には嘘でも今来たところって言うのがマナーでしょ?」
「へぇ? そんなマナー初めて聞いたよ」
「もう、本当君って性格腐ってるよね。もう偏屈を通り越して、君自身が腐ってるんじゃない?」
「かもね」
「はぁ。もういいよ。君と話し合っても無駄みたいだから、さっそく行くよ」
「どこに行くの?」
「いいからいいから」
「君はいつも強引だなぁ」
「何か言った?」
「いえ。何も」
「そう。じゃあ出発だ〜」
「はいはい」
こうして僕らは学校を出発した。校門を出て右に曲がったところの横断歩道を渡り、そのまま真っ直ぐ住宅街を歩き、一軒の家に着いた。真っ白く大きな家で門までが大きかった。彼女は当たり前のように門を開け、学生鞄から鍵を取り出しこの家の鍵を開けた。
ここはどうやら彼女の家らしい。僕は彼女から家に上がるよう促され、素直に従った。お邪魔しますと玄関先で挨拶をすると、奥から一人の女性が出て来た。
その女性は僕と彼女を見るなり、家に上がるよう急かし、リビングへ通した。僕はリビングのテーブルにケーキと紅茶を出され、僕は感謝しそれを頂いた。
長距離でもないが歩いて来たので、小腹と喉が渇いていたので、これは僕にとってはありがたいおやつタイムであった。ここでやっと僕は彼女のお母さんに会話らしい会話をするために、口を開いた。
「いきなりお邪魔した上で、このようなものまでいただきありがとうございます。僕は夏菜さんのクラスメイトの大薗冬樹と申します」
「ええ、あなたのことは夏菜からよく聞いてるわ。この子に付き合ってくれてありがとうね」
「いえ。こちらこそお世話になっているので」
「夏菜、いいお友達を持ったわね」
「でしょー。すごく面白くて、一緒に居て楽しいの。だって私の『救世主』君だから」
「何その『救世主』って」
「彼ね、私の事情を知ってるの」
「えっ⁉︎ 夏菜が話したの?」
「うん。そうだよ。彼はね、人に言いふらすような人じゃないからいいかなって思ったの」
「…そう。そういうことなら安心したわ。夏菜が考えてしてるなら好きにしなさい」
「うん。ありがとうお母さん」
「お母さん、僕は絶対に言いふらすような真似はしないので、安心してください」
「ふふっ。それはあなたと話していてわかったわ。私はあなたを信じるわ」
「ありがとうございます」
「お母さん、私達他に行くところがあるからもう出るね」
「あら、そうなの? まだゆっくりしていけばいいじゃない」
「ううん。私達には時間が無いの、だから早くいろんなところに行かないと一生行けなくなっちゃうから」
「…そうね。悔いの残らないようにしなくちゃね」
「うん。わかってくれてありがとう。じゃあ、お母さん、行って来るね!」
「うん。楽しんで来てね」
「本日はお邪魔致しました」
僕は玄関を出ようとしたら、彼女のお母さんに呼び止められた。
「あの子はああやって元気に見せてるけど、本当は弱い子なの。あの子は一人じゃ生きていけないの。昔から、人に頼らないと生きていけない子なの。だから、あの子が死ぬまで出来れば一緒に居てあげてほしいの」
「はい。わかっています。もちろん最初からそのつもりですし、夏菜さんとも約束をしましたので、約束を果たす決意と決意したので」
「……ううっ。あの子は幸せね」
「えっ?」
「だって、こんなにも優しい友達が居るんだもの」
「……僕はお母さんが思っているほどの人間じゃありません」
「いえ、あなたは立派な人間よ」
「何故です?」
「だってあなたは、目の前に死ぬってわかってるあの子がいても逃げずに普通に接してくれてる。これってね、出来そうでなかなか出来ないことなの。私なら怖がって避けちゃうかもしれない」
「…そうですね」
「そうよ。だから、あなたはもっと自信を持っていいのよ」
「ありがとうございます。励みになりました。では、彼女が待っているのでそろそろ行きます。本日はいろいろありがとうございました。また必ず近いうちにお邪魔します」
「ええ、そうね。あの子と一緒にまた来てね。じゃあ、デート楽しんで来てね」
「で、デートなんかじゃ…」
そう反論しようとしたら、もう彼女のお母さんはそこには居なかった。そこにあったのは悲しみに包まれた虚だけであった。
僕は彼女の後ろを追いかけて次の目的地を目指した。