☆6 黒鷹の騎士
「し……死ぬ」
「死なないわよ、私がいるんだから」
目標100匹はさすがに届かなかったが、60匹は倒したであろうところで夕刻になったので帰り支度を始める。ルークは全回復しているはずだが、目が虚ろだった。スライムばかり斬り倒しすぎて精神が疲弊したんだろう。ちょっとやりすぎたかもしれない。
だけどそのかいあって、ルークの剣の技量がFからEに昇格していた。これより効率的に上げるにはやはり先生を雇うのが一番だろう。そして実戦を通してレベルを上げていく、この繰り返しだ。
王都に戻ってジオのギルドへ立ち寄る。
ここで仕事達成の報告をして審査の後、正当な報酬が支払われるのだ。
「やあ、シア。調子はどうだい?」
たまたま下でくつろいでいたジオに会った私は、挨拶がてらルークを紹介した。
ジオは嬉しそうにまなじりを下げて微笑む。
「おお、良い人が仲間になったんだね。良かった良かった」
「ジオさん、報酬をもらいたいんですけど」
「いいよ、ついでだから私が報告の仕方を教えよう」
世話焼きの癖があるジオが報酬受け取りカウンターまで案内してくれた。
「まずは依頼書をカウンターで渡すんだ。それから依頼が品物関係ならその品も一緒に提出するよ。魔物退治関係ならギルドカードを提出するんだ」
「ギルドカードをか?」
「そうだよ、ルーク。ギルドカードには魔物を退治した数が記録されるからね。それで討伐数を誤魔化すことは出来ないようになってるんだ。君のカードを見せてもらってもいいかな?」
促されてルークはジオにカードを渡した。
ジオは不思議な魔導機械にカードを通す。
「うん、スライムを63体倒しているね。スライムは一体報酬額が5Gだから合わせて315Gになるよ」
「315G!? すげぇ、そんなにもらえるのか!」
感動しているルークに私は彼と出会った時のことを思い出した。日雇い10Gでパンの耳が食べられるとか言っていた。本当、嫌な世の中だ。
「まあ魔物退治は普通の依頼より単価は高いからね。危険が付きまとうから……。で、シアこの依頼はここで終了するかね? それとも継続する?」
「継続でお願いします。まだルークを訓練させたいし……そうだ訓練といえば、ルークに剣の先生をつけたいんだけれど誰か良い人はいないかしら?」
「剣の先生か……そうだね、うちでは紹介できる人が今いないんだが股掛けで悪いんだけど紹介を出来る人なら紹介できるよ」
「ほんとですか!? できればお願いしたいわ」
「お忙しい人だからね……時間指定はされると思うけど」
「かまいません」
「そうか、じゃあ紹介状を書くよ」
「ありがとうジオさん!」
ジオは一階上の部屋にある執務室に戻り紹介状を書くと、戻ってきて私に渡してくれた。
「これを王宮の騎士団詰所に持っていくといい。取り次いでくれるだろう」
「ありがと……え? 王宮の?」
私の手が止まる。
「そう、なんてったって相手は王宮近衛騎士、黒鷹の騎士の異名をとる騎士団副団長イヴァース・テイラー殿だからね」
「…………あの、ジオさん。それ……大物過ぎじゃないです?」
剣の師匠を見繕う為だけにいくらなんでも副団長は重い。胃もたれする。
「なあ、黒鷹の騎士ってそんなすげぇー人なのか?」
何も知らないルークがぽやっとしたことを言う。知らないって怖いな。
「まあ、一人で一国の敵軍一万人を相手に勝利したっていう逸話がある人だしね」
「一人で一万人!?」
ジオが呟いた言葉にルークが仰天した。
たぶん、尾ひれがついてはいると思うけどそれだけ強い人だという事だ。
「イヴァース様か……」
「おや、シアは副団長殿と知り合いだったかな?」
「ええ、少し……」
聖女として王宮にちょっとだけいたことがある。
勇者の剣の指南役としてイヴァース副団長がついていたのだが、あまりにものスパルタに勇者が音をあげて逃げてしまったのだ。あれ以来、勇者はかなり副団長の事を嫌っている。私にとっては、聖女に選ばれて緊張したり感情が不安定だったりした頃に彼がお菓子を持って来てくれたり、面白い本を紹介してくれたりしてお世話になった。見た目は厳つい怖いおじさんだが、話してみるとなかなか懐の深い、優しい人物だ。
話せば分かる人だと思っている。
だけど剣のこととなると人が変わるのも知っている。
良い人ではあるんだけどなー。
うーんと、私が迷っているとルークがぽんと私の肩を叩いた。
「ルーク?」
「俺、副団長にぜひともお願いしたい。その人ならすげー師匠教えてくれそうだろ?」
「え? 本気?」
「ああ、やるならとことんの方がいいと思うんだ。俺も強くなってギルドに貢献したいし……」
さすが努力の才持ちは違う。
感激した。
ならば、ここからは私の仕事だ。
「分かったわ、ルーク。必ずイヴァース副団長からいい師匠紹介してもらいましょう!」
意気込んだが今日はもう遅いと、副団長の所には明日に行くことにしてジオに沢山お礼を言って、ギルドに戻ると。
小さな女の子がギルドの前で蹲っていた……。