懐かしい思い出
あれから僕らはしばらく歩いた。
「着いたよー」
「ここってカフェ?」
「うん、そうだよ」
彼女は、勝手がわかっている為か店に軽々と入っていく。
「ここってよく来るの?」
彼女はしばらくの間考えるようにして
「うん、小さい頃からね」
「ふ〜ん、そうなんだ」
「いいから入るよ」
「はいはい」(いつも強引だなぁ…)
「いらっしゃい 。あら、夏ちゃんじゃない久しぶりねぇ」
「うん、おばちゃん久しぶり」
いきなり出迎えてくれた年配の女性は、彼女からおばちゃんと呼ばれていて、どうやら顔見知りのようだ。
「見ない間に大きくなったねぇ元気にしてた?」
「うん、おばちゃんこそ元気だった?」
「もう歳でね、体のいたるところが痛くて痛くてね」
「大丈夫なの?」
「ええ、心配ないわ。それより、その子は学校の友達かい?」
「うん、そうだよ。…… そうだよね?」
「え…う、うん」
僕はいきなり彼女からそう言われ動揺したが、おばちゃんのてまえ彼女に話を合わせた。
「おばちゃん安心したわ仲の良い友達がいて」
「やめてよおばちゃん、それってまるで私が友達がいないみたいじゃん」
「うふふ、ごめんなさいね」
「それより、いつもの席でいつものお願いできる?」
「ええ、わかったわ」
それからしばらくして
「はい、お待ちどうさま」
「いつものっていうのは、このサンドウィッチのこと?」
「うん、そうだよ。おばちゃんの作るサンドウィッチが昔から好きなの。まぁ、いいから食べて食べて」
「じゃあ、いただきます」
「どう? 美味しい?」
「うん、すごく美味しいよ」
「それは良かった」
「じゃあ、どう美味しいの?」
「…君は僕に食レポでもしろって言ってるのかな?」
「さあ? うふふっ」
「それとも君は僕が困ってる姿を見るのが好きなのかな?」
「それは確かに好きかもしれない。だって君って凄く面白いんだもん」
「ひどいね」
「ひどくありませーん」
「ところでこの後って…」
「君にはまだ付き合ってもらうよ」
「…仕方がないもう少しだけ付き合うとするか。どうせ、僕に拒否権はないんでしょ?」
「当たり〜どうしてわかったの?」
「君としばらくいるだけで、君がどんな人となりかは大体わかってきたからね」
「うふふっ。で、付き合ってくれるってことでいいのかなぁ?」
「うん。僕にはその選択肢しか無いみたいだしね」
「本当? やった〜」
「嬉しそうだね」
「そりゃあ、君が素直に従ってくれるとは思わなかったから。ありがとう」
「別にそんなのいいよ。で、これから何処に行くの?」
「うふふっ。それは秘密だよ〜」
「秘密って…」
「まぁ、いいから早く食べて行こうよ」
こうして僕らはおばちゃんのカフェを後にし、次の目的地に歩み始めた。その時心地よい風が僕らを包み込んだ気がした。気のせいかもしれないが、僕には初めてのことだった。外で鳴いている蝉の声、初夏の生暖かい風、隅田川を渡っている舟までもが愛おしく思えた。