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◇39 俺の背中に寄りかかれ

 遅刻ギリギリ--いや、ギリギリアウトみたいなタイミングでやって来た、その男。炎のように赤い短髪は、髪質的には剛毛な部類でサラサラ感はないけれど清潔に整えられていて、美しさではなくしなやかさを感じさせる。きりっとした目元と黄金の瞳は意志の強さを現し、すらりと伸びた長い手足とピンとした綺麗な姿勢は彼の真っすぐな性格を素直に示している。体つきもがっしりして、異国の騎士服であろうそれも見事に着こなし、まるで本当の騎士様のようだ。

 それに合わせ、乗ってきたのはこれまた見事な白馬という。

 彼のことをよく知らない人は、彼を白馬の騎士と勘違いしても仕方がない。それくらいよくできた演出。


 --見える。

 見えるわ! 貴賓席で魔導映像マジックヴィジョンを食い入るように見つめながら狂喜乱舞するエリー姫様の姿が!



 *********


 その頃、貴賓席。


「リンスぅーー! しっかりヴィジョンを映しなさい! 拡大! 拡大! そしてズーム!」

「やってます、やってますから。落ち着いて姉上」

「落ち着いています。ええ、わたくしは落ち着ていてよ弟よ。来る来る詐欺して、結局来ないのね--そう思わせておいての決勝乱入ですよ!? さすがルーク様、ファンを上げて落として舞い上がらせて下さるその特殊ファンサにわたくしは鼻血を禁じえません! 期待、裏切り、振り回し、一周回って白馬! どれだけわたくしを取り乱させれば気が済みますの!? ああ、なんて尊い。わたくしこのまま幸せの沼に沈み、ここに墓標を立てます……」

「どうしよう、姉上の言っていることの一文字も理解できない!」

「ふふふ……乙女ですねぇ」

「姫様、ルーク様の雄姿はわたくし含め、姫様親衛隊のメイド達が余すところなく記録していますので、どうぞご安心して、鼻血をお拭きください」


 貴賓席でひときわ盛り上がる集団。エリー姫、リンス王子、クレメンテ子爵、そしてメイドさん。貴賓席で試合を観戦していた一般貴族達は思った。


 --ライオネル殿下、早く来て! あなたの妹姫、さっさと回収して!


 ライオネル殿下が、城でくしゃみをする確率--100%。



 ************



 阿鼻叫喚だろうなぁ、貴賓席。

 白馬に乗って乱入というイケメンにしか許されぬ行為をした我がギルドメンバー、ルークは身軽な動きで白馬から降りた。


「ありがとな、シュタイン」


 白馬をねぎらうと、言葉が通じるかのように白馬シュタインは一声鳴いて、リンクの上から降りて会場内へと走り去ってしまった。


「え? あれ、大丈夫なの?」

「大丈夫だ、賢い馬だし、ライラさんが待機してるはずだから」


 なんでライラさん?

 意味が分からなくて首を傾げたが、ゆっくりと問答している暇はなかった。


「ずいぶんとド派手に登場したな。でも、よく見たら普通の男じゃないか。恰好で飾り付けてもその貧乏臭さは消えないな。平凡地味同士、お似合いじゃないか」

「……どうも」


 不躾にルークを見回した勇者は、見下した態度で笑った。ルークはちょっとだけ勇者の目を見て、すぐにそらし私を見返した。


「なあ、今からでも選手交代可能か?」

「え……あ、どうだろう……」


 対戦相手が顔を合わせた時点でおそらくは変更がきかない。分が悪い相手と、咄嗟に交代するのは相手に不利だからだ。私と勇者はすでにリング上に上がっているから、ルークへの変更は無理かも……。


「なんだシア、お前が戦うんじゃないのか。逃げてもいいぜ、お前を地べたに這いずり回せないのは残念だが俺はお前のギルドをボロボロにできればそれはそれでいいしな」


 む。

 この男に背を向けるなんて、私の矜持が許さない。それに私は私でケリをつけたい部分もあるし、この男との決着はきっちりつけて二度と私にちょっかいかけられないようにするのは、私のけじめ。


