◇閑話 甘いものは別腹
デート回です。
ギルド大会から一週間が過ぎた。
ライラノールの花が街中を彩って、春の本番を告げる。私は、窓から見えるライラノール並木を眺めながらシリウスさんが亡くなってから毎年、なぜか手元に届く差出人不明の誕生日プレゼントを棚の中に並べた。プレゼントが届きはじめて今年で三年目。三個目の品が棚に増える。ライラノールの淡いピンク色が綺麗な可愛い小物だ。中には小さなアクセサリーを入れられるような実用的なもの。
可愛くて、彩が美しく、日常的に使えるもの。私好みのプレゼント。
シリウスさんからの贈り物だと勝手に思ってはいるものの、亡くなった人が現世に贈り物を届けるのは不可能だ。だからこれはありえないこと。それでも、そう思い続けるのは……きっと送り主もそう思って欲しいと望んでいるような気がしたからだ。
……だから、詮索はしない。
部屋でのんびりと思いをはせていると、ギルドの方からリーナの呼ぶ声が聞こえた。扉を開けて返事をしながらギルドの方へと顔を出すと。
「シアちゃーん、お邪魔するわね」
「ジュリアス様? それに……」
騎士隊服ではなく、私服に身を包んだジュリアス様。そして、同じく私服姿の。
「やあ、シア。体は壊していないだろうな」
「ベルナール様」
品の良い仕立てだが、一般市民が着るような服でベルナール様が立っていた。といっても、着ている人間が絶世の美貌の持ち主な為、まったくといっていいほど民衆に紛れないだろうけど。
「ベルナール様こそ、お怪我は? 一時入院したと聞きましたけど」
「大げさにされただけだ。大した怪我じゃない一日泊まって出た……まあ、ミレディアの方はしばらく大人しくしていなければいけないだろうが」
「そうですか……」
ギルド大会で私達が勇者が率いるギルドと決勝を戦っていた最中、会場の中ではとんでもないことが起きていたらしい。元々は、騎士団に協力する影とかいう私にはよく分からない組織がもたらした情報で、ベルナール様達が密かに動いていたらしい。情報は確かだった。あの大会には……魔人が絡んでいたのだから。
「それで、今日はどうしましたか? なにかご依頼が?」
ギルド大会で優勝したおかげで知名度が一気に上がった私達の元にはここ一週間ですさまじい量の依頼が舞い込んでいる。といっても、興味本位のものが多くて、かなりどうでもいいような雑用みたいなものも多い。事務員とかもいないうちではあっという間にパンクなので、いったんジオさんのところを通して処理してもらっている。まあ、管理の一部委託だ。そろそろ本腰を上げて増員をしたいところである。
うちに入りたいって人もいるにはいるんだけど、こちらもやはり興味本位な人がほとんどで採用には至っていない。人員を増やすならギルドも広い場所に引っ越す必要もあるし……やることは山積みだ。そんなうちの現状を知ってか、目まぐるしい一週間だったこの期間、ベルナール様達は訪ねてこなかった。あちらもあちらで忙しかったのもあるだろうけど、魔人がかかわっていたという例の情報についてはまだ詳しいことを聞いていない。騎士団の方針で隠す案件ならしょうがないけど、私も魔人に大会でかかわっているし事情聴取くらいはされると思っていたのだ。
もしかしたらその件かとも思ったけど、彼らは私服だ。騎士団として事情を聴きにきたのなら職務として隊服を着ていないとおかしい。だから個人的な依頼とかなのかと思ったのだが、ベルナール様は首を振った。
「いや、今日はごく個人的な用だ」
私服だし、そりゃ私用だろうけど……。お茶でも飲みにきたのかな? ジュリアス様も一緒だし、リーナと遊んでくれるとか? ルークも戻ってきたから、ベルナール様的にも気になるかな? 聖剣も見事に折ってくれたし、興味はあるはず。
そんなことを考えていると、なぜかベルナール様がこちらに歩み寄った。思わず後ずさる。
綺麗な顔で、女性を惑わすような意図的な笑顔を浮かべる時は、だいたいこちらに都合の悪いことをしようとしている合図だ。ベルナール様は、女性関係の面倒事にはこりごりしているから絶対に惑わすような顔はしない。でもなんでか、私には仕掛けてくる時がある。からかうのは勝手だが、こちらも人の心を持った乙女である。まったくぐらつかないわけじゃないので、対抗策として無心で般若心経を唱えるのだ。
