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◇34 やったか!?

 一ヵ月ほど前、ラミィ様の元で修行していた、とある日のことだ。


「シア、お前に技を教える」

「技?」


 ラミィ様に嵌められる形で、カピバラ様と過去の記憶の世界を旅した後、カピバラ様にも心境の変化があったのか、私を名前で呼ぶようになったのと同時に一緒に修行もしてくれるようになった。

 まあ、他の人よりも当たりが強いのは相変わらずなんだけどかなりの進歩といえよう。

 修行の中で、カピバラ様は多くは語らなかったけど、古の聖女と共に戦った記憶を辿るように私との連携の仕方を教えてくれていた。カピバラ様いわく、古の聖女よりも私は我が強いから無理に合わせようとはせずに互いのタイミングを体で覚えて自然に動く方がいいとのこと。

 我が強いのはカピバラ様もだと思うけどね。


 言い合いながらも、何度も失敗を繰り返してようやく修行の日程終了ギリギリで仕上げた技。それこそが、カピバラ様と古の聖女が使っていた聖獣と聖女による連携必殺である。聖女はもともと、支援や回復を主に扱い、直接的な攻撃手段を持たない。常に誰かのサポートに回らなくてはいけない為、単独行動は直接的な死を意味してしまうのだ。そんな聖女の為に、女神ラメラスは聖獣を遣わした。

 それがカピバラ様なのだ。

 古の聖女の死後、自暴自棄となったカピバラ様は以降の聖女に力を貸してこなかった。ゆえに、聖女の死亡率はかなり高かったらしい。後の記録を調べたところ、聖女が二十歳を越えて生きた例は少なかった。古くから勇者と婚姻関係を結ぶことがほとんどだった聖女だが、実際に勇者と結婚し子を持った記録はほぼない。

 勇者と聖女の血筋を残すことを女神が忌避している。そう説を唱える者もいたが、時の権力者達は、勇者や聖女の血筋から強い戦士が生まれ、再びの滅びの世で新たな勇者がその血の流れに現れると妄信するものがほとんどだった。己の国で勇者を誕生させる。そんな野心があるからこそあんな古臭い婚姻が残っていたのだ。


 私がそれを知った時、うすら寒い思いだったが、そう簡単に死んでなるものかと強化魔法と防御魔法は極めつくすほど鍛えた。だからこその高速多重掛け強化が可能になっている。聖女の力もあるから、その性能は極めて高く、他の追随を許さないだろうと自負しているし、世辞など絶対言わない司教様も『お前のバカみたいな強化魔法を破るのは、俺でもちと時間がかかるな』といわしめている。

 ちなみに宮廷魔導士と呼ばれる魔導士の中でもエリート中のエリートが防御魔法(シールド)を展開したとしよう、司教様は--拳で割ります。ええ、いとも簡単に。宮廷魔導士様、泣いてたな……懐かしい思い出だ。

 あの人、本来は魔法剣士じゃなかったっけ。魔法剣士ってなんだっけ……ゲシュタルト崩壊しそう。


 話が脱線した、元に戻そう。

 聖女を守る為に作られた技は、多岐に渡るらしいが私が身につけられたのは数種類だけで必殺的な大技は一つだけ。


「--ったく、おめぇはよぉ……古代の聖女(メグミ )が最後にしか覚えられなかった超攻撃必殺を最初に覚えるとか聖女のくせに超攻撃(アサルト)型かよ」

「なに言ってんの。相手のHPを0にすりゃKO勝ちじゃない」

「気絶や捕縛の頭はねぇーのか」

「相手にもよりますねぇー」


 もちろん現在、敵のあの男は超攻撃(アサルト)対象です。気絶や捕縛など生ぬるい。そんなもんはおそらく効かないだろう。場外吹き飛ばしが一番勝ち目がある方法だ。


「へぇ……すごいなぁ。これが聖女の力……眩しい光の魔法か」


 魔人ラクリスが楽し気に笑う。

 聖女の力というと少し違うのだが、そんなことを説明してやる義理はない。


「≪あなた≫にとって聖女の光の力はどんな魔法よりも効果抜群よね?」

「そうだね。特効だろうね」


 彼の足元に流れ出ている闇の魔力のヘドロのような液体が金切り声を上げながら少しずつ霧散している。霧散するときに立ち上る影がまるで死者の顔のようで、耳をつんざく金切り声といい……なんなんだろう、あの不気味な闇魔法。


「……シア、あいつの黒いヘドロには触れるなよ。一気に死者の世界に連れていかれるヤバいやつだ」

「うへぇ、悪趣味」


 聖なる獣であるカピバラ様は、闇の魔力の感知能力が高いようだ。

 そう言っているわずかな間で、私達の準備は整った。カピバラ様は黄金の光に包まれ、その体を大きくしている。といっても形は相変わらず可愛い動物なのだが。カピバラ様いわく、本来の姿はもっとでかくて神々しくて威厳のある獣なのだそう。


「行くわよ、カピバラ様!」

「おうよ!」


 私達を中心に暴風が巻き起こる。魔力の奔流だ、レオルドやアギ君達もそうだったけど大きい魔力が動く時は、風の激しい流れが生み出される。


「……すごそうだけど、射程範囲がまるわかりじゃないかな?」


 確かに、今から大技放ちますよ、と言ってるようなものだしカピバラ様の構えからして型は突進技というのが見て取れる。真っすぐに放たれる技ならば射程範囲外に避ければいい。