「ルーク、ギリギリアウトで来てもらって悪いけど、私にはやんなきゃいけないことがあるから」

「……ふぅん? あれ、お前ちゃんと飯食ったか?」


 はい? 今、私けっこう重要でかっこいいこと言ったんだけど。返事がおかしくないか。


「食べたわよ、しっかりと」

「そのわりに、顔色が悪いぞ。ん? 待て待て、お前それ以前に痩せてないか? ギルドの予算が乏しくてリーナとおっさんを食べさせる為に、自分が我慢したんじゃないだろうな!? お前、そういうところあるからな! いいか、恥を忍んででも食わなきゃいけない時もある。でないとお前、さらにまっ平になっちまうぞ!?」

「私の断崖絶壁は生まれつきだあぁぁぁ!!」


 しまった。長年のコンプレックスが自動発動してしまった。あえて彼は、どこがまっ平なのか言わなかったのに! グーパンでルークの顔面を殴り倒してしまった。

 けど。


「……やっぱ、体調悪そうだな」


 大したダメージもなく、普通に立ち上がった。修行で鍛えてきたんだろうことは一目で分かる。けれどそれでも私のさっきのパンチには力がなかった。

 どうして、なんでこんなに眩暈がするの。


「大丈夫、よ」

「俺の目ぇ、見て言え」


 ちらりとルークの目を見た。真っすぐでキラキラ輝く綺麗な黄金。少々不愛想で切れ長で、一見すると少し怖いお兄さんだ。でも中身の八割が優しさで出来ている、頭痛に良く効きそうな性格である。それでもその純粋な目で見られると、汚い自分が見透かされるようで苦手だ。


「大丈夫、大丈夫なの。私が勇者と戦って、完膚なきまでにぶっつぶすんだから」

「それ、お前がやんなきゃダメなのか?」

「ダメよ。因縁は私が抱えてるんだから。これからのギルドの安定した未来の為にも必須だから」


 ルークの目は見られない。唇を噛んで目をそらす私の姿はさぞ滑稽だろう。角度的に勇者の視界に私の姿が映ってないであろうことだけが救いだ。

 私は強がることができる。他人に気取られることなくはりぼてを演じて、必死に努力して楽に勝ったように見せかけるのも得意だった。昔から味方のいない環境だ。私は強い。そう周囲に認識させるのがなによりも大事なことだった。今は聖女の力もあって、力の使い方も覚えて、無理を重ねる必要はなくなったけど、それでもいつだって自分の実力以上のものにぶつかる時もある。

 あの時は運よくカピバラ様がいた。

 勇者との戦いは絶望的なんかじゃない。あんな天狗になった男なんか、今の私なら余裕なはずだった。なのになぜこんな時になって体が不調を訴えるのか。


 ……誰かにはかられた?