異世界の教えで、唱えると心が落ち着くんだとか。写経もおすすめである。
「シア、悟りをひらいた顔しても無駄だぞ」
「無駄じゃないですよ。私、死後はラメラスの女神の腕に抱かれてお釈迦様の元で幸せに暮らしながらクリスマスを祝うんですから」
「宗教の合体が凄いことになってるんだが。信心深くないのがまるわかりでいっそ、すがすがしいな」
などという無駄な問答をした後。
「一日、俺に付き合ってくれシア。デートしよう」
予感はしたが、はっきり言われて背筋が震えた。
おかしいな! 私、ベルナール様に叱られるようなことは今回なにもしてないと思うんだけど! 身に覚えないよ、まったくないよ。
もう反射だった、言われた0.5秒後くらいには私の体はルークに方向転換した。
「ルーク!」
「え……また?」
ルークの顔面には『なんでまた巻き込まれてるんだろう』って書いてあった。ごめんね、私は我が身が可愛い。以前もルーク同伴デートは許可されたので、大丈夫--。
「シア、デートは男女二人でするものだ」
「ふぁっ!?」
「心配しなくても変装はするぞ。その為のジュリアスさんだからな」
青ざめた顔でジュリアス様を見れば、彼は満面の笑顔を浮かべていた。
「ふふふ、シアちゃんをおめかしできる絶好の機会を逃すわけがないでしょう! ベルナール君のデートの為なのが、いささか不服だけど仕方がないわね」
パンパンとジュリアス様が後ろの荷物を叩いた。
なんか、大きな荷物があると思ったらそれ全部衣装と化粧道具ですか!?
「ええ! ちょ、無理無理! 無理ですってば!」
「仕事ならば心配することはない。ランディを手伝いに手配しておいた」
「部下を職権乱用に使わないでくださいよ!?」
必死に抵抗を試みるが、この場に私の味方はいなかった。リーナとレオルドはあったかい目で見てくるだけだ。ルークだけが頼みの綱だというのに、筋トレはじめてるし! 裏切者め。
私は情けない悲鳴をあげながら、ジュリアス様に連行され二つ残っている空き部屋でおめかしプラス変装を施された。髪はよく見かける金髪に、魔術で目の色を青くした。こうしてみると出来の悪いリーナの姉みたいだ。化粧も薄く施されて、普段いつも着ているローブから白と青色のふんわりとしたワンピースを着せられる。装いは、王都に観光に来た、おめかし頑張った田舎のお嬢さんだ。薄化粧だけどいつもよりは見栄えの良い顔にはなったかな。
「きゃー可愛い! 個人的にはもっとやりたいけどせっかくの素材を壊すのも勿体ないし。ああ、それにしても本当に可愛いわ。ベルナール君にはもったいないわね」
そのセリフ、世のお嬢様方に聞かれたら刺されるだろうな。
もう、断崖絶壁から落ちるような気持ちで扉を開ければすでに準備万端のベルナール様が立っていた。彼も変装をしたようで、髪は漆黒に目は藍色に変化している。だがしかし、その美貌はどうにも隠せない。澄み渡る青い空みたいな普段の明るい印象から、月明かりの似合いそうなミステリアスな美形にシフトチェンジしただけで、十人いたら十人振り返って一人失神するような確率の姿だ。ベルナール様とは思わないだろうけど、注目度の点で考えると今から胃が痛い。
「じゃあ、行ってくる。夜遅くなる前には帰すから心配しないでくれ」
心配なんて一切していない顔でリーナ達に見送られ、私は鉛を飲んだ気持ちのまま重い足取りでベルナール様とおでかけデートすることになってしまったで候。
他人の振り作戦をしようと思ったが、その前に。
「シア、はぐれると大変だから手を繋ごうか」
「いやだわぁベルナール様、私は恥ずかしがり屋さんなので袖を掴んでますねぇ~」
さっそく他人の振り作戦が読まれたので裾を握ることで逃げおおせた。
私の背中は汗でダラダラだ。春のうららかな日差しではそう汗はでない。だからこれは冷や汗だ。私はこれからいったいどんな地獄ツアーに連れていかれるのかな。
「ではシア、どこか行きたい希望の場所はあるか?」
「え? 決まってるんじゃないんですか?」