 --確かに、私達の必殺技は大砲みたいなものだ。真っすぐにしか飛ばない。

 でもね。


「避けてみればいいんじゃないですかね」

「避けられんならな!」


 爆発的な光の粒子が閃光となってはじけ飛び、日が落ちた空に明るい光をばら撒いた。


『ライトニング・イグニッション!』


 宙に撒かれた光の粒が雷のような姿を宿し、カピバラ様を包み込むと爆発的な威力で敵前方へと猛進した。彼が予想した通り真っすぐな軌道。けれど、避けられるはずもない軌道。

 耳朶がいかれるくらいの轟音が轟き、誰もがその威力に目をつむる。

 次に目を開けた時には--。


『--えぇーっと、会場のみなさま鼓膜は無事でしょーか? 俺かなりじんじんしてるよ』

『シアさんは、治癒術士(ヒーラー)召喚士(サモナー)だと思っていましたが、すごい威力でしたね』

『めちゃくちゃっすよー、かなり丈夫に作ってるはずのリング--今ので半分なくなりましたね』


 視界が開けた先、リングの半分が吹き飛んでいた。

 そう、カピバラ様との連携必殺技『ライトニング・イグニッション』の射程は真っすぐだが範囲は広い。巨大な大砲を放つような感じで、全方位とはいかないがリング上という限定的な場所ならば逃げ場はほぼない。


「やったか!?」

「やめてそれフラグだからカピバラ様」


 オタクで異世界知識も豊富なエリー姫が言っていた。

 やったかは、やってないのフラグだと。


「さすがにあれは避けられないなぁ」


 だから言ったのに、カピバラ様がフラグ立てるから。

 ラクリスはまだ立っていた。けれどリングは吹き飛んでなくなっている。地面に足がついていれば場外負けで、私の勝ちとなる。だがそれも違った。


「なにあれ」


 ラクリスの足元には黒いヘドロが広がり、死人の顔をしたお化けみたいな人形が彼を支える感じで展開していたのだ。人形の足は、地面についているけど。


『反則じゃないですね、選手の足が地面についてないのでセーフです!』


 ということらしい。

 扱いづらそうにしていたのに、咄嗟にうまく闇魔法を形成できたようだ。といってもカピバラ様との連携技が効かなかったわけでもなかったようで、彼の体はかなりボロボロの状態、顔の右半分は血まみれになっている。それでも笑顔を崩さないところがかえって不気味だ。


「この身じゃ、もう動けないかな」

「それじゃ棄権しますか?」

「それでもいいんだけどね。まあ--」


 ぞわりと寒気が背筋を這い上った。

 まさか魔人化するんじゃないかとヒヤリとしたが、そうではなかった。


「シア!!」


 カピバラ様の怒声が飛んだが、私がソレを目視した時には遅かった。黒いヘドロが手のような形を成して私の目の前に現れ、襲いかかろうしていた。

 一気に死者の世界へ連れていかれるヤバいやつ。

 カピバラ様はそう言っていた。触れたらお陀仏。ギルド大会だから、正体が魔人とはいえ騒ぎを大きくしようとはしていないようだから、規定通りおそらくは死にはしないだろうが地獄は見る気がする。

 それよりなにより、ルークも戻ってきていないのにここで負けるわけには!


 無意識に防御魔法(シールド)が展開した。訓練のたまもので、身に危険が迫ると自動発動する。しかしこの自動発動防御魔法(シールド)は性能が低い。黒いヘドロは防御魔法を食い破り勢いは止まらない。重ね掛け、そして強化。詠唱を破棄して発動しようにも意識の回転すら間に合わない。

 --当たる!


 思わず身を引いた瞬間だった。

 胸のあたりから眩しい青い光が溢れだし、ヘドロを吹き飛ばしたのである。


「……え?」


 自分でもなにが起こったのか分からなかった。ぬくもりを感じた胸の部分を探ると、出てきたのは青い宝石のついたペンダント。

 --ベルナール様からもらったペンダントだ。

 ちょっと呪われていたりとベルナール様の少々悪戯が込められた物だが、守護石だというから、言われた通り装備していた。まさかこの場面で威力を発揮するとは。

 ベルナール様に助けられたようでなんだか(しゃく)だが助かった。後で手作りケーキワンホールお届けしておこう。ハッピーバースデイ。そういえば、もうすぐお誕生日ですねおめでとうございます。


「おい、シア! 思考ぶっとばしてる場合じゃねぇーぞ」

「は! そうだトドメ! トドメささなきゃ」

「アホ、トドメさしたら永久追放だぞ。あいつの意識を飛ばせ!」


 相手が相手なので頭の中が殺伐としてしまったが、彼の足元にはなにもないのだから落とせば勝利だ。あと一発でもカピバラ様を突撃させれば崩せる。闇魔法は厄介だけどラクリス本体は先のダメージで動けない状態だ。

 一歩踏み出して、だが視界がぐらりと揺れた。

 --なに?


「シア? どうした」

「いえ、なんでも……」


 違和感が少しあったが、真っすぐにラクリスに視線を向けた。彼は変わらず笑っていたが、どこかつまらなそうな感情もうかがえた。


「仕方ない……ここまでかな」


 ドロドロと闇魔法が崩れていく。彼の負ったダメージのせいか形を保てなくなっているのだろう。私に仕掛けたあの一手が最後だったのだ。闇魔法が崩れ去り、彼は地面に転がった。


『三戦目、シアVSラクリスは、暁の獅子、シアの勝利!!』


 アナウンスの勝利宣言に、私はほっと息を吐いた。

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