 考えたくはないけれど、どこかでなにかを仕掛けられた可能性はある。


 でも、それでも私は私とギルドを守る為に、勇者と戦って勝たなくちゃいけない。

 譲りそうもない私の態度に、ルークはちょっと困った顔をしてから、なぜか背を向けた。


「シア、俺の背中に寄りかかれ」

「はあ?」

「あ、背中合わせにな」


 親指で背中を指す彼の意図が読めなくて首を傾げたが、怖い顔で急かされたのでわけがわからないまま背中合わせに彼に寄りかかった。


「うん、うん……そうか、やっぱ小さいな」

「ねえ、なんなの?」


 うろん気な顔でルークを見上げると、彼は一転して笑った。


「なあ、シア。お前の背中にはなにがある」

「えぇ?」

「答えろ。お前の背中にはなにがある」

「る、ルーク?」

「そうだな、俺がいる」


 だからなんだ。


「俺達のギルドは小さいよな」

「そ、そうね?」

「戦うときはいつだって少人数。強敵と対峙するときは、背中合わせもあるよな」

「そ、そうね?」

「お前の背中の男は、お前の背中を預けられる男か」


 合わせた背中が、熱くなった気がした。


「自分の命も、信念も、矜持も、全部、信じて預けられる男か」


 ルークの顔は見えない。

 背中合わせだ、見えるわけがない。

 それでも、駆け抜けた一陣の風は、どこまでも心強い感覚を味合わせてくれた。

 応えるように、私は全身の体重をルークに傾けた。まったく動じないその大きな背中はレオルドとも違う。だけど絶対的な安心感があった。


 そっか。

 私の重い荷物、ルークに持ってもらっても大丈夫なのか。


「なあ、勇者。シアはここまでの戦いで疲れてる。代わりに俺と戦わないか?」


 勇者は、うっすらと笑った。


「いいぜ。シアって奴は、自分が叩きのめされるのには強い癖に、トモダチが傷つくのには弱いらしいからな」


 奪うなら、仲間から。

 底意地の悪い顔をしているのが、ここからでもよく分かる。

 勇者が選手交代を許したので、アナウンスもメンバー変更を伝えた。最終決戦は、ルークVS勇者。私はルークから離れてリングを降りる時に、一度だけ彼を振り返った。

 背ばかりが高くて、ガリガリで、目元まで見えないボサボサの髪の浮浪の青年。そんな面影すらもう見えないくらいに、彼は誰かを守れるような戦士になった。少なくとも、私の気持ちは軽くなっている。

 ルークは私が離れる瞬間に、こう言った。


「大丈夫だ、これは--『俺達』が頑張るやつだから」


 目頭が熱くなるだろ、馬鹿野郎。

 いつからそんなクサイこと言えるようになったんだ。あとで教育的指導だよまったく。

 ああもう、まったく!




 試合開始の合図と共に、ルークは腰の剣を抜いた。大きい剣だったけど、もともとルークは背が高いし、鍛えて体もできているから、剣に遊ばれるようなことはなさそうだ。同時に勇者も勇者の証である聖剣を抜く。綺麗な赤い宝石がはめられた見事な剣。その剣自体に純度の高い魔力が宿っている。


「ベルナールでも、リンス王子でもない。なにものでもない平凡な地味男。俺が負ける要素なんてこれっぽっちもない」

「そうかよ」


 口数少なくルークが返事をする。


「おにーさん……おこってますね」

「そう?」


 リーナの零した言葉に反応してしまった。ルークって不愛想だから普段からちょっと怒っているようにも見えてしまう。だからあれが普通なんだと思ってたけど。


「だがま、我を忘れるような怒りじゃなさそうだ。それよりも怒りもコントロールできてるみたいだな」


 興味深そうにレオルドがルークの様子を語る。

 リーナは頷いた。


「おこっているのに、すごくすきとおってて、きれいで、おうごんのきらきらで……?」


 言葉の途中でリーナは不自然に止まった。青い瞳をいっぱいに開いて、驚いたような顔をしている。


「リーナ?」

「……です」

「え?」

「どらごんさんです。おにーさんの、せなかに……どらごんさんがいます」


 ドラゴンは、チュリーとの戦いで見たけど……ルークの背中にいるっていうのはどういうこと?

 考える間もなく、戦いの火ぶたは切られた。剣士同士の戦いだ、最初は相手の出方を窺うような剣戟がくり広げられる。剣士の動きには詳しくないが、競技場でベルナール様やリンス王子の剣術大会などを観覧したことはある。ベルナール様は圧倒的で、他の追随を許さない強さなのですぐに『強い』と肌で感じられたが……。