「何件か候補は決めているが、シアが選んでいいぞ」
これは今までにないパターンだ。説教デートは強制で、いつも行き場所はベルナール様が決めている。私はその先々で効率的なお叱りを受けるわけですが……。私が選んでいいってどういうことだろう。
「えーっと、ではまず大聖堂に行きます」
「うん」
「司教様の部屋に行きます」
「うん」
「司教様のお膝に乗ります」
「……おいやめろ、早まるな」
「ベルナール様が無理やりデートに連れ出すんですと告げ口します」
「俺が司教様に殴り殺される未来しか見えないし、君も助からない。なにもいいことがないから却下だ」
さすがのベルナール様も司教様には弱いことを知っている。脅しも効かないし、戦力的にも司教様にはまだ届かないんだろう。そうなると本当に司教様って何者だと思うけど。一度、王城で聖女修業をしていた時代にベルナール様と一緒にでかけたことがあるのだが、その先でたまたま司教様に会った。ベルナール様はなにを勘違いしたのか、司教様のことを『シアのお父さん?』と聞いてしまったのだ。髪の色が一緒だったからかな……黒髪はこの国では珍しいから。その時の司教様の顔を私は一生忘れないだろう。一切の感情を排除したような無だった。それがなんでか、今までに見てきたどの顔よりも怖かった。
あの時は、なんて言ったんだっけ……。
そうだ。
『父親になる価値のない男が、誰かの父親なわけがないだろ』
どこかに感情を置き去りにしたような声だった。
それが印象的でずっと私の頭の隅に残っている。ベルナール様もそうなのか、司教様には苦手意識があるようだ。
私、司教様が後見人としてついてくれているけど、あの人のことを良く知らないんだよね。元は海賊だっていう話は本当らしいけどそれ以外はさっぱり。シリウスさんのことも、ぜんぜん……。気軽に話ができる人でもないから、仕方ないけど……いつかは聞ける時がくるだろうか。
「司教様のところ以外で、行きたいところはないのか?」
「特には……」
「じゃあ、プラン通りに行くか」
ベルナール様は地図を片手に歩き出した。王都を守護する王国騎士だから王都の地理には明るいけれど、細かいお店の場所まではさすがに把握していないだろう。確認しながら、彼は一件目のお店に入った。
「お、おお!」
見渡す限り、甘そうなお菓子! お菓子! お菓子! の絶景が広がる。王都でも有名な老舗のスィーツ屋さんだ。お持ち帰りもできるし、併設されているカフェで楽しむこともできる。甘いもの好きな女子なら誰もが憧れる楽園だが、少々お値段が張るのでたまのご褒美に買いに来る人が多い。
私は今の今までずっと貧乏だし、縁のない場所だ。
「好きなものを頼むといい。値段は気にするな」
「ええ!?」
お店はバイキング形式なので、好きなものをとって、お会計すればいい。ベルナール様はトレーとトングを持って、どれがいいか聞いてくる。
「え、えっと……イチゴ、じゃなくてモンブラン……ううん、やっぱりアップルタルトっ」
「イチゴのケーキとモンブランシューとアップルタルト」
「ち、違います! アップルタルトだけです!」
「一つに絞れなんて言ってない。好きに頼めと言った。食べたくないのか?」
「うぅ……」
甘いものの誘惑が思いのほか強力だ。噂にずっと聞いていつか食べに行きたいナンバーワンのスィーツ屋さんだけあり、この誘惑に勝つのは至難の業。
「ブルーベリーパンケーキと生クリームたっぷりの木苺のシューとシュガークッキー」
「言っといてなんだが、そんなに食べられるのか?」
「甘いものは別腹なんです……」
誘惑に敗北しました。完全敗北です。白旗を上げます。
お値段が気になったが、ベルナール様がカード決済したので分からなかった。貴族の人は術式の組み込まれたカードで支払いができる。月に一度、まとめて請求される仕組みだ。
併設されたカフェの座席に座ってスィーツを堪能した。噂通り、とても美味しい。口の中で溶けていく甘さはほどよくて甘いもの好きも満足するほどの一品。お値段が張るだけある。私が幸せな心地でスィーツを楽しんでいる間、ベルナール様はほぼ無言でコーヒーだけ飲んでいた。
「ベルナール様、おひとついかがですか? 美味しいですよ」
「いや、遠慮する」
「あれ? 甘いもの苦手でしたっけ?」
「そうじゃないが、それはシアの為に買ったものだからな」
なんだか楽しそうにニコニコするので、なにも言えなくなった。
……ふむ? 珍しく機嫌が良さそうだな。
私にも原因があるっちゃあるけど、彼と一緒にいる時は機嫌が悪いことが多い。デートだって怒っている時に誘うから、ずっと怖いのに。
疑問に思いつつも、スィーツを平らげると次に向かった。
次は公園にできた移動型のクレープ屋さんだった。ここも雑誌などでよくとりあげられる人気店だ。女性が多く並ぶ中を二人で並んでクレープを買った。ベンチに座っていただいた……美味しい、美味しいんだけど周囲の視線が痛くて残念ながらのんびりと楽しめなかった。原因は隣のイケメンである。さっきと違って多くの目に触れやすいので自然と注目を浴びるのだ。主に女性に。
それに気が付いたのか、さっさとベルナール様は次に移動した。
次は小物とかアクセサリーなどのショップだった。この流れだと好きなものを選んで買ってくれるんだろうかと思ったが、問答無用でベルナール様が選んだアクセサリーを自分で買ってプレゼントされた。私のセンスはいまだに認められない。
「シア、ネックレスはよかったのか?」
「いいですよ。ほら、前にもらった守護石もありますし」
ひょいと首元から出してみせると、ベルナール様はどこかほっとしたような顔をした。
「そうか」
「まあ、あれな呪いはかかってましたけどデザインは嫌いじゃないですし。色も綺麗ですし。このおかげで……あいつに勝てたようなものですから」
「……ラクリスか」
こくりと頷く。
結局、彼の正体については分からずじまいだ。魔人であることは確かだけど……なら本当のラクリスはどうなったのかとか、色々気になる部分はある。
ちらりとベルナール様の顔を窺えば、彼は言いにくそうな顔で溜息を吐いた。
「残念だが、本物のラクリスは殺されていた」
「じゃあ、メノウちゃんやコハク君は?」
「そちらは分からない。あの様子だとあちら側だろうがな」
あの二人からは悪意のようなものは感じられなかった。けれど偽の魔人ラクリスとは妙な絆のようなものがあるように思えた。
「決勝の間、俺達は魔人の襲撃にあったわけだが……そこでいくつか確かな情報を得た」
「情報?」
「一つは、シアも予想はしていたかもしれないが……偽のラクリスはシアが以前、聖獣の森で戦った魔人と特徴が一致した」
「……ジャック?」
私達に言い知れぬ恐怖と敗北を味わわせて消えた不気味な魔人。悪魔のような白い髪に赤い目をしていた。彼には変身能力もあったんだろうか。確かにあの気分の悪くなるようなねちっこさは同じだったような気がする。あんな変態魔人、二人もいたら嫌だし。
「正直、司教様と副団長が来なければ危なかった。俺もまだ鍛練不足だな」
ああ、だからあの場に司教様がいたのか。普段は飲み歩く以外に大聖堂から出ないけど、どうして闘技場まで来ようと思ったんだろう。
「それともう一つ、奴らは個人ではなく集団で動いている」
「前に言っていた、黒騎士とかですか?」
「黒騎士はその場にいなかったが、新たに女がいた。十中八九、黒騎士もかかわっているだろう」
魔人が集団で動いている。
魔人は魔王に従って人間の領土を脅かすけど、ほとんどは魔王領からの侵攻だ。人間の土地に侵入して暗躍しているのは本来はおかしな話なのだ。それが集団、複数人がすでに動いている事実。背筋がぞっとする。
「色々、周囲がきな臭くなるかもしれないが……まあ、注意はしておいてくれ」
「はい」
不安な気持ちで空を見上げれば、もうすっかり暗くなっていた。
「そろそろギルドへ帰そう。遅れるとうるさそうだからな」
「え?」
ぽかんとしてしまった。
帰るという言葉を聞いて、ようやくここまでなんにも怒られなかったことに気が付いたのだ。今日はただただ大好きなスィーツをたらふく食べさせてもらって、アクセサリーまで買ってもらった。ギルド大会での裏話もちょっと聞いたけど、それだけ? それだけの為にベルナール様が私とでかける?