 今回も同じ鳥肌が立った。

 勇者の実力は知っている。天狗だろうが、なんだろうが実力的には申し分ない奴だ。強いといって差し支えはない。驚いたのはルークの方だ。


「……嘘だろ」

「寝てんのか、嘘かどうか自分の体に聞いてみろ」


 半年前に彼は、王国騎士団の平団員からなんとか一本とれる程度だった。といっても王国騎士といったらエリートだから、そんな人たちから一本とれるだけすごいことではあるのだけど、それだけでは到底、勇者に太刀打ちはできない。目で、空気ではっきりとルークの成長が感じられた。


「くそっ」


 予想外のルークの実力に焦ったのか、勇者の動きが繊細さを欠け始めた。試し打ちのような戦いから、激しい剣戟へと移り変わっていく。はじめのうちは勇者が押しているように見えた、だけどしだいに拮抗へ、そして勇者が押され始める。ルークはひとつひとつの相手の動きや癖を確かめるように剣を合わせている。

 これは、ベルナール様とリンス王子が練習試合をしていた時に見たことがある。

 実力は明らかにベルナール様の方が上で、リンス王子は彼に勝つ為に冷静に相手を見極めていた。そういう戦いと今が似ている。でも、あの練習試合のリンス王子よりもルークの勇者の剣筋を見極めるスピードが速い。すぐに順応して対策する。だからどんどんとルークに押されていくことになる。


 しまいには、強打をくらい勇者は聖剣を手放し尻餅をついてしまった。

 己の無様な姿に勇者の顔色が青くなる。


「なんでだ、俺は--勇者だぞ!? 聖剣に選ばれた、ベルナールよりも王子よりも優れていると証明された! なのになぜ、こんな貧民なんかに!」


 怒鳴りながらも勇者は懐からナイフを取り出して投げた。だが、それはいとも簡単に弾かれる。


「こんな、こんなところで負けるとかありえない……俺は勝者だ。選ばれた者だ。無能を笑って踏みつけて、見下していいのは俺だけだ--聖剣!」


 大きな一声に、聖剣は応えた。離れても傍についているのが勇者の聖剣だ。ほとばしる魔力が風を起こす。ルークには魔力がない。だから魔法を防ぐ力が乏しい。それに比べ勇者は魔法を扱う能力もある。


「凡人が! 思い知れ!」


 魔力を重ね掛けされた聖剣がルークを襲う。それでもルークは一歩も引かずに迎え撃った。激しい暴風が逆巻き、視界を悪くする。耳にだけ、絶えず剣戟の音が届いた。

 ぶつかり合う衝撃は、とどまることを知らず、地を揺らす。勇者と激戦を繰り広げる知名度ゼロの男の名を会場の観客が叫んだ。熱気が会場中を支配する。


「なんだ、なんなんだ! なんで魔法が通じない!?」

「俺の弱点なんて最初っから分かってるからな。足りない部分が多すぎて、努力してもしても追い付かないが……まあ、形にはなった」


 魔力の風が収まると、肩で息をする勇者と、平然と立っているルークという対極な姿が見えた。勇者は実力はあっても鍛練はさぼりまくっているから、体力はゆうにルークが上なんだろう。


「俺が苦戦だと? --ふざけんな! お前は、お前らは俺にぶざまにやられて、泣いて土下座して謝ればいいんだ。もう二度と身の丈に合わないことはしない、二度と俺の前に面を見せないと」

「身の丈?」

「そうだ! そもそもギルドは身分がしっかりした人間でないと作れない。シアは卑しい身でありながらも家名を得て平民になった。本当ならルール違反だろ、生まれが卑しいんだから。その仲間も、浮浪者、犯罪者の子供、借金まみれの無能な魔導士だ。まともな人間がいないじゃないか」


 その言い草に怒りが体の中で暴れる。だけどレオルドもリーナも黙って見ていた。ルークも感情をむき出しにはしない。確かにギルドを作るには身分証が必要だ。私は運よく、シリウスさんの養子になっていたから身分証を貰えていた。生まれは卑しい。そこは反論しない。