なんの罠だ。
私が戦慄いていると、ちらりとベルナール様が一瞬だけ後ろを気にしてから。
「うお!?」
壁ドンされました。
お隣さんからのうるさいですよアピールじゃない方の、乙女の憧れ壁ドンです。
「色気がない。やり直し」
「壁ドンの反応に、やり直しを要求しないでくれます!?」
意味がわからなかったが、顔を至近距離まで近づけるベルナール様は視線だけで教えてくれた。
--ああ、そういうことか。
よぉーし、ここは女優になったつもりで目でも閉じるかー。
5、4、3----。
「うわあぁぁぁーー!!」
ガラガラガッシャン!
物陰から盛大にゴミ箱を倒して誰かが転がり出てきた。
「べ、べべベルナール様! ちょっと待った!」
慌てた様子で立ち上がって、髪にゴミを乗っけたままの彼は。
「ぶっ!」
「ふっ、あははははは! ちょ、ルーク! 君はなんて期待通りなの!」
「……へ?」
私とベルナール様、お腹を抱えて大爆笑。
ぽかん顔なルークは、なにが起こっているのか分かっていない様子だ。
私は気づかなかったけど、たぶんベルナール様は最初から気づいてたんだろう。ルークが私達の後をつけてたこと。
次第に尾行がバレていたことに気が付いたルークは。
「あああああ」
壊れた魔道具みたいな声を出して蹲ってしまった。耳まで真っ赤だ。
ギルドでは止もしないで筋トレなんかはじめてた癖に、気にはしていたのか。
「ルーク、剣の実力は着実に上がっているようだが、尾行はまだまだだな」
「うぅ……もう、穴があったら入りたい。埋めてくれ」
「ごめんごめん、ルーク。悪乗りし過ぎたから、謝るね」
「ふん……心配して損した」
ルークが拗ねはじめた。
「今日は付き合ってもらって悪かったな、シア。久しぶりに充実した休日だった、楽しかったよ」
「そうですか? 私ばっかりいい思いした一日だったと思うんですけど」
「デートは本来、双方楽しいものだ」
そりゃ、恋人同士のデートはそうでしょうけど。私の中のベルナール様とのデートは説教と同意語なんですが。
「ルーク、俺ばかり楽しんで悪かったな。ほら、土産だ」
「え? 俺に?」
自分用に買ったのかと思っていたけど、どうやらルークに買ったものだったらしい。袋を受け取ったルークは首を傾げながら中身を覗き込んだ。
そしてそっと閉じる。なにが入ってたんだろう。
「本当ならシアをギルドに送り届けるまでがデートなんだが、ルークもいるし無事に送り届ける名誉は譲るよ。じゃ、また」
「あ、今日はありがとうございました!」
手を振って颯爽と去っていく彼の背中を見送ると、沈黙したままのルークを振り返った。なぜか袋で顔を隠している。
「……あぁ、クソ。なんであの人、あんなカッコいいんだろ」
「ふぅ~ん? ルーク君よ、イケメン騎士様からなにをもらったのかな?」
「……内緒だ」
えー、なんだろう。気になるけど、まあ今回はやめておこうか。
「それにしても今日のデートはなんだったんだろう」
「なにって……あれだろ」
「あれ?」
「……ま、あの人なりのシアへのご褒美ってやつなんじゃないのか?」
「え、なんで?」
ルークは遠く空を見上げてから、深くため息を吐くだけでそれ以上はなにも言わなかった。