 ……だけど。


「……お前は違うって?」

「そうさ、当たり前だろ。俺の生まれは地方だが貴族ではある。だが不幸にも俺の愚鈍な両親と兄弟は俺を認めなかった。少し毛色が違う、母親の身分が低い……愛妾なら仕方がない、それは理解できた。だが何度俺が、あいつらよりも有能なのだと知らしめても、一向にやつらは俺を認めなかった。だから、俺は勇者の選抜に参加したんだ。思った通り、俺は選ばれた。ようやく家族は俺を認めたよ……俺が勇者だと、選ばれた輝かしい存在だと認めた!」


 聖剣がリングに突き刺さる。勇者の感情の高ぶりを現しているかのようだ。


「突き落としてやったよ。愚鈍な両親も無能な兄弟も。お前達がどれだけこの世のクズか教えてやった。泣きながら命乞いして、俺の栄光と財を求め、這いつくばった。痛快で、愉快で、笑いが止まらなかった」


 はじめて聞いたな。

 勇者の身の上話なんて私の人生において一番不必要なものだった。興味もない。彼の性格の悪さがどこからきているかなんて、知ろうとはしなかった。

 歪むには、確かに理由は存在していたんだろう。だからといってそれで気が晴れるわけないけれど。


「選ばれれば、認められれば復讐も容易い。あとは自由に生きればいいだけだ。俺の道にもう不幸なんて転がってない。邪魔をするな」


 ルークは、少し気の抜けた顔をした。ひとつだけため息を吐いて、頬をかく。


「あんたは、生まれの不幸を聖剣に選ばれることで越えたんだな」

「そうだ! 聖剣と俺のこの復讐心さえあれば、どこまでだって強くなれる。聖剣は俺のこの心を認めてくれたんだ。この復讐心が勇者として何者よりも強くなれる可能性を秘めると!」


 復讐による、自己の強化。

 たしかに負の感情が、強ければ強いほど、仮想敵が大きければ大きいほどその反動は強くなる。聖剣は、それを勇者の力になり得ると判断したのだろうか。聖剣は人格を持たない。心を持たない。武器として魔王を倒せる勇者を選ぶ。それに勇者の質の良し悪しなど介在しない。


「……俺は、さ。浮浪児だった」


 そんなことは知っている、と言いたげな勇者を制してルークは続けた。


「ここに壁があるとする。この一枚の壁の向こうは、とても暖かい。暖炉がある。燃やす薪がある。そしておいしいご飯がある。優しい母親が家族の為に腕を振るった料理だ。家族は会話をする。今日なにがあったか、なんてことはない日常の、面白みもなにもない会話だ。それを笑顔で語ってる。するとそこからは楽しそうな笑い声が生まれるんだ」


 でも、とルークはその壁の手前を指さした。


「俺はずっとこっちだった。外は寒くて、固いパンの一つもない。一枚壁の向こうには俺の欲しいものが全部あるのに、俺はこちら側で寒さに震えながらゴミを漁っている」


 ルークは、怪訝な顔の勇者を見つめた。


「知っているか? 欲しくて欲しくてたまらないものをずっと諦めていたものを手に入れた時の感動を。あのときの気持ちは言葉になんかできやしない。でも、それと同時にそれを奪われる恐怖も生まれた。一度、その恐怖を目の当たりにした。……俺も実は、結構狂気的なんだなって……思った」


 剣が勇者の喉元を狙う。


「大切なものを、手に入れた宝物を奪われる恐怖心と、そこに居ていいんだと胸を張っていられる自信の証

の為ならば、俺はどこまででも強くなれる」


 ルークの剣が光を帯びる。ルークに魔力はない、けれどそれは聖剣のような眩さを放った。


「勝負しよう、勇者。あんたの復讐心か、俺の恐怖心か。誰かの為にとか正道でかっこいいことも言えない、どちらもみっともない、けど正直な心だ。人間なんかぜんぜんできてなくても、目の前の居場所にいられるだけの見栄を張らせてくれ!」


 彼の気迫に、私には見えないはずの彼の黄金に輝くドラゴンの幻影が見えた気がした。

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